第9話 魔物との対峙4
ふと、レイラが秋人に話しかける。
「魔物の姿は見えないですね。……そう言えば、ミントが付いて来ないのが不思議に思いました?いつもミントと一緒のわけではないのですよ。ここは安全と言ってましたし。それに、皆さんがいると話しにくいこともあると思ったのです」
レイラは秋人の顔を窺いながら言う。秋人はその言葉に今までのことを考えながら
「ありがとうございます。……今は大丈夫ですけど、魔物を見てしばらくは混乱してました。さっきの副隊長さんの話も怖いというか、でもそういう使命を背負って戦っている人たちはすごいと思います。……俺は人に流されてしまうので、このままでいいのかと考えました。自分の生きてる理由、生き方とか考えたこともないしわからないですけど、このまま流されてただ死んでいくのは嫌だと思ったんです。でも俺は戦う力もないし、さっきのあれは本当に必死で、今同じことをやれって言われたらできないと思うんです。でもこのまま自分の世界に帰るのもなんか嫌だし……すみません、まとまりがなくて」
レイラは秋人の話を静かに聞いている。話が終わると、
「今はそれでいいと思いますよ。いきなり戦ってと言われて、戸惑わない方がおかしいと思います」
と優しく微笑みながら答える。
「今、隊に所属している者たちもさまざまな理由があって戦っているのだと思います。この国も一応、階級があって、位階というのですけど、今は昔ほど厳しくないそうですが、いろいろと制限があったと聞きました。さっき副隊長さんが言っていたように、その地位のために戦うのも悪いことだとは思いません。あとは戦うことが生きがい、存在理由などもあるでしょう」
なんかそれ、よくある殺し屋みたいなセリフだな……。
「いろんな理由があるんですね。あの隊長さんや副隊長さん、若い人たちも戦う理由があるんですね。聞いてみたい気もします」
「このまま自分の世界に帰るのが嫌でしたら、秋人さんさえ良ければ、こちらにいてください。最初に言っていたように、あなたのできること、戦うことはしなくても、この世界を救う道標を一緒に探しましょ」
別に帰りたい理由もないし、帰ってもゲームするだけだし……。
「こちらにいていいならいます。……でも俺はどこに泊まるというか、何も持ってきてないし、お金もないし大丈夫なんですか?」
「ええ、そのことなんですが……あら?アスカの隊が下に集まってきてますね」
秋人も下に目線を動かすと、大勢の馬の走る音とアスカ、リアムらしき姿が見えた。
「魔物は、この村にはもういないということなのでしょうか。下に下りましょう」
階段から外を見ると、すでに夕方になっていた。階段を下りるとアスカとリアムがレイラと秋人に気づいた。
「この近辺には魔物はもういないので、撤退します」
「そう。結局、あの獣型の魔物だけだったの?」
「いえ、もう一匹、あの大型の魔物ほどではないですがいたそうです。私の隊の者が仕留めました。村人たちは生きている者もいましたが、あの大型の魔物には大勢殺されたそうです……」
アスカは悔しそうな表情をしたのち、悲しそうな表情を見せる。秋人はそれを見て同じように悲しそうな表情になる。
「そうなの……」
レイラは言葉に詰まったように、それ以上、何も言わなかった。その場に沈黙が流れ、誰しもこの状況に悔しさと、悲しさを漂わせた。その沈黙を破ったのはリアムだった。
「……もうすぐ夜になるよ、隊長」
「……ああ、そうだね。帰ろうか」
アスカはキリッと表情を変え、村人たちに近づいていく。村人たち全員に聞こえるように大きめの声で
「この村に魔物はもういない。私たちは撤退しますが、別部隊が支援物資を持って来ます。もうすぐ到着するでしょう」
アスカはその場で一礼し、戻ってくる。村人たちには見えないが、また悲しそうな表情をしている。村人たち全体を包む、重々しい空気はしばらく晴れることはなさそうだ……。
塔の外に出ると、アスカの隊の者たちが待っていた。ガヤガヤしていた雰囲気が、アスカの姿が見えるとピシッとした雰囲気になるのがわかった。秋人は悲愴感に包まれていたが、これを見て少し和らいだようだった。
それぞれが馬に乗り、秋人は、秋人に手招きしていたリアムの馬に乗る。
「第12部隊、撤退するぞ」
夜になり、昼間とは雰囲気の変わった道を、大勢の馬に乗った者たちが駆け抜けていく。松明を数人が持っているが、月が明るい夜だ。秋人は何か考えているのかぼんやりしている。……途中で、同じ制服のような服を着た集団とすれ違った。先ほどアスカが言っていた支援物資を持った別部隊だろうか?
いろいろあったな、いろいろ……。電気がないのか、月明かりが綺麗だなー。星もよく見える。外に出て、月や星を見ることなんてなかったもんな。見るのはテレビの光とか。
……そういえば、このリアムって人、男だよな……。馬に乗って密着したらわかったよ。可愛いのに男の娘。男の娘なのに可愛い。……あれ?
リアムは何かに気づいたのか秋人に声をかける。
「あ、気づいたかな?僕はね、男だよ。別に隠してもないよ。……あ、ごめんね。今さらだけど、僕はリアムって言うんだ。よろしくね!秋人くんって呼ぶね」
元気の良い声に秋人も元気になれそうだった。しかし、秋人は冷静に
「そうなんですか。いろんな人がいるので特に驚きません。よろしくお願いします」
その返答にリアムはどこか嬉しそう。
「年も近そうだし、敬語はナシで!」
……あれ、またこの話?
「俺は20歳ですけど。誕生日が来たら21歳になります」
「僕は19歳だよ。ひとつしか変わらないよー」
リアムの表情は見えないが、にこにこしていそうだ。
「仲良くしてね!」
どうやら中央に着いたようだ。大きな門が見える。隊全体が安堵したような空気感になった。秋人もその空気を感じ取り、気の抜けた表情になる。
……何もしてないけど、疲れたー!緊張?緊迫した雰囲気だったし、この隊の人たちもやっと一息つけるって感じかな?……で、これから俺はどこに泊まればいいんだろ?
庭園内の広場に着くと、アスカが
「今日は皆、疲れただろう。ゆっくり休むといい。明日に、今日の詳しい状況を聴取する。解散。」
そう言うと、隊全体がガヤガヤとした雰囲気になった。疲れたーと言う者、帰って寝たいと言う者、酒飲みたいと言う者……自由だなと秋人は思った。
リアムが馬から降り、秋人も難なく降りる。アスカとシルヴァン、レイラとミントが近づいてきて
「……今日は、本当はこの中央の案内がしたかったのですけど、それとアストリッドにも紹介したかったのですけど、明日にしましょう。今日はゆっくり休んでください」
レイラが静かに微笑む。レイラはアスカを見てから秋人にまた向き直り、
「アスカにお願いしたから、休ませてもらってください。しばらくはアスカのところでいさせてもらって。アスカにはね、もともと秋人さんの事情を話してたの。しばらくは異世界から来たということは隠しておきたいから、アスカの隊の者ということにしておきたくて」
「……その件なんですけど、本当にいいんですか?私の部隊、荒くれ者が多いというか、わかりやすく言うとガラが悪いんですが」
「――わかりやすい!」
思わず秋人のツッコミが入る。そのツッコミにレイラとアスカは顔を見合わせる。秋人は言ってしまって、なんだか照れている?
「あ、いや、すみません。なんとなく、そう思っていました」
「……でも他に頼める隊長さんもいないし、面識ない方もいるし」
レイラはしゅんとしている。アスカは秋人に向かって
「本人がいいならいいですけどね。ちょっと見た目が怖かったり言葉遣いが悪かったり賑やかだったりするけど、みんないい奴です。レイラ様の知人と言っておくから悪さはしないと思うし……それでもいいなら私のところに来ますか?」
秋人は思った。薄笑いしながら、これって選択肢ないじゃんと。
「……よろしくお願いします」
不本意ですが、と付け足したい気持ちをぐっと抑えた。
生まれてこの方、そういうガラの悪い連中には関わらないようにしてたのに……!話が通じなかったらどうしよう。この先が不安すぎる!
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