第10話 長い一日の終わり

秋人がぶつぶつと言っている間、ミントがレイラに話をしている。


「秋人さん、私はそろそろ戻ります。……今日は本当にありがとうございました。少し早いですが、おやすみなさい。また明日」


「あ、はい、おやすみなさい」


レイラはにっこり笑うと、会釈をする。ミントも会釈し、顔を上げ、秋人と目が合うと不敵に笑った。そしてレイラとともに去っていった。秋人はそれを見て、ポカンとしている。


「……嫌われてはないから心配するな」


後ろからアスカの声がした。秋人が振り向くと


アスカ、シルヴァン、リアムと、先ほどはいなかったウィルとユーリがいた。


「そんな感じはします」


「あいつももともと騎士だったし、ああいう性格じゃないとやっていけなかったんだろう。一時の気の迷いが、致命的になる場合もある。……と、この話はもうやめよう。また空気が重くなる。……そういえば秋人って呼んでいいかな?」


「あ、大丈夫です」


「秋人は今日はリアムのところに泊めてもらって。部屋は明日にでも用意しておくから」


秋人は咄嗟にえっ……という言葉が漏れた。


「あれ?リアムが男だって知ってるよね?」


「あ、大丈夫です。知ってます。でもちょっと緊張?するというか、なんというか……」


「まぁ、見た目は可愛い女の子だもんね」


笑い合う二人だが、リアムを見ると不自然な笑みに。リアムはなぜかムッとしたような表情をしている。和やかな雰囲気だ。秋人もやっと笑えた気がした。そんな三人を静かに見守るシルヴァン、ウィル、ユーリ。



「あ、それと、私のこともアスカって呼んでいいから。敬語もいらない。うちの隊の皆も普段のときは敬語使わないから」


リアムがちらっとシルヴァンを見てから


「シルヴァンも普段はアスカって呼んでるもんね。公の場では敬語使ってるけど、たまに素が出てるときあって面白いよ」


リアムが楽しそうに言っている。シルヴァンはムッとした表情をしたようなしてないような。


「……え、いや、それは……考えておきます」


 さすがに一隊長の名前を、しかも会って間もないのに、呼び捨てにする勇気はない。それにしても、ラフな感じの隊なんだな。こんな人が上司だったら楽しそう。でも年はいくつなんだろ?女性の年齢はわからないけど、年上だよな?


「そろそろ休もう。シルヴァンが怖いし」


アスカの提案に秋人はつい、シルヴァンを見てしまう。シルヴァンはじーっとアスカを見ていたが、秋人の視線に気づくと目をそらした。無言の圧力か。



 秋人と一行はとある建物に入る。中世ヨーロッパ風の屋敷で、中央の城とは違い簡素な造りのようだ。廊下に火が灯してあり、秋人は周りを見ながらキョロキョロしながら歩いている。リアムが秋人に説明しながら歩いてくれる。その後ろからアスカ、シルヴァン、ウィルとユーリがついて来ている。


「レイラ様から聞いたかもしれないけど、中央が大きな城になってて、そこにいろんな人が集まる感じかな。そこから貴族領や王族領にも行けるし。こっち側は騎士や魔術師の人たちが住んでる屋敷があるよ。ここは第12部隊のもので、みんなここで暮らしてる」


秋人は寮みたいなものかなと思っている。少し考えてから


「……そういえば、第12部隊だから、1〜12部隊までいるってことですか?」


「うん、そうだよ。……魔術師の部隊だったり騎士だったり、それぞれの部隊に特徴がある。特徴があるといえば、各隊長も特徴があって見てると面白いよ」


リアムは笑いながら話しているが、後ろからアスカが


「……面白くはないかな」


ボソリと呟く。


「傍から見てると面白いんだろう。俺はいつもうんざりしてる」


 ……シルヴァンさんの口調が戻ってる。まぁ、もう仕事じゃないもんな。副隊長って大変なんだろうな……。


リアムは後ろを振り向きながらニヤニヤしながら二人を見ている。いろいろな事情があるのだろう。


「……そういうわけだ。じゃあ、みんなお疲れ様。秋人もまた明日ね」


アスカとシルヴァンは会釈すると違う方向に行った。


「隊長と副隊長は一人部屋なんだよ。しかも隊長の部屋はちょっと豪華なんだよー。僕も一応一人部屋、狭いけど。みんなが気を遣ってくれたらしいよ。で、ウィルとユーリは二人部屋」


廊下を少し進むと、人が騒いでるような声が聞こえる。リアムがヒソヒソと秋人に


「……見つからないように行こ。見つかると連れていかれるから」


秋人はえっ、連れていかれる?と口に出す。頭に?が浮かんでいるような顔をしている。リアムは何も言わない。その声がする扉の前を通り過ぎようとしたとき、扉が勢いよく開いた。


「……あ、やっぱいるじゃん。リアムも新入りも一緒にどうだ?」


「飲もうぜ!」


……ガラの悪い酔っ払いがいる。リアムは秋人の腕を掴み走り出す。


「ウィルとユーリが付き合ってくれるってよ!」


ウィルとユーリが犠牲になった。秋人が後ろを振り返るとウィルはうんざりした顔、ユーリにはこちらを睨みつけられる。秋人は睨みつけられヒヤッとしたが、ごめんと心の中で思った。少し走ったところで、リアムは止まった。秋人を見ながら


「ウィルもユーリも社会勉強だと思ってくれるよ。まだ若いし、付き合いって大事だよね」


「……あんな感じのどんちゃん騒ぎ……えと、飲み会?宴会?よくやってるんですか?」


「うん、よくやってる。仕事以外の過ごし方は自由だしさ。たまにシルヴァンは参加してるみたいだよ。昔の仲間もいるし。でもアスカちゃんは滅多に参加しないね。……飲ませるとやばいらしいから」


リアムはニヤニヤしながら言っている。


「……どういうふうにやばいんですか?」


「えっとね、……あ、ここだよ。僕の部屋」


リアムに促され、部屋に入る。リアムの部屋はシンプルだが、ところどころに女の子を感じるインテリアがある。


「片付けてないから今から片付けるよー。……あ、アスカちゃんのことね、お酒を飲むと凶暴になるらしい。いつもは抑えてる力のタガが外れるっていうの?その力を魔物退治に使えばいいのにね」


秋人は酒乱かなと思った。リアムはそこに座っててとソファーを指差す。ソファーの斜め前には小さいテーブルがあり、そこに本が積み重なっている。秋人はソファーに座ると、ガクッと急に疲れが出てきた。今日もいろいろあったと思い起こしていると、眠気が出てきた。秋人は閉じそうな目をパチパチさせ、起きていようとしている。周りに何かないかと見渡すが、視界に入るのはそばにある本。見てもいいか、見るとさらに眠気が来るんじゃないかと悩んでいた。リアムが遠くから、見たかったら見ていいよーと呼びかける。一番上にある本を開いてみると、どうやら英語で書かれているよう。……読めないが。パラパラめくると魔法陣のようなものが書かれており、魔術書かと秋人は思った。しばらく本を見ていたが、いつの間にか秋人は眠ってしまった。

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ファンタジー世界で生き抜く方法を考えたところ、人生を考え始めた(仮) 雪乃司 @reiru5924

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