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それからは、私たちは取り留めもなくたわいもないことを話した。
ここのカップケーキは美味しいから持ち帰りにして明日のお弁当の時に食べたらいいんじゃないかって提案だとか、ヒナミは私の通っている高校の卒業生だって事実だとか、昔うちの学校で流行っていた七不思議の話とか、幽霊が語る七不思議なんて、全然怖くないね、なんて突っ込みとか。
そんな友達みたいな会話を、私たちはしていた。
お別れも、案外さらっとしたものだった。クリームソーダを啜るストローがずずっと空気を吸う音を立てた瞬間、「あ、食べ終わった? じゃあ私、成仏するね」とお会計でもするかのようなノリでヒナミは成仏を宣言した。
私の方もなんだか全く悲しくなくって、「あ、そう。それじゃ元気でね」なんて的外れな事を言って、私たちは永遠の別れを迎えた。声が聞こえなくなったってことは、きっとそういうことなんだろう。
夢みたいな話だと思ったけど、やっぱりそれが夢なんかじゃなかったことが分かったのは、次の日、試験返却日に学校に行った時だった。
午前中の返却が終わり昼休みを迎えた私は、昨日ヒナミの言っていたカップケーキの入った紙袋を取り出した。まだ口をつけたわけじゃないけど、紙袋の中には甘く香ばしい香りが充満していて、それだけでなんだか温かいものが胸からあふれるようだった。
そんなことを考えていたから、その鈴を転がすような声を、あの自分勝手で甘いものの好きな幽霊のものだと勘違いしてしまった。
「あ、その紙袋」
なんだ、まだ成仏していなかったのかと「なに?」と腹立たしさと一日ぶりだというのに懐かしさのない交ぜになったような声が漏れた。
「あ、いや。なにってわけじゃないんだけど。彗……ちゃんも、そのケーキ屋さん、好きなのかなって思って……」
声は、昨日までの内側から響くようなものではなく、私のすぐ横からたしかに耳に届いていた。慌ててそちらに顔を向けると、気弱そうな女の子が私の握る紙袋に視線を向けていた。
あ、この子は確か――
人付き合いのない私だって、クラスメイトの名字くらいは把握している。
だけど、その名字を思い出した瞬間、私は全てを悟った。
「
「えっと、うん。おばあちゃんが、そこのモンブラン、すごく好きだったんだ」
思わず声をかけてしまった風に慌てている日南さんは、普段私と同じように人の輪に入らずに過ごしていることが多い。
ヒナミ、もしかして孫に友達を作ってやろうとしたんじゃないの?
まったく、孫に甘いこった、と心の中で悪態をつくと、今にも自分勝手で無邪気な、あの可愛らしい声が返ってくるようだった。腹立たしいけど、ヒナミらしいというか、なんというか。
間合いをはかり損ねている私に、日南さんは、勇気を振り絞ったように一歩、歩み寄った。
「えっと……彗ちゃんは、ここのモンブラン、食べたことある……?」
私の方もなんだか相手に釣られてどぎまぎしてしまう。心の中を読み取られることなんてないとはいえ、ペースが狂うのは事実だ。
まったく、友達ってやつは面倒くさい。
でもさ。
心の中で、声が聞こえた。
その澄んだ声は、間違いなく私の友達のものだった。
『でもさ、面倒な友達付き合いでも、たまには――』
私も、一歩分だけ私に近づいてきてくれた日南さんに、頑張って目を合わせた。
ぱちりと合ってしまったその視線を逸らすことなく、心臓の高鳴りを、これから訪れるであろう、幽霊とモンブランの結び付けてくれた日々を思いながら、私は言った。
「うん。すっごく美味しいよね、あのモンブラン」
モンブラン・デイズ 青島もうじき @Aojima__
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