調査
暗くて冷たい宇宙。
星々の導きを頼りに、一台の小さな宇宙船が闇を切り裂くように飛んでいた。
「目的地までは、あとどのくらいだ」
隊長が細い背中から生えた羽を震わせて尋ねる。計器を見ていた隊員が隊長のほうへと振り向き、手で計器を指し示した。
「このまま順調に進めば、まもなく目視できると思います」
隊長と同じく、細い背中から生えた羽を震わせながら答える。
「次の惑星は平穏なところだといいのだが」
「ええ。この前の惑星は散々でした。言葉も通じず、我々が調査をしようとすると攻撃してきて。結局なにもできずに去りましたからね」
「ああ。宇宙がこんなにも野蛮なところが多いとは思わなかった。早く故郷に帰りたいものだ」
隊員が頻りに頷いた。
宇宙船は故郷のファル星を出発して、長いこと航行していた。
調査隊に与えられた任務は、新型の宇宙船の性能テストを兼ねて、近隣の未知の惑星を調査することだった。すでにいくつかの惑星の調査を終えたが、たいした成果は上がっていない。おまけに着陸すれば危険なことばかり。大事な任務を帯びているとはいえ、隊長と隊員はこの宇宙の旅に辟易していた。
「隊長。あれをご覧ください」
隊員が窓を指さす。
「おお。あれが今度の調査対象の星か。青くて綺麗だな」
「生命の反応も多数あります」
「どんな危険が待ち受けているか、わからない。細心の注意を払うとしよう」
隊長と隊員は協力して、宇宙船を操縦した。宇宙船は速度を緩め、青い惑星へと吸い込まれるように進んでいく。着陸は緊張するものの、慣れたものだった。
「よし、さっそく調査を開始しよう。生命反応が多いと、襲われる可能性も高くなる。さっさと終わらせてしまおう」
隊長は調査に必要なものを準備する。
「少し考えたのですが、現地の生き物に擬態するのはどうでしょうか? 身の危険を減らすことができるのでは」
隊員も準備をしながら、提案した。隊長は羽をゆっくりと動かしながら悩んだ。調査は危険だ。しかし、未知の惑星に長居するのも危険だ。
「やってみる価値はありそうだ。しかし、長居も危ない。時間を決めて、ちょうどいい生き物がいたら、擬態することにしよう」
こうして、擬態するのに手頃な生物が現れるのを待つこととなった。
しばらくして、隊員が声を上げた。
「あの生き物はどうでしょう? 我々と同じような羽があります。それに、空を飛んでいるので、調査もしやすいかと」
「大きさも我々と同じくらいだ。ほかに見当たらないし、あの生き物に擬態しよう」
宇宙服を黒く塗り、頭の部分に細長い突起物を取りつけた。からだの作りが似ていることもあり、ファル星人たちはその生物になんなく擬態した。
隊長と隊員は互いに顔を見合わせる。
「なかなか様になっているな」
「これなら、現地に溶け込むことができると思います」
万全を期した調査がはじまった。
調査は順調に進んだ。
「擬態したおかげで、襲われることもなかった。思ったよりも早く終わりそうだ」
「隊長。あそこも調査してみませんか? 我々が擬態した生き物が、よく飛行しているところです。なにがあるのか気になります」
「温厚な生き物が多い星のようだ。危険はなさそうだし、調査してみよう」
擬態した生物は橙色の巨大な山のようなところをよく飛んでいた。ファル星人たちは橙色の山へと近づいた。近づくとより大きく感じた。山のようだったが、地面はぶよぶよしていて、柔らかい。そして、生温かった。
「変な場所だな。なにがあるのだろう」
隊員がつぶやいた。
「なにか、嫌な予感がしてきた」
隊長もつぶやく。
束の間、頭上からものすごい圧力が接近してきた。ファル星人たちは、避ける間もなく絶命した。
「見てよ、これ」
ファル星人からしたら、巨大な山に見えた生物がしゃべっている。
「二匹も蚊がいたの。喰われる前でよかった」
朗らかな声が、夏の午後の庭に響いた。
孤独な石 Lugh @Lughtio
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