〇〇少女ワールド 番外編 武蔵野

渋谷かな

第1話 武蔵野少女

「地名に子を付けてキャラクター名にする! それが〇〇少女ワールドだ! なんか文句あるか!」

 武蔵野の場合、武蔵野子(ムサシノコ)である。愛称、ノコちゃん、ノコノコ、ノッコ。

「武蔵野とお友達になろう! 〇〇少女ワールド! アハッ!」

 こういうテイストである。姉の真理亜お友達70億人キャンペーン実施中。

「こんなお姉ちゃんでごめんなさい。ペコッ。」

 良く出来た妹の楓の物語である。


「ノコちゃん! 私とお友達になりなさい!」

「あなた誰!?」

 挙動不審な真理亜16才に声をかけられ戸惑う武蔵野子16才。二人とも高校一年生。

「ノコノコ! 私とお友達にならないと逃がさないぞ!」

「私は亀じゃない!?」

 ちなみにノコノコとはスーパーマリオの亀である。

「ノッコ! お友達になりなさい! おまえに拒否権はない!」

「私はレベッカでもない!?」

 おまけにレベッカとは女性ロックバンドである。

「掴みはOK! アハッ!」

「なんじゃそれ!?」

 何事も最初が肝心である。

「お願いですから、私とお友達になってください。うるうる。うえ~ん!」

 最後は泣き落としの真理亜。

「な、泣かないで!? お話は聞いてあげるから!?」

 心の優しい武蔵野子は泣いている少女の話を聞いてあげることにした。

「ありがとう! マイ・レンドよ!」

「まだお友達じゃない!」

 肝心な所は否定する武蔵野子。

「どうしてお友達が欲しいのよ? 今の時代ならSNSでもオンライン飲み会でも簡単にお友達ができるじゃない?」

「あんなものは偽者のお友達よ! オンライン中は優しいフリをしてるくせに、ネットが切れたら「ウザイ!」だの「キモイ!」だの好き勝手に言ってバカにしてるのよ!」

「みんな、そんなことは分かってるわよ。だって、ただの暇つぶしだもの。」

「え!? そうなの!? 知らなかった!? 騙された!?」

 意外に純粋なのか、世間知らずの真理亜。

「クスッ。」

 あまりのバカさ加減に思わず笑ってしまう武蔵野子。

「私は一度もあったことのない画面だけのお友達より、本当に困った時に助けてくれる真のお友達が欲しい!」

 真理亜の切実な願いであった。

「分かったわ。お友達になってもいいわよ。」

「本当!? ありがとう! アハッ!」

 一生懸命な真理亜の思いが武蔵野子に届き心を開かせる。

「ただし!」

「ただし?」

「実は私は、と~っても困っているの。真理亜ちゃんが私のお友達なら、困っている私を助けてくれるわよね?」

「もちろんよ! 私は困っているお友達を見捨てたりしない! だって私たちはお友達だもの!」

「ありがとう。真理亜ちゃん。」

「アハッ!」

 真理亜と武蔵野子はお友達になるための試練を迎える。今のネット時代、信じられるお友達を作るのは本当に難しいのである。

「私が困っているのは武蔵野よ!」

「武蔵野?」

「宿題が「武蔵野をテーマにした感想文を書け!」なのよ!」

「ええー!? 読書感想文とか大嫌いなのよね。さようなら。」

 宿題という言葉に敏感に拒否反応を示し逃げだそうとする真理亜。

「逃がさないぞ! おまえ、私のお友達なんだろう!」

「ギャア!? ギブ!? ギブ!? ギブアップ!? 宿題を手伝いますから、許してください!」

「素直でよろしい。」

 武蔵野子に捕まる真理亜。

「ということで、妹の楓です。」

「どういうことよ!?」

「だって私はボケ担当。ノコちゃんはゲストでイメージを壊せない。となると司会進行に優秀な妹が必要なんですね。アハッ!」

「こんなお姉ちゃんでごめんなさい。ペコッ。」

「良く出来た妹さんだ。」

 妹の楓7才。小学一年生。

「武蔵野ご当地妖怪コンテストというのがあったらしく、受賞者は小学生ばかり。ということは、武蔵のには小学一年生の私が必要ということですね。要するに子供やお父さん、お母さんの家族。または一般大衆向けの物語が求められていると思います。」

「そうだ! そうだ!」

 合いの手を入れるうるさい姉。

「多くの人に愛されてきた武蔵野。これからも私たちを愛してくれる武蔵野。」

「なんてしっかりした妹さんなんだ!?」

 恐らく美しくきれいな大人の作品もあったかもしれないが、恐らく地元の小学生の普通の作品が選ばれた。

「これをお姉ちゃんに考えさすとこうなります。」

「そうだ! 武蔵野に行こう! アハッ!」

「武蔵野は京都かい!?」

「武蔵野は、お友達! アハッ!」

「武蔵野はボールではありません。」

「飛んで! 武蔵野! アハッ!」

「武蔵野をディスルな!」

「台地の武蔵野人は土でも食っとけ! アハッ!」

「だから武蔵野の悪口はやめて!」

「燃えろ! 私の武蔵野! 私に力を与えてくれ! アハッ!」

「ちょっと良くなってきたわね。みんなに力を与えてくれる、それが武蔵野よ。」

「武蔵野、お前はもう死んでいる。アハッ!」

「勝手に殺すな!」

「武蔵野の掟は私が守る! アハッ!」

「武蔵野に掟なんかあったかしら?」

「武蔵野に一遍の悔い無し! アハッ!」

「なんか深いわ。」

「武蔵野はいつも一つ! アハッ!」

「なんか名探偵ッポイ・・・・・・。」

「見せてもらおうか! 武蔵野の実力とやらを! アハッ!」

「どんな実力よ???」

「また敵となるか!? 武蔵野! アハッ!」

「誰と戦っているのよ?」

「あり得ない!? 武蔵野が通常の三倍のスピードで迫ってきます!? アハッ!」

「武蔵野は動きません。」

「武蔵野はチャンスを最大限に生かす主義でな。アハッ!」

「武蔵野チャンス!」

「過ちは素直に認めて次の糧にするがいい。それが武蔵野の特権だ。アハッ!」

「どんな特権だよ!? それよりお姉ちゃん!? どんな悪いことをしたのよ!?」

「更にできる様になったな、武蔵野! アハッ!」

「武蔵野って、一体!?」

「武蔵野に代わってお仕置きよ! アハッ!」

「お姉ちゃんに他人を捌く権利はありません!」

「オッス! 私、武蔵野! アハッ!」

「オラを私に置き換えたわね。」

「武蔵野は・・・・・・武蔵野は・・・・・・武蔵野はいい奴だったんだぞ! アハッ!」

「武蔵野は良い所です。武蔵野! 最高!」

「私は武蔵野王になる! アハッ!」

「女の子は武蔵野女王ね。」

「スーパー武蔵野人なんてどうかしら?」

「武蔵野の人々を金髪のツンツン頭にする気なの?」

「アハッ!」

 長い道のりであった。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・疲れた。バタッ。」

 さすがの真理亜も疲れることがあったのだ。

「大丈夫!? 真理亜ちゃん!?」

 武蔵野子は倒れた真理亜を介抱する。

「ノ・・・・・・ノコちゃん・・・・・・。」

「大丈夫!?」

「ム・・・・・・武蔵野・・・・・・って・・・・・・いい所ね。」

「喋らないで!? 真理亜ちゃん!?」

「わ、私・・・・・・武蔵野に・・・・・・これて良かった・・・・・・みんなと一緒に・・・・・・武蔵野に・・・・・・住みたかったな・・・・・・。」

「ありがとう! 武蔵野は素敵な所よ! 元気になったら武蔵野にやって来てね!」

「ノコちゃん・・・・・・私たち・・・・・・お友達・・・・・・だよね?」

「ええ! 私たちはお友達よ!」

「良かった・・・・・・バタッ。」

 瞳を閉じる真理亜。

「真理亜ちゃん!? 真理亜ちゃん!? そんな!? 私なんかのために!? イヤー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 武蔵野の中心で愛を叫ぶ。

「大丈夫です。ただ疲れて眠っているだけですから。」

「え?」

「スー、スー、スー、アハッ!」

「・・・・・・変ないびきね。」

「お姉ちゃんはご飯の時間には生き返るので放って置いてください。それより武蔵野を考えましょう。」

「は、はい。良く出来た妹さんだな。」

 これでも楓は小学一年生。

「こんなのはどうかしら?」

「どんなの?」

「武蔵野。大地の支配者。土の精霊の住む土地。古より武蔵野は人々の憧れだった。」

「素敵! 楓ちゃん! あなた本当に小学生なの!? しかも、へっぽこの真理亜ちゃんの妹さんなの!?」

「アハッ!」

 良く出来た妹でも笑い方は姉と同じなのであった。

「武蔵野でカレーライスが食べたい! アハッ!」

 ゾンビの様に生き返る真理亜。

「生き返った!?」

「こんなお姉ちゃんでごめんなさい。ペコッ。」

 お約束の展開である。

「武蔵野市は吉祥寺なのに、ここは所沢だ!? 普通に角川所沢ミュージアムで良かったのじゃないのか!? なぜだ!? アハッ!」

「そこは触れるな。」

「武蔵野の大地を掘り進めていく、インディー・ジョーンズin武蔵野! アハッ!」

「武蔵野台地の秘宝を探すのね!」

「武蔵野台地からドラゴンが現れる! ドラゴン・武蔵野・クエスト! アハッ!」

「武蔵野クリスタルを守る物語! ファイナル・武蔵野・ファンタジー! アハッ!」

「こいつ!? 動くぞ!? 武蔵野! 行きます! アハッ!」

「ええ~い!? どうすれば武蔵野に勝てる!? 教えてくれ!? アハッ!」

 真理亜は武蔵野の創作、夢の武蔵野で頭が錯乱している。

「ということで。」

「どういうことだよ!?」

「所沢なので、西武ライオンズとコラボ。土日祝日は人気声優さんのイベントね。」

 妥当な選択肢である。地図から見ると駅から遠そうに見えるのも気になる。

「4000字以内ということで、「武蔵野殺人事件」だの「武蔵野偉人伝」などの長編は否定されたのは残念でしたね。」

「大人も子供もお姉さんも、武蔵野が大好きということで。アハッ!」

「昔も今も武蔵野には夢が溢れている。だって武蔵野は私とノッコちゃんが出会った場所だから。とっても私は幸せです! アハッ!」

 きれいにまとまった所で終わり。

「ノッコちゃん。私たちお友達よね。」

「それは断る。」

「なんでー!?」

 オチは要らないかも。アハッ!

 おしまい。

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