シャッターチャンス!

こうやとうふ

シャッターチャンス!

来た、彼だ。

「──────」

自然とカメラを握る手に力が篭る。

卒アル委員を任されている以上、下手な出来の写真を撮るわけにはいかない。

カメラを顔の高さまで持ち上げて、液晶を覗き込む。

ミリ単位の狂い────『妥協』という文字は、私には無いのだから!


「よし!って……あぁっ!」

彼────篠原くんが走って来て私のカメラを奪い取る。

その顔は少し不機嫌そうだったけど、恥ずかしがってるようにも見えた。どうしてだろう。

私の付けている腕章を一瞥してから、彼は注意をしてくる。

「盗撮は良くないぜ? 卒アル委員さん」

そんなことは分かっている。ていうか盗撮じゃないし。

私も目の前の敵に張り合うべく、ずり落ちそうになったメガネを戻して果敢に挑んだ。

「盗撮ではありません。卒アル委員ですから、アルバムに載せる写真を撮るためには必要なんです。あなたは、必要な犠牲です」

「俺はこれから殺されるのか」

「ええ。このカメラで……って、ワザとですよね?」

「まぁな」

うっかり口を滑らせた間違いにも対応してくるノリの良さはあるらしいけど。

「盗撮ではありません」

「勝手に撮るのはいただけないぜ?」

「と、盗撮ではありません!」

「次からは撮りますって言うんだぞ?」

「……はい、気をつけます」

静かに詰めてくる彼の態度に押され、思わず白旗を挙げてしまった。

でも、次こそは…!


翌日。

よし、彼だ。

愛用のカメラを構える。

場所は食堂。彼は水を飲んでいた。

ピントは良好、他は許容範囲。よし、後は。

大きく息を吸って……

「撮りますッ!」

「ぶっ……!?」

シャッターを切った。


「あ、アンタな……!」

その数分後、食堂の片隅で篠原くんに詰問されていた。

「や、やめてください…みんな見てますよ……?」

「誤解招く言い方すんな! 元はといえばアンタのせいだろ!」

「昨日言いましたよね。撮りますって言えと」

「事前に許可を得て撮影しろって意味だよ! アンタ天然か!」

「なっ、天然とは心外です! あんな打算と肉欲にまみれた連中と一緒にしないでください!」

「何気にアンタの方が酷えわ」


さらに翌日。

「撮ります」

「あぁ……って、なんかコレ違くね?」

空き教室の1つに、私と篠原くんはいた。

少し顔を赤らめつつ、彼は自分の感じた違和感を指摘していく。

「卒アルって、こう…何気ない日常の風景を切り取るもんじゃねえの?」

「これだって日常の風景です」

「女の子と空き教室にいるのは日常じゃない!」

「私を除いてです」

「俺は放課後の空き教室で1人黄昏てるロマンチストでもねぇよ!」

ゼェハァと息を荒くする篠原くん。

そこで1つ気になったことを聞いてみる。

「あの……」

「なにさ」

「なんで篠原くんは、私の撮影に付き合ってくれるのですか?」

「なんでって、俺は被写体だし、卒アルの写真だったら無下には出来ないだろうが」

「本当に嫌なら、断っても良いのでは?」

「かもな。でも、あんたのことは嫌いじゃねえし、アンタと話すのは…疲れるけど、楽しいし」

「そ、そうですか……」

ど、どうしよう! か、顔が熱い…てかなんで熱くなってるんだ私は!

「そ、それじゃもう一つ!」

声が上擦っているのが分かる。たぶん顔も真っ赤かも。

「なんだよ」

彼の声も少しだけ動揺しているように聞こえる。気のせいだと嬉し……やっぱり、それは嫌だ。

「私のこと、嫌いじゃないって言いましたよね。じゃあ、私のこと……好き、ですか?」


私はバカか!?

というか篠原くん沈黙してるし絶句してたらどうしよう気持ち悪いとか思われてたらどうし

「好きだよ」

「ヘァ!?」

凄い声が喉の奥から飛び出して来た。

「写真に命かけて全力投球なの凄いし言動がいちいち可愛いし応援したくなる……って言わせんなバカ!」

「そ、それは…」

「黒浜さん、付き合ってくれ。アンタが撮る写真と、切り取る景色。アンタの笑顔を、隣で見続けたいって思っちまったんだよ……」

あ、ダメだ。目の前がぼやける……

「え、ちょっ、黒浜さん?」

「良いですよ。分かりました!篠原くんの彼女に、なりますっ!」

「なっ……!」

パシャリ。

もちろん、真っ赤になって狼狽る彼の顔をカメラに収めることを忘れはしない。


雰囲気ぶち壊し? 大いに結構!

どれだけ言われようと、このシャッターチャンスを逃さない手はない。

そしてこれからは、たぶん、卒アル以外にもこのカメラにはお世話になる。

彼のいろんな顔を、撮り続けて行きたいから。

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シャッターチャンス! こうやとうふ @kouyatouhu00

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