第7話 魔物との対峙2

秋人の言葉に、その場にいる一同はなかなか理解が追いつかなかった。一番早かったのはレイラだ。


「副隊長さん、持ってない?」


「……これは実弾じゃなくて魔銃なんですよ。もし外したら被害が大きい。私でもここから撃つのは戸惑います」


「でも秋人がやるというのだから撃たせてあげて」


 ……実弾じゃないのか!え、それは無理ゲーじゃない?……あれ?俺、なんだか普通になってる?普通というよりはテンション上がってる?今だったらできるか?


「それはどうやって使うんですか?」


シルヴァンとミントはこの言葉に、出会ったときの彼の言動や行動とは違うと感じた。決意したような表情の秋人にシルヴァンは


「普通の銃と同じように扱ってください。反動もあります。構えると銃口の先に模様のようなものが出ます」


秋人は模様?と思ったが、時間はない。シルヴァンから銃を受け取る。


 

 アスカとリアムは休む間もなく戦っている。少年のうちの一人、薄い赤毛の髪の少年は爪でやられたのか、肩から腕にかけて血を流している。片膝を立て、魔物から少し離れたところで座っている。アスカは疲れが出てきたのか動きが遅くなっている。そんなアスカを気遣っているのか、先ほど合流した金髪の少年は庇うように戦っている。


 

 秋人は銃を構えようとする。しかし、ここが馬上であることに気づいてしまう。しかも馬を操っていた人はいない。パニックになりそうな秋人をなだめてくれたのはミントだった。


「馬を降りた方が撃ちやすいです。……手を貸しましょうか?」


「いや、大丈夫です!」


秋人は三度目の正直!と思いながら馬から降りる。乗るより降りる方が怖いが、秋人は意を決し、馬から手順良く降りる。

馬から少し離れ、秋人は銃を両手で構える。


「両足を肩幅に、前後に開き、体は目標に対して正面を、軽く前傾姿勢で体重の重心は前……」


最後の方は聞き取れないが、秋人はブツブツ言いながら構えている。そうすると銃口に魔法陣のような模様が出る。秋人は少し驚いたように目を見開くが、すぐに銃を構え直す。アスカ、リアム、金髪の少年は魔法陣に気づいたのか、こちらを視界の片隅で見ていた。秋人の存在が魔物にバレないようにする。秋人もそんな三人の姿が見え、皆、気を引き締める。アスカは魔物を自分に引きつけるため、自ら攻撃を仕掛ける。――しかし、魔物は素早く避け……られなかった。金髪の少年が追い打ちをかけたのだった。胴体を深く切られた魔物はギャッと大きな声を上げ、怯んだ。十分すぎる隙ができた。


 ここでやらなきゃ、もしかしたら全員死ぬかも、ってことだよな。あの人たちに当たらないように、魔物の動きを止める!左目を狙うか、足を狙うか。一瞬だけでも隙ができればいいんだよな。……魔物が怯んだ?今か!左目が外れても顔に当たれば……!



 左目に当てる!



すると魔法陣から炎が現れ弾丸のようになり、ゴウッという音ともに魔物目がけて飛んでいく。秋人は銃の反動を覚悟していたが、基本姿勢を守りながら撃ったためかそこまで反動は来なかった。銃の特性か?

ギャアァァという魔物の悲鳴が聞こえる。……魔物の顔に当たり、顔の一部が吹き飛んだよう。炎が魔物の顔から上体までを包んでいる。うずくまっているが、まだ生きているようだ。


 ……当たった!ありがとう、ネット動画!俺、ただのゲームオタクじゃなかったわ。



 「チャンス!」


リアムは先ほどのように右手で素早く文字のようなものを書く。それを見ていたアスカがお先にと言いながら走り、魔物目がけて剣を振り下ろす。ギャアァ……と断末魔の叫びを上げると、魔物はドンッと言う音とともに横たわり息絶えた。


「え、ずるくない?」


「ずるくない」


不満を言うリアムに対して、アスカは笑いながら言う。遠くから固唾を呑んで見守っていたレイラは、二人のその表情を見てほっとしている。


秋人は息絶え、消えていく魔物を見ていた。


 こんな感じなんだ。人を大勢殺したかもしれない魔物が、こんなふうに消えていく……。なんかイライラというかもやもやする。



 「ぼさっとしてる場合じゃない。みんなの様子を見に行かないと」


突然肩を叩かれ、我に返る。


「……えっ?」


周りを見ると、戦っていたアスカ、リアム、金髪の少年と怪我を負った薄い赤毛の髪の少年が集まっていた。アスカが指示を出す。


「ユーリはここで手当てを受けさせる。シルヴァン頼む。ウィルもここにいて。レイラ様とミントもここにいた方がいいですね。私はリアムと行ってくる」


そして、戦いに勝ったというのに俯いた顔をしている秋人には


「……やるじゃん。内気な人だと思ったけど、やるときはやるんだね」


秋人は咄嗟に


「あ、あれは必死だったんです。皆さんのおかげなのもあるし。当たったのは運が良かっただけです。……そういえばこれお返しします」


と言ってシルヴァンに魔銃を返そうとする。秋人は先ほどのことを思い出したが、おそらく今回は運が良かっただけ、次はわからないと思った。


「その運をモノにできるといいな。……少し休むといい」


そう言うと、颯爽と馬に乗る。


「隊長。ウィルを連れて行った方が良くないか?」


シルヴァンがどこか心配そうにアスカに声をかける。アスカは自信のある笑みを浮かべながら、


「大丈夫だ。さすがにさっきのような大型の魔物はいないはず。それに、そろそろ隊の誰かと合流しないと。とりあえず、待機と言った場所に戻ってみる。何かあれば伝令を飛ばして」


その場にいる全員?レイラ以外が伝令という言葉に気まずそうな表情をした。伝令が何かあるのだろうか。アスカはレイラに向かって


「……というわけなので、お願いします」


レイラは微笑みながら


「わかったわ。アスカ、無茶したらダメよ」


二人の空気感から、信頼し合っているがわかる。アスカは会釈し、馬の手綱を引く。リアムもそれに倣い会釈し、馬を進ませる。……この場を去る二人の表情が変わるのがわかった。戦いはまだ続いている。秋人はまた不安そうな表情になる。レイラはそんな秋人に気づき、馬から降りようとする。ミントがそれに気づき、ミントが先に降りた。レイラは秋人を気遣うように


「……いろいろ思うことがあるでしょうが、少し休みませんか?手当てもしなければならないですし。……あの塔を探検してみましょう」


レイラの提案に一同は「?」が浮かんだ。探検って言った?秋人でさえもぽかんとした顔をしている。ミントが弁解するように


「確かにここは見通しが良すぎるので、かえって危険です。しかし、あの塔にも何がいるか……」


「誰か生きている人がいるかもしれないでしょ?」


それはそうだ。しかし……。


「……この場合、誰に決定権があるのか」


シルヴァンがぼそっと言う。この場合は……レイラか?戦いの中であるため、隊を率いる副隊長のシルヴァンか?


「秋人さんはどう思う?」


「え、俺ですか!?」


急に振られて変な声になる秋人。秋人は俺に振るんだと思ったが、これは……


「クロタキさんが言ったみたいに、ここよりは隠れるところがありそうなあの塔の方がいいと思います。でも、中に何かいる場合もあるので、少人数で様子を見に行った方がいいと思います。安全だったら、少し休憩するくらいならありなんじゃないですか」

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