第2話 河志田くんはビッグウェーブに乗りたい

「あの女……只者じゃないな」


俺はあれから、先程ぶつかって来た女子を観察することにした。

幼い頃から周囲に気を配り、顔色を伺って生きてきたことで手に入れたこの『感知力』。そこらの平凡な人間に掻い潜れるはずがないのだ。


「なあ、聞いてるか?」


俺に向けて飛んできた声で我に返る。声の主は向かい側に座る男子生徒、俺にとって唯一の友と言える存在である石田いしだ 駆琉かけるだ。


「悪い、聞いてなかった」


「しっかりしてくれよ……。今日の部活、何するかって話だろ?」


ああ、そういえばそんな話をしていたような気がする。あくまでも『言われて見れば』程度の感覚だけど。


俺と駆琉とは、2人で『映像研究部』という部活に所属している。他にメンバーはおらず、創設者が誰かも知らない。


駆琉がどこからか、そんな部活が存在したという情報を元に復活させた。ただそれだけなのだ。


と言っても、映像について研究する訳でもなく、部室に籠ってゲームをしたり、MyTubeを見てケラケラ笑ったりするだけ。もはや名だけお借りしました状態だ。


そんな部活で何をするか話し合うというのは、そもそもがおかしい気がするんだが……。


「今日こそ決行するんだろ?」


石田のその一言で全てを察した。そうだ、今日は毎月恒例のあの日じゃないか。


「もちろんだ。このビッグウェーブに乗らない手はないだろ」


俺はグッと親指を立て、了解の意を示した。


……あれ、そもそも俺は何について悩んでたんだっけ?




その日の放課後。

俺達はこっそりと屋上にやって来ていた。


大抵の学校では屋上は危ないから立ち入り禁止になっていると思う。屋上に自由に出入りできるのは、アニメの中だけの話だろう。


しかし、そんな男子高校生の夢の墓場に繋がる扉が、清掃のため月に二度だけ開かれるのだ。

そして同時に、俺たちの月に一度だけの楽しみも訪れる。それが――――――――。


「うっほーい!なあ、すっげぇのがいるぞ!」


「おい、そろそろ代われって!俺も女子高生の水着姿を堪能したいんだよ!」


そう、水着だ。女子高生の水着なのだ。


俺たちの学校は本棟と別棟との2つの校舎から成っており、プールはグラウンド奥と別棟の屋上の2箇所にある。


本来はグラウンド奥の1箇所だったらしいが、創立何周年記念かで屋上にも作ったんだとか。


そして、我が校の水泳部は男子と女子に分かれ、2週間おきに交代で2つのプールを使っているのだ。


2週間おき……ここが肝なんだな。


屋上が開くのは月に2回。だが、月の真ん中にある一回目の解放日は、屋上プールを男子部員が使っている。


俺に筋肉を見て『うほほいうほほい』する趣味は無いので、楽しみは月に一度だけになるわけだ。


「うぉぉぉ!すげぇぇぇ!」


駆琉から双眼鏡を奪い取った俺は、プールサイドを歩く女子たちの楽園に雄叫びを上げた。いやぁ、このために生きてるって感じだよな!


「だろ!こんなスポットを見つけた俺、天才だよな!」


「ああ、駆琉!お前は天才だ!」


「「女子の水着バンザーイ!」」


2人でハイタッチしながらクルクルと踊る俺たち。……が、次の瞬間。


「ぶへっ!?」

「ぶほっ!?」


2人の頬に、なにか硬いものが直撃した。


「プールの覗き魔はあなた達だったのね」

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河志田くんは人生イベントを回避したい プル・メープル @PURUMEPURU

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