生まれた時に家族で住み始めたマンション。だから、カーペットの下の床の色は知らなかった。そんな引っ越し前夜。兄と一緒に、十二階のベランダにたたずむ。――私の知らない私の城だったもの。見ていられなくなって、思わず夜空を見上げる。武蔵野の星空はあの頃と変わらない。丁寧な主人公の心情描写が胸を打つ。こんなに別れが悲しいから、新しい世界に希望が持てるのかも。そう思わせてくれる、素晴らしい作品だった。
終わりを迎えることへの寂寥感が、淡々とした文体でつらつらと連ねられ、最小限までに感情を省略した言葉たちが、だからこその主人公の物悲しさを表現する。素敵な終わりですね。素敵な始まりを、迎えられたのかな、とも思います。
全ての物事には終わりがある。それは父が教えてくれた大切なことを、思い出を抱えて生きていく主人公。切なくも温かい気持ちになりました。他の方にもぜひ見てほしいです。