エピローグ 辺境領イニーツオから始める帝国侵略
辺境領イニーツオを乗っ取ったディーノとアウローラ。
いくらディーノとアウローラが元皇族とはいえ、侵略者であることに変わりはない。イニーツオを治めるのに住民たちの反感はあるだろうとディーノは考えていたのだが、拍子抜けするほどあっさりと領民はディーノたちのことを受け入れた。大歓迎と言っていいほどに。
――アウローラ様に乾杯っ!――
ところかしこで行われている酒盛りで、杯を片手にどんちゃん騒ぎ。とてもだが、侵略された側の反応ではない。
ディーノとて、こんな光景を見せられればアウローラがなにをしたのかは理解できる。
「アウローラ……最初から根回ししていたな?」
「少し、お話していただけですよ」
「少し、ね」
領民に被害が出ないよう、戦闘前に先んじて領民を避難させていた。領民が誰一人として困惑していないところを見れば、避難経路すら想定していたのだろう。
だが、それはいい。アウローラは民草に人気であるらしいし、彼女の言葉であれば領民も耳を貸す可能性はある。
しかし、それはイニーツオにいる領民であれば、だ。
アウローラに一人の女性が話し掛ける。
「アウローラ様。帝都より、住民の移動が完了致しました。追って、物資の運び込みも行っております」
「ありがとうございます、アリアンナ。突然のことであったのに迅速に対応頂き、感謝しかありません」
「そのようなことを仰らないで下さい。皆、アウローラ様に付いていくと決めております。どうか、御心のままになさって下さい」
膝を付くアリアンナと呼ばれた女性。ディーノは初めて目にするが、態度から察するにアウローラの家臣なのだろう。
「そう言っていただけるのであれば、私の心も少しは軽くなります。ところで、子供たちは大丈夫ですか? 急な環境の変化に、不安になっている子はおりませんか?」
「ええ、問題ございません。むしろ、初めての遠出を楽しんでいる子ばかりで、目を離すと遊びに行ってしまいそうなほど元気があり余っております」
「ふふ、そうですか。それならばよかったです。折を見て、気分転換も必要でしょう。帝国の動きも気になります。今のうちに十分に休息を取って下さいね?」
「ご配慮頂き感謝致します」
一礼し、去っていくアリアンナ。
微笑みを浮かべて応対するアウローラに、ディーノはじとっとした眼差しを向ける。
その視線にあたかも今気が付いたかのように、アウローラはわざとらしく口に手を当て「まあ」と驚いた声を上げる。
「お兄様、いかがしましたか? そのように険しい表情を浮かべて。ご気分が優れないのであれば、お屋敷の寝所をご案内致しますよ?」
「……全部お前の手の平の上というわけか?」
イニーツオにカッシオが来ていたことも。
ディーノがアウローラに協力したことも。
イニーツオを占領したことも。
全てアウローラの想定した出来事であったのであろう。
そうでなければ、帝都から住民を移住してくることも、物資を準備することも叶わない。
恐らく帝都から来た者たちが、町の至るところで新しい住民の寝床となる簡易住居を建てている。広場では元々イニーツオに住んでいた者たちも協力して炊き出しを行っていた。
誰もが精力的に規律だって動いており、混乱は見られない。
とてもではないが、偶発的な行動とは考えられない。誰かが記した筋書きの上。
「うふふ……さて、どうでしょうか?」
確定的でありながら、アウローラは微笑みを浮かべて曖昧に誤魔化す。
その笑みは、兄のことを大好きと慕う妹のものではなく、したたかさを伴う艶のある女のものであった。
それを見たディーノは、嘆息し瞼を閉じる。
昔のままではいられない、か。
自分以外には懐かず、臆病であったアウローラはもういない。人間として成長したと喜ぶべきなのだろうが、そうあらねばならなかったと考えると素直に喜べない。自身がいなくなったせいだとするならば、小さな罪悪感させ抱くほどだ。
「……お兄様? あの、冗談ですよ? ちゃんと説明しますからね? 怒らないで下さいね……?」
黙ってしまったディーノを怒らせてしまったと思ったのか、不安そうに声を掛けてくるアウローラはかつての幼い姿と重なる。
全部なくなったわけではないか。
優しく微笑むと、ディーノは少し荒くアウローラの頭を撫でる。
「それで、次はどうするんだ?」
ディーノが怒っていないと分かり、一瞬ほっとした表情をアウローラは見せると、ゆっくりと歩き出す。
どこまでも続く草原を抱えるように両腕を広げる。
「決まっています」
振り返り、見せたのは満面の笑み。
大輪の花を咲かせ、アウローラ・クローディアはここに宣言をする。
「さあ、お兄様。大陸に平和を――帝国を蹂躙しましょう」
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