第3話 暗殺完了

 翌日よくじつ空港くうこうよりへと旅立たびだった。

 だれ見送みおくられるでもなく、ひっそりとしたものだが、ころというのはそういうものだ。

 それにしても美冬みふゆのヤツ、おんなになっていたな。ころにしとくのがもったいないくらいだ。

 もし、ころなんかになってなくて、美冬みふゆとふたりでらしていけたなら……。

 いかん、いかん! 美冬みふゆのことはわすれよう。いま任務にんむ成功せいこうさせることをかんがえなければ……。

 とおもったところで憂鬱ゆううつ気分きぶんになる。

 自分じぶんぬかもしれない、というだけではない。

 もし任務にんむ成功せいこうしたとしても、おれおもくのしかかるであろう罪悪感ざいあくかん如何いかひところすのが主任務しゅにんむであったとしても、これは……。


 へとち、組織そしき工作員こうさくいん合流ごうりゅうする。

 そして、その工作員こうさくいん運転うんてんするくるま狙撃そげきポイントへと案内あんないされた。

 組織そしき事前調査じぜんちょうさで、優良ゆうりょう狙撃そげきポイントであるとされ、かつ、いままでそこから狙撃そげきした組織そしきころはいないという場所ばしょだ。

 そこではべつ工作員こうさくいんによって武器等ぶきとう準備じゅんびされていた。

 スナイパーライフル『NTW20エヌティーダブリューにじゅう』。

 有効ゆうこう射程内しゃていないでの破壊力はかいりょく狙撃銃そげきじゅう追随ついずいゆるさないという、最強さいきょうごえたか対物用たいぶつよう狙撃銃そげきじゅうだ。

 さらには、今回こんかい主力武器メインアーム存在そんざいえた。

 そう、最強さいきょうのスナイパーライフルすら、補助武器サイドアームぎないのである。

 ターゲットや住居じゅうきょ写真等しゃしんなど手渡てわたされる。

 じつは、ターゲットのいえ爆撃機ばくげきき水爆すいばく投下とうかするあんもあったらしい。組織そしき保有ほゆうする爆弾ばくだんは、人類史上最強の水爆ツァーリボンバ匹敵ひってきするという。

 このあん否決ひけつされたのは人道的じんどうてき理由りゆう……からではなく、実行じっこう困難性こんなんせいからであったという。

 ただ、おれ任務にんむ失敗しっぱいすれば、また水爆案すいばくあん浮上ふじょうするかもしれない。それとくらべたら被害ひがいすくないだろうからな。

 それだけがおれ罪悪感ざいあくかん緩和かんわする。


 工作員こうさくいんたちがり、狙撃そげきポイントよりつこと5時間ごじかん

 ターゲットが玄関げんかんからそとへとあらわれた。

 おれNTW20スナイパーライフルく。ターゲットの頭部とうぶび、脳漿のうしょうらす。オーバーキルというにふさわしい高火力こうかりょく

 つづけざまにたおれたターゲットの身体からだにライフルだんんでいく。肉片にくへんし、もはや人体じんたいであった形跡けいせきすらえない。

 巨象きょぞうをも仕留しとめるライフルだん5発ごはつんだのだ。きているはずはない。

 しかし、おれ主任務しゅにんむはここからだった。

 FGM―148エフジーエムいちよんはちジャベリン。歩兵ほへい携行式けいこうしき多目的たもくてきミサイル。戦車せんしゃをも仕留しとめる高火力こうかりょくのミサイルで、しかもその弾頭だんとうえられているのは……。

 反陽子はんようし爆弾ばくだん広島型ひろしまがた原子げんし爆弾ばくだん10倍じゅうばいほどの威力いりょくつという。

 おれ呪文じゅもんとなえながら、ジャベリンをかまえた。発射はっしゃ

 ターゲットであった肉片にくへんへとせまっていき、命中めいちゅうするかどうかというところで呪文じゅもんとなえた。


 くと、美冬みふゆいえそばにいた。

 あたりにはゆきっていた。

 任務にんむ成功せいこうしたのか?

 特殊とくしゅ通信つうしん機器ききもちいて組織そしき連絡れんらくる。

 は、はいしたという。身体からだふるえた。自分じぶんはなんということをしてしまったのだ。

 おそらく、数万すうまん数十万すうじゅうまん人間にんげん一瞬いっしゅんのうちにいのちとしたのであろう。

 それでも水爆すいばくよりは被害ひがい一桁ひとけた二桁ふたけたすくないはずである。水爆すいばく投下とうかすれば数百万人すうひゃくまんにん被害ひがいたであろうから、おれ行為こうい結果的けっかてき被害ひがいちいさくとどめたのである。

 それなのに……。


 ちゅうゆきはいえた。

 はじめてひところしたときにかんじた罪悪感ざいあくかん。それよりはるかにおおきいものをかんじている。

 おれひところすのにいていない。えてぬふりをして、自分じぶん冷酷れいこく暗殺者あんさつしゃであろうとってきた。

 けれども、本当ほんとうはそういう人間にんげんではないというのが、実感じっかんできた。

 一刻いっこくはやく、このいままわしい記憶きおくのぞいてもらいたい。

 注射器ちゅうしゃきして、左腕ひだりうで注射ちゅうしゃする。

 すこ気分きぶんいてきた。


 美冬みふゆいたい。美冬みふゆはこんなおれねぎらってくれるだろうか?

 ゆきしずかにっている。昨日きのう同様どうよう何事なにごともなかったように。

 おれ美冬みふゆうちへと、ふらふらとあるはじめた。


 つづく

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