第4話 グラビティ・ファイア・ブリザード

 美冬みふゆいえまえまでやってきた。昨日きのう今日きょうで、あらわれたらどうおもわれるのだろう?

 出立しゅったつ1日いちにち延期えんきしたとおもわれるのがせきやまか? そうおもうと、すこしおかしくなった。

 先程さきほどった麻薬くすりのおかげで、すこしハイになってきているのかもしれない。

 昨日きのう同様どうように、玄関げんかんのドアをノックした。

 ドアがひらいてかおのぞかせた美冬みふゆたいして、

「よおっ!」

こえけた。

秋人あきひとじゃない? どうしたのよ、こんなきゅうに。もう4年振よねんぶりになるかしら?」

4年振よねんぶり?」

 昨日きのうったばかりだというのに、4年振よねんぶりとは?

 おれ美冬みふゆは、この冗談じょうだん人間にんげんではなかったのだが。

「いや、昨日きのうったばかりじゃないか! 『赤紙あかがみた』って……」

 怪訝けげんかおをする美冬みふゆなにいや予感よかんがした。

 突如とつじょ突風とっぷうが、玄関げんかんのドアを全開ぜんかいにした。

 ドアをつかんでそれをふせごうとしたおれ身体からだもろともだ。

 美冬みふゆ異変いへん気付きづいたのであろう。すきのないころかおになっている。

何者なにものかに攻撃こうげきされているの?」

 素早すばやくついて玄関げんかんからてくる美冬みふゆ

様子ようすてこよう」

 ひとりいえ周囲しゅうい一周いっしゅうするもひと気配けはいはない。

なに様子ようすへんだわ。なにがおかしいの……」

――と。

てっ! ゆき一ヶ所いっかしょあつまってきている!」

 美冬みふゆさけごえ吹雪ふぶき異常いじょう挙動きょどう正体しょうたいいた。

 おれたちの周囲しゅういゆきが、ある一点いってんへとかってんでくるのだ。その一点いってんとは!

 すぐにはわからなかったが、しろくてふわふわしていて、どうにもマシュマロのようにえる。

 おれまえいちメートルほどのところに、マシュマロがいていて、周囲しゅういゆきは、うずくようなうごきでそこにかっているのだ。

 その速度そくど段々だんだんはやくなり、すぐにえる速度そくどえた。

 ゆきうず外側そとがわ見渡みわたすことができなくなってしまった。

あつい……。どういうことなの? 吹雪ふぶきなかにいるのに……」

ゆき空気くうき摩擦まさつねつはなっている!?」

「そんな莫迦ばかな!」

 ゆき空気くうき摩擦まさつねつはなつなど、どれほどのスピードで移動いどうしているというのか? 音速おんそくえる程度ていどでは、そんなことにはならないはずだ。

 熱風ねっぷうれるなか、しかしおれたちや美冬みふゆ住居じゅうきょ樹木じゅもくといった障害物しょうがいぶつけながらゆき高速こうそく移動いどうつづけ、やがておれたちの周囲しゅういすうメートル以内いないからすべてのゆき消失しょうしつした。

 高速移動こうそくいどうするゆき存在そんざいえたため、周囲しゅうい見渡みわたせるようになった。

 まえにあるのは、ちゅうくマシュマロ。そこからすうメートルはなれると雪景色ゆきげしきになる。

 ぎゃくにマシュマロの支配下しはいか圏内けんないってきたゆきは、マシュマロにせられてえてしまう。

「う〜っ、さむいね〜っ! きみたちはこんなさむいところにんでるの?」

 こえのしたほうると、はなたれた玄関げんかんなかはいんで廊下ろうかゆか腰掛こしかけて、玄関げんかんあしろす少女しょうじょ姿すがたがあった。

 左手ひだりてにマシュマロのふくろち、右手みぎてでマシュマロをくちはこんでいる。

 おれ仕留しとめたはずのターゲットだった。

「さて、問題もんだいです。そっちのきみんだかくミサイルと、このふくろはいったマシュマロ。どちらが武器ぶきとして有力ゆうりょくでしょう?」

 少女しょうじょみをかべながら質問しつもんをしてくる。おれはその趣旨しゅし瞬時しゅんじ理解りかいした。ミサイルにえられた反陽子はんようし(3.5さんてんごグラム程度ていどかされている)よりも、ふくろのマシュマロのほう質量しつりょうおおきいといたいのだ。つまり――ふくろのマシュマロの質量しつりょう破壊はかいエネルギーにえられるとっている――

になさい!」

 美冬みふゆにサブマシンガンがあらわれて、その銃口じゅうこうく。

 美冬みふゆ物質ぶっしつ転送てんそう魔法まほう使つかだ。本来ほんらいなら、これでまるはずだった。なみ相手あいてならば、だが。

 はなたれた弾丸だんがんは、先程さきほどゆききつけていたマシュマロのほうへとんでいき、えた。

 とおもったら、今度こんどはサブマシンガン本体ほんたいられ、それをかかえていた美冬みふゆ身体からだちゅうい……。

美冬みふゆはなせっ!」

 とこえけつつ、美冬みふゆってはしる。はなした美冬みふゆ地面じめんたたきつけられるまえに、ヘッドスライディングでめる。

秋人あきひと!」

 ゆきえた地面じめんすべみながらめたおれはダメージをけた。

きみたちの組織そしき莫迦ばかなの? わたしころそうとしても無理むりだってわかりそうなものだよね? わたしおだやかに、カコヨモに小説しょうせついて、その広告こうこく収入しゅうにゅうきていきたいの」

「カコヨモ?」

 おれいに、美冬みふゆおれほうくちひらく。

出版社しゅっぱんしゃ大手おおての『カクカワ』と『くえすちょブログ』がんでつくった小説しょうせつ投稿とうこうサイトよ。って、なんで『宇宙うちゅう最強さいきょう魔女まじょ』が小説しょうせつ投稿とうこうサイトなんかに……」

べつ小説しょうせつこうが、『ヨーチョーバー』になろうがわたし勝手かってでしょ? それよりもきみたち、覚悟かくごはできてるよね? 人殺ひところしにたんだもん。ころされる覚悟かくごだってできてるよね? かくミサイルまですなんて本来ほんらい反則はんそくなんだろうけれど、わたしたいしてだけは反則はんそくにならない、というか、その程度ていどではわたしにはてないんだよね」

 少女しょうじょがる。いたずらっぽいみ。

時空じくうあやつ量子りょうし重力じゅうりょく魔法まほう使つか現在げんざい方向ほうこうからめても勝負しょうぶになるわけないじゃん? 1万年いちまんねんまえさかのぼって、わたしのご先祖せんぞさまを攻撃こうげきしないと」

 美冬みふゆなに武器ぶきそうとしている。おれだって、移動いどう呪文じゅもん使つかって美冬みふゆだけでも安全あんぜんなところに移動いどうさせたいとおもっているのだが、呪文じゅもん発動はつどうしないのだ。

ってくれ! おまえころそうとしたのはおれだけだ。美冬みふゆ見逃みのがしてやってくれ!」

「はっ? そんなのわたしくとでも? さっきの質問しつもんこたえだけれども、結論けつろんただしい。でもきみかんがえは理論りろん物理学ぶつりがくレベルの回答かいとうで、不正解ふせいか〜いっ! そこにかんでいるマシュマロは、太陽たいようよりもおもいんだよ?」

「そんなことあるはずがっ! 物質ぶっしつ質量しつりょう限界げんかいえている。シュヴァルツシルト半径はんけい内側うちがわは……」

 時空じくうのゆがみ――ブラックホール――になる。

「それを制御せいぎょするから、量子りょうし重力じゅうりょく魔法まほうなんだよ☆ いまからきみたちの周囲しゅうい10じゅうメートルないすべてのゆきたいして、そのマシュマロの重力じゅうりょく干渉かんしょうさせるよ。超光速ちょうこうそくゆき総運動そううんどうエネルギーと質量しつりょうエネルギーのは、概算がいさんかる日本にほんばす威力いりょくがあるとおもうな。まあ、加速かそく制御せいぎょするから、そんなことにはならないけれど。秒速びょうそく100ひゃっキロメートルもあれば十分じゅうぶんでしょ? 10秒じゅうびょうだけ時間じかんをあげよう。おわかれの挨拶あいさつでもするといよ」

 周囲しゅういゆきおれたちのほうへと、ゆっくりと渦巻うずま回転かいてんしながら近付ちかづいてくる。おれたちにそれを回避かいひするすべ存在そんざいしなかった。

美冬みふゆ!」

秋人あきひと!」

 なみだながしながらも笑顔えがおせる美冬みふゆをきつくきしめる。

 せめて最後さいごって一緒いっしょこう。

 まれわっても、一緒いっしょに……。

さんっにっいちっ、じゃあね、さようなら。灼熱しゃくねつ閃光せんこうかれてっちゃえ。グラビティ・ファイア・ブリザード!!」

 太陽たいようよりもまばゆ閃光せんこうに、おれはぎゅっとつぶった


 つづく


※シュヴァルツシルト半径はんけい この内側うちがわでは重力じゅうりょくによる時空じくうゆがみが光速こうそくえる。つまり、シュヴァルツシルト半径はんけいとは、ブラックホールの外周がいしゅうということになる。

 シュヴァルツシルト半径はんけいは、地球ちきゅうおもさのブラックホールだと半径はんけいきゅうミリメートル、太陽たいようおもさのブラックホールだとさんキロメートルほどになる。

 なお近年きんねん、ブラックホールには内側うちがわ存在そんざいしないという『ブラックホール・ファイアウォール』理論りろん登場とうじょうしてきている。

 このせつによると、ブラックホールにきつけられた物質ぶっしつは、灼熱しゃくねつほのおかべ激突げきとつしてくされるという。

 シュヴァルツシルト半径はんけい内側うちがわでは、時間じかん空間くうかん存在そんざいないということですな。

 この小説しょうせつではブラックホール・ファイアウォール理論りろん採用さいようしておりませぬ。


超光速ちょうこうそくゆき総運動そううんどうエネルギー アインシュタインの相対性そうたいせい理論りろんでは、物質ぶっしつ光速こうそくえて運動うんどうすることができないとされている。

 ただし、ブラックホールの重力じゅうりょくによる時空じくうのゆがみは光速こうそくえることが許容きょようされている。

 だから、『ひかり脱出だっしゅつできない』のである。


 なお、あたまばされ、身体からだ肉片にくへんし、さらに反陽子はんようし爆弾ばくだん搭載とうさいミサイルの追撃ついげきけた少女しょうじょが、どうしてぴんぴんしているのかは、あとがき講演こうえんをごらんあそばせ。


 ほん小説内しょうせつないの『重力制御じゅうりょくせいぎょ』は魔法まほうによって制御せいぎょしているとしかこたえられませんが、それがこす現象げんしょう自体じたいかんしては、おおむ物理ぶつり法則ほうそくしたがった説明せつめい可能かのうだとかんがえています。

 もし、物理ぶつり法則ほうそくらして、おかしな記述きじゅつ発見はっけんされたかたはご指摘してきをおねがもうげます。

 ある側面そくめんるとただしくえても、角度かくどえてるとたないということはありますよね?

 たとえば、『どこまでいっても平行線へいこうせん』とか? あれは机上きじょう空論くうろんぎません。

 二本にほん平行線へいこうせん地球ちきゅう一周いっしゅうしたら、二ヶ所にかしょ交差こうさします(もし交差こうさしなかったら、ぎゃくにそれは平行線へいこうせんではありません)。

 ウソだとおもったきみはネットで検索けんさくしてみよう。

 何故なぜ平行線へいこうせん交差こうさするかをサラッと説明せつめいしますと、地球ちきゅうほうがっているからです。だから、平行線へいこうせんがって交差こうさし、地球ちきゅう裏側うらがわでまた交差こうさするのです。

 中学校ちゅうがっこうとか高校こうこうなら物理ぶつりとか数学すうがく厳密げんみつにはただしくないものもおおいんだよね。

 理数系りすうけい大学だいがく学部がくぶ学科がっか進学しんがくして勉強べんきょうしたらそれはわかるんだけれど。

 学校がっこう教科書きょうかしょですらただしいものをしめせないんだから、わたしがたまに間違まちがうのもしょうがないよね(わけしてわけ?)

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