第104話 びしょ濡れ幽霊は......過去の映像、私の前世 (知羽 視点)
ココは何処でしょうか?
目の前に広がっている光景は、今まで私が知羽君の目を通して、見ていた街並みに似ている様で違います。
なんと言ったら良いでしょうか?
私が住んでいた街並みに似ています。
知羽君が住んでいる街並みにも似ています。
ですが、もう少し、自然が、木々や田や畑が多くて、家も、小さめなものや木造の物が多く。
だけど、何となくココは、私が住んでいる場所と似ているのです。
なんとなく、過去にきてしまった錯覚に陥ったと言ったら良いでしょうか?
私は何を見ているのでしょう?
先程まで、綺麗な、だけど痛々しいくらい、びしょ濡れで、悲しそうな表情の、幽霊のお姉さんがいて、私は何かを感じたんです。
胸の奥がキュッーと熱くなった気がしたんです。
少し離れた所にいる心の姿の優君達の事よりも、びしょ濡れの制服姿のお姉さんの方が気になって、胸の奥の方が熱く熱くなってきたのです。
そして今、私が見えている光景はすごく不思議なモノでした。
私は今までも知羽君の中に入ったまま、自分自身が知羽君の口から喋る事はできませんでした。
それはそうです。
私は知羽君の身体に少し居候させてもらっている存在。
私の身体は現在、私の世界の私の部屋のベッドの上で、チビと一緒に眠っている状態です。
マルちゃんがあちらの世界の時間を止めてくれていると言っていました。
そして今、見えているこの光景。
私自身がフワフワと浮いている様な感じがあります。
そう、言うなれば夢の中の様な感じです。
そして、見えてきた映像は三人の中学生ぐらいの子供です。
子供と言ったって私の方が、子供なのですが。
三人とも笑顔で楽しそう。
私はいきなり眠ってしまったのでしょうか?
この見せられている様な映像は、一体なんなのでしょうか?
『知夜ちゃん、どうしたの? 調子悪いの?』
三人の内の一人はあの美人なびしょ濡れ幽霊さんでした。
映像の中の三人は、仲良さそうに歩いている。
行く先は分からないけど、ごく普通の通学風景と言った様子。
もちろんびしょ濡れ幽霊さんもこの映像の中では濡れていません。
幽霊さんの血色は良く、ちょっぴりピンクい頬、柔らかく上がった口角から、すごく楽しそうな三人の空気感が伝わってきます。
その幽霊さんの名前は未那ちゃんというみたいです。
そんな事、私は知っている訳がないのに、私の中の何かが、そう言っている気がしました。
未那ちゃんと、その横には知夜ちゃんという、私に似たお姉さんがいて......。
私は三人をもっと近くで見たい、そう思いました。
そう、知夜ちゃんは私にそっくりなんです。
私よりも落ち着いているし、お姉さんだけど......。
そう思った時、目の前の空間がグニャリと歪みました。
『知夜!』
そう叫んでいる少しだけ声が低い、中年の女の人の様な声が聞こえてきました。
目の前は真っ暗です。
声だけが聞こえてきます。
私はこの時、色々な映像が頭の中を巡りパンクしそうでした。
視界は真っ暗に感じているのに、映像が見える。
不思議な感覚。
苦しくて悲しくて、だけど自分を思ってくれる皆が愛しくて、死にそうな自分の側に居てくれ様としていた大事な大事な男の子と......。
側に居た自分の愛犬の存在。
これは知夜さんの記憶。
そして、私は、知羽として生まれ変わる前は知夜という名前だった。
そう、『私は知夜』忘れたいと思って逃げて、今まで忘れていたけど、あの幽霊のお姉さんを見て、この映像を見て、未那ちゃんの笑顔を見て、思い出した。
私はどれくらい昔か分からないけれど......。
以前、知夜という名前の少女だった。
そして、私が人見知りなのは、イジメっ子の男の子の事が関係していると思っていたけど、どうもこの前世と関係あるのかもしれない。
私のネガティブな性格はココの時の自分が関係しているのかもしれない。
目の前にはずぶ濡れの幽霊さん、少し遠くには心の姿の優君達。
私が映像を見せられた時間は、ほんの数分だったのかもしれない。
目の前に、苦しそうな悲しそうな未那ちゃん。
そう、あのびしょ濡れ幽霊さんは私の前世の親友。
私は、彼女と向き合う必要がある。
まだ記憶はおぼろげだけど、私の奥底に居る前世の記憶(知夜としての私)が言っている。
彼女を救えるのは私しかいない。
私は彼女と、過去(前世)の自分を救う為に、今、ココにいるんだと、そう思った。
心の旅 揺れる乙女の大冒険。時々チビ やまくる実 @runnko
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