第8話 魔物との対峙3

 「そんなこんなで私が見に行くことになるのか……」


ミントがそばにいる金髪の少年・ウィルに愚痴る。ウィルは苦笑いしている。


「あっちの方が襲われたらまずいと思うんだけどな」


「……確かに副隊長が一人で戦うことになりますからね。だからなるべく早く戻らないと」


「人使いが荒いな、あの副隊長」


「ははは……」


二人は辺りを窺いながら塔に入って行った。……というか誰かが扉を開けてくれたように見えたが……。



 秋人、レイラ、シルヴァン、傷を負っている少年・ユーリは二人を見送るかのように見ている。レイラは


「私も行きたかったのに……」


と若干、ふくれっ面だ。他の三人は呆れたような顔をしている。


「でも私が後先考えずに行動すると、傷つく人がいるから……秋人さんやアスカの隊の皆さんには今回は感謝しています」


レイラはここにいる皆に向かって言っている。


「特に秋人さんはこちらに来てから先ほどのことまで、戸惑うことが多かったでしょう。でもこれがこの世界なんです」


秋人はレイラの言葉に少し考え、


「……はい、まるでゲームの世界、いや、物語みたいだなと思いました。これは夢じゃなくて現実なんですね。皆さんはそれと戦いながら生きている」


「戦う力がある者はいいですけど、戦う力のない者もいます。そのためにアスカたちがいるのですけど、魔物が出たと報告を受けたときに出向くのは遅いときがあるのです。対策として魔術師たちがこの国の国境にシールド……魔物を防ぐ壁みたいな物です、を張ることにしたのですが、それもダメなのかと思うと……」


レイラがしゅんとした顔をする。シルヴァンが間に入るように発言する。


「その対策は今後考えなければなりませんが、それは私たちが考えることです。この場では止しましょう」


秋人はその言葉で思い出したかのように傷を負った少年に話しかける。


「……あの、大丈夫ですか?」


ユーリは突然、秋人に声をかけられ一瞬、目を合わすがすぐにそらす。


「ああ……」


と一言だけ答える。


 えっと……嫌われてるのかな、人見知りなのかな。若い人と接し方がわからない……!だいたい、俺もコミュ障だ!


すると、シルヴァンがフォローに入る。


「ユーリはいつもこんな感じなので気にしないでください。でも年は近いんじゃないですか?」


「……え、俺、20歳ですよ」


その場にいる皆が少し驚いたような顔をする。


「10代だと思いました……。ユーリはいくつだ?」


「……たぶん17です」


シルヴァンは秋人に向けて


「たぶんというのは、ユーリは正確な年齢がわからないからです」


秋人はそんなこともあるのかと納得してるようだ。その人の事情もあるし、いちいち突っ込んでいたらきりがない。


「私は18歳です。ですので、敬語はいらないですよ」


レイラは秋人ににこにこしながら言う。


「……え、いや、それは……」


「あなたはこの国の者ではないし、いいと思いますよ。ミントは何か言いそうですけど。もっと仲良くなったら普通に話しましょう、お互い」


 ……恋愛ゲームか!好感度上げてくやつか!……話を変えよう。


「隊の人たちは皆さんは若い人が多いんですか?」


主にシルヴァンに向かって言う。


「いえ、私の隊は、ユーリとさっきクロタキに着いて行ったウィルと髪の長いリアム以外は20代、30代ですね。だいたい、隊全体もそんな感じです」


「20代、30代でも若いですよね」


その場の空気が変わった気がした。


「……戦いで死ぬ者も多いんですよ。腕や脚をなくして戦えなくなって引退した者もいます」


秋人は驚いた顔した後、申し訳ないような、悲しいような顔をした。


「でも皆、それがわかってて訓練を受けて隊に入ってます。そのための制度というか、騎士や魔術師は地位が与えられるのです」



そこまで話したとき、塔から帰ってくるミントとウィルが見えた。


「この国のこと、また後で話しますね」


レイラが秋人に微笑みながら言う。


 本当に、生死をかけた戦いなんだな。俺の世界とは大違い。まぁ、戦争をしている国はあるけど、少なくとも日本は平和だ。だから、俺みたいな生きてる理由がわからないとか言う奴もいるわけで。……情けないというか何というか。



 レイラは二人が近づくなり、


「どうだった?何か見つかった?」


ワクワクしながら聞いている。レイラは好奇心で胸がいっぱいなようだ。ミントはそれに対し、冷静に


「村の人が数十名いました。怪我もないようです。流石に上の階までは行ってないですが、村人もこの塔に魔物は入ってきてないと答えました。魔物の気配もありませんでしたし、とりあえずは安全なようです」


「そう、生きている人がいたの。……その人たちにお願いして、少し休ませてもらいましょう」


一同は馬を引き連れ、塔のそばに馬の手綱をくくりつける。頑丈そうな扉にドアノッカーが付いている。兎の形をしていて可愛いが、これで気づくのかと秋人は不思議に思っている。……コンコンといい音がする。しばらくすると扉がギィ〜と静かに開いた。中に入ると、村の人らしき人物たちが一斉にこちらに目を向ける。ミントは前に出て、


「先ほど言った、第12部隊です。少しの間休ませてもらいたい」


扉の近くにいた村人が


「ええ、構いません……」


村人たちはほっとしている者、まだ怯えた顔をしている者もいる。しかし、疲れ切っているのが見える。

秋人や皆も少しほっとしているが、秋人はそんな村人たちの顔を見ると、どんな怖い目にあったのかと想像してしまう。その想像をかき消そうと、レイラに話しかける。


「……この建物は何のために造られたんですか?」


レイラは考えるような表情をしていたが、ミントに助けを求める。


「村人に聞きましたが、この地域は魔物が多く特に最近は増えているので、村人たちが逃げ込めるようにと造ったとのことです。上の階は周りを見通せるようになっているそうです」


レイラはその話を聞いて


「秋人さん、上の階に行ってみましょう!見晴らしが良くて気分転換になるかも」


レイラはまたワクワクしている。


「まぁ、安全だと思いますけど、気をつけてくださいね。私たちはここにいますから、何かあったら声を出してください」


 ……もしかして、クロタキさんは付いて来ない?珍しい。え、レイラさんと二人っきり?……これはフラグか?



 塔は、教会みたいな建物で高さはそこまでない。石造りで……ところどころ間に合わせのような雑な感じだ。秋人は崩れたりしないか心配になりながら、レイラと一緒に階段を上り上を目指す。外を見られるような窓らしきものはあるものの、窓は取り付けてない。しかし、この窓らしきものがなければ薄暗く、火がないと進めないだろう。ここに来てからどれだけ時間が経ったのだろう。真上にあった太陽は西に向かっており、もうすぐ夕方だ。

しばらく歩くと最上階に着く。高さはないため村全体とは言えないものの、村の端までは見える。辺りを見渡すと、誰かがーーおそらくアスカの隊の誰かが、馬で走っているのが見える。魔物と戦っているようには見えない。この近辺にはもう魔物はいないのか。二人の間に安堵したような空気が流れる。

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