第二十話 銅級の達人
刻一刻と、俺の順番が迫っていた。
他の参加者に関してはあんまり見ていなかったが、200人いるうちの20人なら、どんな相手だろうとそれなりの強者であることは間違いないだろう。
「それではアルム様、前へお進みください」
運営者から声がかけられ、いよいよ俺の出番となるわけだが…………
俺のことを待ち構えていたのは、明らかに近接戦闘タイプで壮年の男だった。
手に持っているのは
鍛え抜かれた浅黒い見た目は、それなりに彼のの実力を示しているようであった。
アルム=フォルタリカ VS エラワン=ヌルゲン
そもそも魔法使いに近接戦闘タイプの相手を当てるのってどうなの?
たぶん俺じゃなかったらその時点で詰んでいる気がするんだけど……
そんな俺の心の不満は届きもせず、勝負開始の
「子どもとて、容赦はせんぞ」
「お手柔らかに」
エラワンは武人肌の熱血漢らしく、丁寧に叩きのめす発言までかましてきた。
身のこなしからしても、かなり使うと思われる。
……それならば、先手必勝!
『
様子見でも、そこそこの魔力を込めた一撃だ。
巨木ですら炭化させるそれを食らえば、ただじゃ済まないだろう。
だがエラワンは、一歩もその場から動こうとしない。
まさか真っ向から受ける気か?
……と思いきや、棒を横に薙ぎ、火球の方向をいとも簡単に反らして見せた。
「……ふん、このような小細工が儂に通用するものか」
ちょっとカチンとくるなぁ。
だけど、その一合でエラワンの技量が相当なものであることがわかった。
舐めてかかって勝てる相手でもなさそうだ。
「それじゃあ大細工ならどうですか?」
『
巨大な竜巻の中を複数の岩石が浮遊する、土と風の範囲型混合魔法だ。
もはや単騎の人間に使う技ではなく、城砦や、建造物を破壊するときに使用される魔法。
対象となるものに竜巻が纏わりつき、中を浮遊する岩石がゴリゴリと削っていく。
最悪、手足がもげてもくっつけられるし、殺めてしまいそうになったら、直前で止めればいい。
さすがにこれまで対応できないよな?
…………どうやら壮大なフラグを立ててしまったらしい。
エラワンはそこで初めて動いた……が、その方向が明らかにおかしい。
岩石吹き荒れる竜巻の内部へと、自ら飛び込んでいったのだ。
もちろん俺は魔力を弱めるつもりは毛頭ない。
完全に叩きのめすつもりで、魔力を収束させていくのだが……
岩石諸共、内部から竜巻を崩壊させられた。
このおっさん、やはり只者ではない。
「笑止! それでは我が奥義を受けてみよ」
叫ぶや否や、ひとっ飛びに、エラワンが距離を詰めてくる。
『千里岩砕突!』
それは手心なんぞ一切ない、千里先の岩をも砕く、必殺の突きだった。
子どもにも容赦しない発言は
神心流がいかな不殺の流派といえども、こんなのを普通の人間が食らえば、間違いなく死に至らしめるのではだろうか。
咄嗟にエラワンの立っている場所を流砂に変えることで、攻撃速度を減退させる。
エラワンの間合いの外へと退避し、何とか突きを回避した。
空を切った棒のその先には、壁に丸穴が開いている。
……あっぶねぇ。
これにはさすがに冷や汗が止まらない。
コイツ、技術で言えば、オルフレッドと同レベルなのではないだろうか。
「エラワンさん、俺が死んだらあなたの負けですよ?」
「ふん、現に死んでおらんだろう」
それ結果論て言うんですよ………
殺す気なわけではないようだが、加減を知らない性格のようだった。
まだ第二次審査なのにこんなに強いやつと当たるのか。
そしたら第三次はどれだけ…………
運営係りを見れば、目は見開き、青ざめた顔で汗をだらだら流していた。
いやそうだよね、やっぱりこんな傑物が等級審査に混ざっているなんて誰も予想してないよね。
こんなやつに当たるだなんて、やっぱり俺は運に見放されているのかもしれない。
「エラワンさんって今の等級はなんですか?」
「
うそつけぇ!
思っていたよりあっさり答えてくれたが、全く納得いかねぇ。
こんな初心者がいてたまるか!
これはもう、殺さぬ手加減なんてしている場合じゃない。
覚悟を決めねば。
「
「エラワンさん、死なないでくださいね」
俺の気配を察知したのか、エラワンも身構える。
舐めてたわけではないが、俺はエラワンを人間扱いしてしまっていた。
それ自体が間違いだったのだ。
『
『
地を走る炎獄に、絶えず流動し続ける砂漠と化した地面。
俺の立つ足場以外、人が生きるための場所はここにはなかった。
近接戦闘には範囲攻撃の技が一番効果的なのだ。
これにはさすがのエラワンも息ぐるしそうにしているが…………
「甘い!」
棒を勢い良く地面に叩きつけると、その反動で一気に跳躍し、俺へと間合いを詰めてきた。
だがこれも想定通りだ。
『
多面展開した
情け容赦なく、エラワンの四肢を断ち切るべく放った攻撃。
だが、エラワンはまさしく達人の域にいるのだ。
逃げ場のない空中でありながらも、棒でその悉くを弾いてみせた。
しかし、いかにエラワンと言えども、さすがにその全てには対応できず、何発かはその足に命中した。
致命傷とまではいかなかったが、機動力を削ぐには十分だ。
俺の勝ちが見えた気がした…………が…………、
「甘く見ていたのは、儂の方やも知れぬな」
エラワンはそう独り言つと、着地する直前に棒を振るい、地面を蹴って見せた。
意表を突く武器使いで、俺との間合いを一気に詰めてきた。
秘奥『羅漢轟連撃!!!』
それは見惚れるほど、舞踊を思わせるように流麗な「突・打・薙・斬」の四連撃だった。
また速度のせいか、その連撃も、まるで一振りの如く、技が一体化している。
武の極致とも呼べるであろうその技は、並大抵の修練では身につけることができないことは容易に想像できた。
喰らえば確実に沈むであろう、その連撃。
だけど………
俺が
そして対処法もわかっていたのだ。
ガリウスとの壮絶な修行。
その時に、四大流派と呼ばれる武器術、徒手空拳の型、その他古今東西の技術や、その秘奥に触れていた。
毎日毎日ボコボコにされていたため、今でも鮮明に思い出すことができる。
人の記憶と身体的な苦痛は、驚くほど密接に関係しているのだ。
俺は刀を抜き放ち、初撃をの突き受け流す。
東神流『流刀』。
そして二連撃目が起こる前、エラワンの棒の引き際についていくように、一歩前進する。
『羅漢轟連撃』の要は、最初の突きにあり、そこで得た間合いの利を後の連撃に活かしていく技なのだ。
単に避ける、喰らう、飛び交すなど、その気迫に当てられれば、一瞬にして詰むことになる。
怖くても、相手の懐に踏み込まなければ勝機はないのだ。
だが逆に、いかなエラワンのような達人といえども、間合いを潰されればその技に冴えはない。
後の、打・薙・斬を軽く受け流し、その喉元に刃を当てる。
「……参った。俺の負けだ」
地面に棒が落下すると同時に俺の勝利が確定した。
固唾を呑むように静まり返っていた闘技場も、一気に熱気と歓声で満たされる。
決して抜く予定のなかった愛刀を使わされたのは本当に誤算だった。
いや、初めに温存していなければ、負けたのは俺かもしれない。
なにせ近接戦では明らかに、エラワンに一日の長があった。
魔法・闘気の併用では埋まらなかった実力の差を、過去の経験と隠していた東神流の技術でカバーしただけだ。
それはまさしく薄氷の上の勝利だった。
試合後、俺は思わずエラワンに尋ねてしまった。
「俺の師匠と同じくらい強く感じました。どこで修行を?」
「とある山奥でな」
それだけ言うと、エラワンは場内を去っていっく。
それ以上、敗者にかける弁などなかった。
何はともあれ、愛弟子の前で無様な格好をせずにすんでよかった。
だがそれ以上に、今回の戦いで得た経験に喜びを感じる。
この経験がさらに俺を強くするから。
かくして、俺とリリアは第三次審査への参加権を得たのだった。
神を屠るその日まで 〜スパルタ神様の弟子となった俺は、地獄の修行で血反吐にまみれながら強くなります〜 白黒 なまこ @namakoribaashi
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