悲しみは胸の奥に……

暁ノ夜空

悲しみは胸の奥に……




"彼に残された時間はそう長くはないでしょう"





医者から言われた言葉はとても痛い。


あまりの出来事にどうしたらいいのか分からない私はただ俯くことしか出来なかった。





私の彼は3ヶ月前からこの病院に入院することになった。


その時彼からは「大丈夫だから。ただ喘息が酷くなっただけだから」と何食わぬ顔で言っていた。






それでも心配だった私は毎日のように彼のお見舞いに行っていたが、1ヶ月経っても…2ヶ月経っても…


彼が病院のベッドから離れることはなかった。






でも…こんなに悪くなってるなんて彼からも彼の親からもましてや医者からも聞いてない。


私はどうしたらいいの…






「私達も最善は尽くしました。それでも彼の病気が治らなかったのは私達医者の力不足です。本当に申し訳ないです。」


深々と頭を下げる医者に私はどんな言葉を掛けたらいいの?


これは誰のせいでもない。






私は立ち上がり『失礼します。』と一言だけ残しその場を後にした。


扉を閉めると胸を締め付けられ息が出来なくなってしまうくらいに苦しさが私を襲う。


…早く彼に会いたい。






彼がいる404の病室


「おっ、佳奈かないらっしゃい」


いつもと変わらない笑顔なのに今日はその笑顔すらも曇って見える。


「どうしたんだよ。そんな所にいないで早く入ってきなよ」


『う、うん…』






ベッドの横に用意されてある椅子に座り、彼の手を取り優しくギュッと握る。


「どうかした?」


彼の不安そうな声。


それもそのはずだ。彼女の私がこんなにも悲しい顔をしているからだ。


『実は…』






私は彼の症状を医者から言われたことを伝えた。


すると彼は…


「…本当は佳奈かなに言いたくなかったんだ。聞いたら絶対に佳奈かなが悲しむって分かってたから。」


…彼なりの優しさなんだろう。






『でもこのまま知らないで幸希さいきくんがいなくなる方がもっと辛かったと思う…』


俯きながら言うと、彼は頭に手を乗せて数回撫でてくれて。


「うん。だから佳奈かなにも言うように先生にお願いしたんだ。俺が叶えたいことを実現させるために。」






彼はベッドの横にある棚から1冊の雑誌を取り、私に渡す。


『これって…』


「うん。死ぬ前に佳奈かなのウェディングドレス姿を見たいんだ。」






残された時間を彼は幸せでいっぱいにしようとしてる。


それなら私が出来ることはただ一つ。


彼を幸せなまま送り出してあげること。






『分かった。なら手続きとかは私がしとくから幸希さいきくんは安心してその日に万全な状態で来てね?』


「任せて」


この繋がれた手は2人の約束。







帰った後すぐに私は結婚式等に関する色々なサイトを見てそれを全てメモに取る。


これも全ては彼のため……。








ーーーーーーー









4月3日


その日はやってきた。


家族の他に、高校の同級生や先生方。


幸希さいきくんの会社の同期や上司等多くの人達が私達の結婚式に集まってくれた。







式が始まってからは皆の視線は私達2人に。


これだけの方々が集まってくれたことが彼にとっては嬉しかったのだろう。


常時目は潤んでいて、今すぐにでも涙が零れてしまいそう。






そして…


幸せを誓うキスは同時にサヨナラを意味するキスへ………。








ーーーーーーー







『うー、今日は一段と冷えてるね。ちゃんと暖かくしないとダメだよ?』


…って言っても今の幸希さいきくんにはさすがに無理か。







幸希さいきくん…今幸せですか?


私は幸せです。


悲しい気持ちはまだありますが、それでも私はあなたといた時間はこれからも大切な思い出です。








今日も私は大好きな彼のお墓の前で手を合わせている……。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




最後まで読んでくださりありがとうございます。


これからも引き続き作品等を書いていきますのでよろしくお願いします。



暁ノ夜空

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