河志田くんは人生イベントを回避したい
プル・メープル
第1話 河志田くんは回避したい
突然だが、ひとつ質問をさせてくれ。
みんなは、この中でどれが一つだけ上げられるとしたら、どの能力を選ぶだろう。
1つ、コミュ力。
2つ、走力。
3つ、感知力。
……ん?コミュ力だって?確かにこのご時世、コミュ力って大事だもんな。
いくら勉強ができても、それを言葉にして伝える力がなければ、できないと同義なのだから。
走力と答えた奴もいるみたいだ。
早く、そして長く走れたら気持ちいいだろうな。
文化部所属の俺にはもちろん無縁な話だけど。
ああ、感知力が何かわからないから選べない……か。その説明をするのを忘れていたな。
感知力とは、自分の身に降りかかる災いやハッピーな出来事を感知して、前もってそれらをかわす術を探すことの出来る力――――――――――。
……そう、まさに俺が持っているみたいなやつのことだ。
心の中でそう呟いた瞬間、通学路を歩く俺の隣を車が走り抜け、そのタイヤが跳ねた水溜まりの水が俺とは反対側を歩いていた女子生徒を濡らした。
実は先程、こうなるであろうことを感知していたのだ。感知力とは、大袈裟にいえば未来予知みたいなものだな。
ただし、それを回避した結果、発生する新たな出来事を予知することは出来ないため、俺は下位互換のようなものだと考えている。
もちろんこれだけじゃ、俺の能力を信じて貰えないことなど百も承知。
なにせ、あの女子生徒はこれから学校だと言うのに、全身がびちょ濡れになってしまっている。『どうして彼女にも教えてあげなかったんだ、この鬼畜!外道!クソ陰キャ!』。そんな批判が来るのは目に見えていた。
だからこそ、ここであえて言わせてもらおう。
わざとだ、と。
考えてもみろ。女子高生が目の前でびちょ濡れになることを感知した健全な男子高校生が、一体なんのために彼女を救う?
こんなラッキーなこと、回避するなんて勿体ないだろ。今日からまた金曜日まで学校に通わなくてはいけないのだから、こんな気だるい朝には少しくらい眼福な幸運を堪能してもいいではないか。
水溜まりの水で赤い下着が透けた女子生徒の姿を、文字通り目一杯に堪能した俺は、幸せな気持ちでそこから徒歩5分の学校の門をくぐる。
下駄箱で上履きに履き替え、いつも通り階段を登って教室へと向かった。特に何も感知していないし、しばらくは人生イベントも起こりそうにないな。
俺は自分の机の上にカバンを置くと、ポケットからロッカーと鍵を取り出して再度廊下へと出る。……とその瞬間、横から走ってきた女子生徒と肩がぶつかった。
「……」
「急に出てこないでもらえる?」
呆然としている俺に、彼女はそう言って怪訝な瞳を向けると、「ふんっ!」とそっぽを向いて歩いていってしまう。
その背中を見送りながら、俺は今起きた出来事に首を傾げた。
「……どうして俺の感知力に引っかからなかったんだ?」
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