続・やっぱりおかしい大橋さんの話

「でさー。『洗濯物はちゃんと分けて洗いましょう。』とか言ってさ。アイツわざわざ自分の分と分けて二回洗濯しようとした訳。だから、一回でまとめて洗えば楽じゃんって言ったんだよねー。たまにホント変な事を言い出すんだよね。アイツってさ。」


「あー、前にもナカミネくん。いきなり変な事言ってたねー。カタツムリが急に食べたくなったんだっけ?カリンも食べに行きたかったなー。エスカルゴの焼いた奴とか色々!」


「えぇ……。華鈴よくカタツムリなんか食べたいって言えるね。私は絶対無理。正直あれ食べる位ならイカ墨のパスタを食べる方がマシかな。見た目と臭みはともかく、味はそこそこ美味しいみたいだし。」


「だよねー。姫沙羅も言ってるけど、あれは食べる勇気出ないわ。アイツ意外とイケるとか言って食ってたけど……。感想聞いたらほとんど貝みたいな感じとか言っててさ。だったら貝でいいじゃんってメッチャ思ったわ。」


「ほぇー。エスカルゴって意外と貝系なんだー。今度またサイゼ行こうよー。カリンも話聞いてたら食べたくなっちゃった。」


「華鈴マジで言ってる?ま、まあサイゼ行くのは賛成だけど……。え?ホントにカタツムリ食べるの?お金払って自分から?」



 小川さんとの同棲が始まってから約一週間とちょっと経った頃の昼休み。


 俺は昼の始まりから直樹に連れられて購買に向かい、そこでパン等を買って教室に戻って来たのだが、机の周りには小川さんとそのお友達が陣取っており、俺の机は多数の女子に囲まれてしまっている。


 そしてこれまた運の悪い事に、直輝は部活の先輩に廊下で会って少し話をしており、今現在俺は一人ぼっちだという事だ。



「(どうしよう……。当たりだけど小川さんに混ざる勇気なんてないし、かと言ってわざわざ席から退いてもらうのも……。流石に楽しそうに話しているしダメだよな。)」



 そうして、自分の席と手元を確認して、仕方なく教室を後にしようとした……。その時。



「あ、中峰。もしかしてだけど……。ご飯食べる席が無くて困ってたりする?私、あっちの子たちと食べるから……。そこの席は好きに使ってもらって構わないよ。」


「……えっ?古城こしろさん。いいんですか?」


「うん。もあるし、中峰だったら別にいいよ。ちゃんとキレイに使ってくれそうだし、変な事とかしないだろうから。」


「……ん?変な事……?」


「い、いや……。何でもない。じゃあ、私は行くからさ。この前フォローありがとね。」


「えっ?あ、うん。」



 そうして、同じクラスの古城こしろさんから唐突に席を譲られた俺は、とりあえずその席を使わせてもらう事にしたのだが……。


 正直、このようにあまり関わりのない女の子が自分に話し掛けてきた事が数える程しかなかった為、まともな受け応えをする事が出来なかったが、一体どういう事だろう?


 彼女の言動もそうなのだが、妙に俺に優しい態度と言うか……。ハッキリ言ってとても異常な対応をされてしまっている。



「(何かフォローありがとうって言ってたから、もしかすると俺が彼女がする何かを手伝ったりした…とかか?ダメだ……。名前と顔は一致するけど、全く持って彼女との接点を持った記憶がないんだが?

 ま、まあ……。悪く思われていないだけ良しとするか。それに……。こうして席を譲ってもらえて正直かなり助かったしな。)」



 俺はそんな事を考えつつ、机の上に購買で買ってきた昼食を広げようとして……。


 にゅっと横から唐突に現れた小さなお弁当箱とその持ち主の存在に再び驚かされた。


 そして、そのような神出鬼没の登場の仕方をする知り合いは一人しかいない。



「……あの。大橋さん?何度も言いますが、いきなり現れるのは心臓に悪いので止めてもらってもいいですか?と言うか……。いつからそこに?全然気が付かなかったです。」


「うーん。どうしてでしょう。普通に教室の後ろ扉から入って、特に誰かに声は掛けていませんが、中峰くんが帰って来たのを確認してから入ったんですけどね……。」


「いや、それだと普通気付かないですよ……。普通は表扉から誰がいるかを確認して、何なら誰かに声を掛けて呼んでもらうとかするものですから。ま、まあ……。俺に限っては呼んでもらわなくて大丈夫ですけどね。」


「ん?よく分かりませんが……。とりあえず、お昼ご飯を一緒に食べましょう?中峰くんに聞いて欲しい話があるんですよ。」


「えっ?あ、はい。でも、珍しいですね。いつもはゆりさんとお昼を食べているのに。今日はゆりさんとじゃないんですね。」


「あれ?私、中峰くんにゆりちゃんと毎日一緒な事話してましたっけ?まあ、今日は中峰くんに話したい事があると伝えているので、ゆりちゃんとは別行動なんですが……。」


「ああ、それはゆりさんからLINEで聞いたんですよ。ほら、たまにこういう風に近況報告と言いますか……。色々とご連絡もらえるので、それで大橋さんの事も聞いてたんです。」


「へ、へぇ……。それは……。知りませんでした。い、意外ですね。ゆりちゃんとはいつLINEを交換してたんですか?

 あっ、もしかして……。最近私がゆりちゃんに中峰くんの話をしているので、それで直近に連絡先を交換したとか…ですか?」


「あ、いえ。ゆりさんとはもっと前に交換しましたよ?正直、ゆりさんから連絡先を聞かれた時はビックリしましたけど……。こうして、たまに連絡をもらえる事があるとついついやり取りを続けちゃって、気が付いたら家族以外で割と頻繁に連絡するようになったのは自分でもかなり驚いてます。」


「…………そう、なんですね。」



 何だか流れで一緒に昼食をとる事になった大橋さん。彼女の神出鬼没具合にかなり驚かされているのだが……。まあ、それはいい。


 彼女から俺に話したい事があるとの事で、もしかすると、この前のどこか様子のおかしかった時の話でもしてくれるのか?などと考えつつ、俺は世間話がてらに普段の昼食についての話を振ってみたのだが……。


 途中の方から大橋さんの様子が徐々におかしくなり始めて、最後には何だか呆然とした様子で「嘘……。」と呟いている。


 別に嘘をついてるつもりは無いが、まあ、俺も自分が女の子とそれなりの頻度で連絡を取り合っているなんて……。高校入学直後の自分であれば確実に信じないと思うので、この反応も当然と言えば当然かも知れない。


 ーーでも、一体どうしたのだろう?ゆりさんと連絡先を交換して、日々の他愛ない話をしていただけなのだが、大橋さんがこのような百面相をしている理由わけがよく分からない。



 そうして、気も漫ろそぞろな大橋さんを横目に食事を食べ進めて、最後の惣菜パンに手を伸ばそうとしたタイミングで……。シュポ!


 先程、ゆりさんとの会話履歴を大橋さんに見せてから、そのまま開きっぱなしだった画面に新しいメッセージが送られて来て……。



 ーー次話へと続く。ーー

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運命の相手が自分のことを嫌っているクラスメイトだった話。 リン @28118987

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