いつか来る、別れが来ても
佐藤哲太
いつか来る、別れが来ても
季節は秋。
教室の窓から見える木々は見事に色づき、穏やかな風を受けてゆらゆらと木の葉を躍らせる。
ほどよい気温の中、放課後の教室に残っているのは四人の少年たち。
衣替え直前なのだろうか。着慣れた感じのシャツの袖が少しだけよれていて、すでに幾度となく袖を通してきたことを伝えてくる。
黒板は雑に消されただけで薄らと白く汚れているが、彼らはそんなことなど気にもしていない。
教室には彼らの他には誰もいなかった。
「最近どうよ?」
一番体格のいい少年、
「変わりなし」
ぶっきらぼうに、どことなく愛想の悪そうな少年、
「普段どおりかなぁ」
次に答えたのはマイペースそうな、少し中性的な少年、
「忙しい」
そして最後に気だるげな様子で答えた少年、
傾く夕日が、窓際で会話をする少年たちを赤く輝かせていた。
「それは」
「もしかして」
「
少年たちがにやけた顔で尋ね返す。
「……なんだよ」
照れた顔で少年がはぐらかす。
だが彼らは知っている。
裕太と、一つ下の学年で、可愛いと評判の
今高校三年の、大学受験を控える彼らにそんなゆとりがあるのか、と問われれば答えは沈黙が正解かもしれないが、逆に今だからとも答えたくなるかもしれない。
大学受験に向けて、疲れた時寄り掛かりたくなる場所があるのは悪いことではないだろう。
特にこと恋愛というものは、高校生活を彩る良きエッセンスなのは間違いない。
「翔だって、このまえ
「お、おい!」
突然話を振られ、翔がうろたえる。池山こと
彼自身も大柄な見た目から、気の弱い生徒からすると少し近寄りがたいものを感じさせるためか、似たような印象を持たれるからこそかもしれない。
二人が頻繁に話しているのは、他の生徒たちもよく目にするところなのだ。
「そーいえば」
「確かに」
俊樹と慎一の視線が翔へと移る。
「それはそうと、慎一だって、この前
急に話題を振られ、今度は慎一が慌てふためいて首を振る。
美雪ちゃん、
「な、なんで知ってんだよ?!」
慎一は自分の発言で墓穴を掘ったことに気付いた。が、後の祭りだ。しかし事実として美雪と交際を始めたのは紛れもない事実なのだった。
「人のこと言えないじゃねぇか」
「教えてくれればよかったのに」
裕太と俊樹が慎一に視線を移す。
「と、俊樹だってこの前
「なっ!?」
慎一の発言に、俊樹の頬が赤く染まる。
正直なところ、俊樹自身も彼女のことはかなり女性として意識している。付き合っているわけではないが、限りなくそれに近い状態であることは確かだ。
「確かに俊樹も」
「勉強だけじゃなく、やるこたぁやってるな」
裕太と翔が頷く。
そして全員が一度視線を逸らしあった。
教室内を包む、気まずい沈黙。
そして。
誰からともなく、紛れもない口論が始まる。いや、口喧嘩、と称した方が適切か。
大学受験生だということも忘れ、彼らは貴重な時間を浪費する。
いや、それはあくまで大人になったつもりの者の見方で、彼らからしたら、勉強よりも大事な時間かもしれない。
時折笑い合いながら、あーだこーだと口喧嘩はしばらく続いた。
そして夕日も先ほどより沈み、午後五時を告げるチャイムが鳴る。
「そろそろ、帰るかぁ」
疲れた声で切りだしたのは翔だった。
「そうだね」
俊樹が頷く。
「俺たち、馬鹿だよなぁ」
教室を出て、昇降口へと足を運びながら、慎一が呟いた。
「いいんじゃないか? たまには」
歩みを緩めず、裕太が答える。
その発言に残りの三人は苦笑。
成績が一番下というわけではないが、この中で一番勉強してないと思われるのが裕太なのだった。
「なんだよ」
むすっとした顔になる裕太。
だが他の3人はニヤニヤした表情のまま、何も言わず昇降口を目指す。
「ずっと、こんな風に他愛ないことでもみんなと話せたらいいのになぁ」
靴を履き替えながら言った、俊樹の少し切ない声が引き金だった。
「大学別々なっても、俺らずっと友達だろ?」
「まだ高校生活は終わらないって!」
「たまにはまたこんなこと話そうぜ」
ほぼ同時に裕太、翔、慎一が俊樹に向かって言葉を投げる。
そこで、四人は声を上げて笑った。
みんな、分かっているのだ。
大学受験というまだ見ぬ敵を前にしても、この仲間がいれば乗り切れる気がする。
確信はないが、そんなイメージが彼らの中にはあった。
冬が来れば全員が受験という戦いを迎え、卒業後はそれぞれ別の道を行く。
これから先、辛いことも苦しいこともあるかもしれない。
だが、進む道は違っても、共に過ごした時間が消えるわけではない。
笑い合う4人に、不安はないのだ。
晴れやかな秋晴れの下、校門を越える4人の学生服たち。
その足取りに、迷いはなく。
四人の友情は、確固たる絆で結ばれている。
いつか来る、別れが来ても 佐藤哲太 @noraneko0919
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