6 自炊……一応、前からしてたんだよ?【莉緒】
今日は自炊するぞ! って思い立った日に、ネットでレシピ検索してると、イケメン芸能人の料理動画に目が留まる。
イケメンと料理。最高の癒しだよね!
それがめちゃくちゃ好きな人だったりすると、例え冷やっこでも、十割増しで美味しく見えるから不思議。
この前も「ボクと一緒に作りませんか?」って、今話題の人気ナンバーワン俳優さんに誘われて、気が付いたら二人分のハンバーグのタネとかサラダとか準備しちゃってた。さすがに俳優さんに釣られてとは、こーくんに言えなくて、ごまかしちゃったけど。
そのこーくんも最近、私に感化されたって料理を始めた。
一昨日、動画アプリを参考にしてみたって、写真を送ってくれたんだけど、ハッキリ言って私よりも見栄えは良い!
ハンバーグに、適当な緑の野菜と白米ドーンだった私に比べて、こーくんは五穀米とタンドリーチキン、パプリカとかベビーリーフを使った色鮮やかなサラダが添えられて。更にそれを、ワンプレートに盛ってるの。確か画像の端には、スープまで写ってた。
完全なるカフェご飯。
女子力高過ぎて、謎の敗北感に襲われた後、羞恥心で無になって、最後、崇拝すらしたよね。
そんなこーくんが、今日は画面の向こうでオムライス作りに挑戦してる。もう、その選択が女子なんだけど、話す余裕なんて無いくらい真剣な様子が可愛いくて、にまにましながら観ちゃう。
なるほど、要所要所で仕事が丁寧なんだ。
「わぁぁ、こーくんすごーい! 初めてとは思えないよ! 完璧、料理男子だね!」
思わず拍手する。
「いや、でも、ちょっと卵が固まり過ぎたかも。やっぱ、慣れないと難しいな」
「それだけできれば十分だよ! 美味しそうー! こーくん、いい旦那さんになれそうだねっ」
「へっ⁉︎ あの、それは、うん……。おいおい……」
あはは。褒められて赤くなってるこーくん、回線が不安定で何言ってるか聞こえなかったけど、可愛いなぁ。
「それで、それで? そこにケチャップがあるってことは、仕上げに文字とか書いたりするの?」
「あ、はい。うわっ、とと……」
なぜか敬語で、ケチャップ倒したり動揺しつつも、こーくんが出来たてのオムライスに向かう。
まずは『す』……かな?
それから『き』……だよね?
『すき』? ひらがなで『すき』だよねっ?
女子力たっっっ、か‼
「こーくん、どうしてそんなに女子力高いの⁉︎ 私、すきなんて書いたこと一度もないよ!」
「あっ、ちゃう! これはっ、動画がっ」
慌てて、小さく文字を書き足した。
『ま』? 『ま』って書いたの? 『すきま』? 『すきま』って何⁉︎
︎
焦り過ぎて、ガチャガチャと調理器具たちと戯れ始めたこーくん。なぜか周りを見回した後、
「今のは、見んかったことにしといて……」
って、伏せた顔が耳まで真っ赤になってる。
「もう、こーくん、可愛すぎーっ‼︎」
やっぱり、大好きな人の料理は、十割増しで美味しく見える。
実は『すき』の時点でスクショしちゃってたのは内緒だけど、これは、私へのメッセージってことで、ラインの背景に使うくらい、いいよね?
彼と彼女のstay home 仲咲香里 @naka_saki
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