1-2
「昨晩未明、新たな被害者が発見されました。遺体が発見されたのは-」
新泉はニュースキャスターの淡々とした語り口を睨みつけ、リモコンで乱暴にテレビの電源を落とした。
新泉が紗倉と喫茶店で会ってから一週間が経った。その間にも被害者は増え続け、世間は連続変死事件、通称”うんこまん星人ダブルゼータ事件”の話題で持ち切りになっている。
あの喫茶店での夜からというもの、新泉はひたすらにインターネットへと潜り込んでいた。SNS、掲示板、チャット…様々なサイトやアプリへと出入りし、ひたすらに情報を集めていた。
だが、新泉の努力虚しく手に入る情報は信憑性に欠けるものばかり。うんこまん星人ダブルゼータは実は外人だの、うんこまん星人ダブルゼータは実は僅かなカカオ豆で生活している貧困層だの、この前ちんこまん星人ダブルゼータを見かけただの、取るに足らない情報ばかりであった。
「こんなに被害者が出てるのに…」
新泉は薄暗い部屋の中で一人、苛立ちながらパソコンと向かい合っていた…
不意にスピーカーから通知音が鳴る。画面には参加していたチャットルームの1つに新たな参加者が入ってきたことを知らせるログが流れていた。
HANA『こんばんゎv』
いかにも、といった挨拶をするのはハンドルネームHANA。チャットルームの面々が挨拶を返していく中、ROM専していた新泉はこのルームに見切りをつけて他のルームを巡回しにいこうとした。その時だった。
HANA『皆さんうんこまん星人ダブルゼータの新しい話、知ってますか?(かわいい顔文字)』
新泉は目を見開いた。他の参加者たちも同様だろう。即座に返信がログを埋め尽くす。
まいみょん『え?なになに?』
泥酔ちゃん『そこら辺に転がってないやつ頼むぞー』
うんこはにがくてうまい『新しい話ってなんだよw』
ちんこまん星人『単芝死ね』
参加者の発言が画面の上から下へと流れていく中、新泉はカーソルを退出からゆっくりとどけて、HANAの発言を待った。
HANA『実際にうんこまん星人ダブルゼータと会話してる人から聞いたんですけど』
HANAはそう言って胡散臭い前置きすると、謎のURLをチャットへと貼り付けた。
HANA『これです…』
なんとも胡散臭い切り出しだが、まともな情報にありつけなかった新泉からすれば藁にもすがる思いだ。グロ画像でもいい。ブラクラでもいい。新泉は即座にURLをクリックした。
が、グロ画像が表示されることも、ブラウザがクラッシュさせられることもなかったが、代わりに読み込みが一向に進まない。回線も良好だしパソコンのスペックも問題ないはず…
ページの読み込みを待っていると、チャットの通知音が鳴り響く。
マグナキッド『全然開かないじゃん!』
まいみょん『え!?ほんとに開いたの?』
うんこはにがくてうまい『逆に開いてないの?w俺もう300タブぐらい開いてますけどw』
ちんこまん星人『単芝死ね』
チャットの住民たちも開かないページに困惑している様子。勿論新泉のページも読み込みが進まない。
ただの悪戯か?
新泉が何杯目かわからない珈琲でも飲もうかとボトルに手を伸ばした、次の瞬間、画面上部から徐々に、大昔のホームページのような低速度の読み込みが始まった。
真っ黒の背景に赤いテキストが表示されていく。
泥酔ちゃん『…なにこれ』
まいみょん『どんなん?怖いから教えてー!』
たかし『じゃあまいみょんLINE教えてー!』
マグナキッド『めちゃ気持ち悪い…』
マグナキッドが言うように、URL先はなんとも悪趣味だった。赤いテキストは人名の羅列だったのだ。黒色をバックに改行もされていない人の名前がずらりと並ぶ画面に、新泉も思わず息を呑んだ。
うんこはにがくてうまい『なんだよこれ』
まいみょん『HANAちゃんさーん?』
泥酔ちゃん『落ちた?』
チャットでは参加者の発言こそ流れど肝心のHANAからの返信が途絶えている。
HANAの返信がないのも不気味だが、HANAが貼った赤文字のホームページも不気味だった。新泉は薄気味悪さを感じつつも、いよいよ読み込みが終わったそのページへと視線を移す。赤文字の羅列は人の名前だということはわかったが、よく見てみれば名前と名前の間に数字が書かれている。
新泉は不気味なホームページをスクロールしながら、ふと思い立って中村の名前をページ内検索にかけた。
もしかしたら犠牲者を羅列しているのかもしれないと思ったのだ。
中村の名前を打ち込み、一瞬躊躇して、Enterを押す。
「…出てこない」
新泉は何故か少しだけホッとした。もしここで中村の名前がヒットしてしまったら、彼が死んだことも、殺されたことすら認めなければならなくなってしまう…。新泉はまだ、受け入れたくなんかなかったのだ。
一息つくと、チャットの様子を見にタブを開き直した。
うんこはにがくてうまい『きっもちわりいけど意味わかんねーな』
泥酔ちゃん『これ死んだ人の名前とか…?』
まいみょん『泥酔ちゃんさんあたまかしこー!』
脳天気な探偵たちの的はずれな推理でチャットは盛り上がっていた。
やれやれ…新泉はその様に緊張の糸が解けて椅子に深く座り直した。悪戯の類だろうか。よく考えてみれば被害者の名前を羅列させる意味なんかない。仮にこれがリストなら尚更。もしリストを作るならば-…
「これから殺す相手の名前…」
新泉は自然と口から零れ出た言葉にゾッとした。
そして慌ててページ内検索へと自分の名前を打ち込む。
結果は一致なし。
そりゃあそうか。被害者が200件を越えたといえど、日本の人口からすれば”当たり”を引くには結構な確率だ。そもそも、このページがうんこまん星人ダブルゼータと関係のあるものとも限らない。
…とは言え、一応、念の為。どうせ大丈夫だけど、念の為。
新泉は紗倉の名前も検索にかけた。
検索機能は画面を下部へとスクロールした。
そこには、紗倉のフルネーム。そしてその横に”1”と入力されていた。
新泉は目を見開いた。
視界が揺らぎ、全身から嫌な汗が滲み出るのを感じる。
慌ててスマートフォンへと手を伸ばし、即座にLINEを開く。
『紗倉、大丈夫?なんかあった?』
新泉はLINEの画面を祈るように見つめる…しかし一向に既読がつかない。
心臓が飛び出そうなほど脈打ち始める。
今は22時、紗倉のアパートもわかる。
新泉は慌ててズボンを履いて、財布とスマートフォンだけを手にして外へ飛び出した。
うんこまん星人ダブルゼータ 家鳴り @nsh_ymd
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。うんこまん星人ダブルゼータの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます