左目から涙が流れ続けている男性が主人公です。自分の体の一部が「異形」になっているのに、地に足のついた主人公に驚かされました。しかし、そんな風に冷静な分、周りとの対比が目を引きます。淡々と日常の生活を描きつつ、想像を広げる余白もあり、とある語句のリフレインが印象的な短編です。
目眩と不安に襲われる掌編でした。それでいて妙に淫靡な昏さもあります。「去年マリエンバードで」という映画のように意味のない問いと不可思議な周囲の人々が歪んだ時間軸を通り過ぎてゆく感じがしました。いろいろ感じたことはあるのですが、ひとことで言うと、しびれました。すごいです。