恋愛脳なギャルJDとおっさんの温泉旅行(6)
「そのままでいて」
動こうとしたところを止められて座ったまま待っているとアコが近づいてきた。
俯き加減になったまま膝小僧を椅子の端にかけて向かい合わせに由基の膝の上に座る。肩に腕をまわしてぎゅうっと抱き着かれると、浴衣越しにもほかほかと温まった体温とお湯のにおいを感じた。
「ねえ、ヨッシー。アコのこと好き?」
「うん」
耳元でのささやきに即答すると、アコはえへへと笑って由基と顔を見合わせた。
「アコもヨッシーが好き」
照れくさそうにまた目を伏せて顔を傾ける。くちびるが由基のそれに触れて離れた。少し角度を変えてもう一度。
触れたときよりも離れるときの方が軽くやわらかな感触をより強く感じて、しばらくは楽しんでいられたが何度もそれをされると、次に触れる期待と離れるわびしさでもどかしくなってきた。
アコの背中に手を回して姿勢を変えようとしたとき、くちびるが吸い付いて舌先が合図してきた。先を越された。ちょっと悔しく思いながらも応えて口を開ける。
唇の内側を軽く探った舌はすぐに離れた。少し心配になって尋ねてしまう。
「酒臭い?」
「んーん。コーヒーの味がする」
アコはすぐにまた上からくちづけてきた。今度は最初からがっつりディープに。同時に襟元から入り込んだ小さな手のひらが熱かった。肩先から鎖骨まで撫でまわす手つきは、いつも無邪気に腕にまとわりついてくるアコの手と同じとは思えない。
息が弾みそうになって我慢する。アコが吐息をこぼすのと同じタイミングでどうにか息をついた。にじり寄った細い腰が、熱がこもりはじめた部分にあたる。具合を確認されてるのか?
だったら、とこっちから腕を回そうとすると逃げるように先にアコが体を起こした。椅子から膝を下ろしていったん立ち上がってから、由基の脚の間にひざまずく。
「アコにまかせて」
いつものようにえへへと笑いながらも、上目遣いの瞳はいたずらっぽさよりも熱っぽさで潤んでいて、既に酔いとは別の心地よさに呑まれ始めていた由基は彼女に為されるがままになったのだった。
汗だくでシーツに沈んだ由基の横で起き上がると、アコは広縁に脱ぎ捨てた浴衣を拾って着直した。
「またお風呂にいかなきゃ」
「そうだね……」
ぐったりと目を閉じたままでいると、物音でアコが出ていったのがわかった。しばらくしてから由基もようやく起き上がる。額に汗が流れて苦笑する。セックスってこんなに汗をかくものだったか?
捨てるものをくずかごに捨て、浴衣を着てまた風呂へと向かった。本日三度目の風呂だ。正しく温泉旅行の満喫の仕方であるかもしれない。
再び露天風呂に浸かりながら疲れた、と思わずにはいられない。行為自体はとてもヨカッタのだけれども。
昼間にスワンボートなどに乗ったのが敗因だ。それさえなければまだまだ……ということにして風呂を出る。
客室に帰る道すがら改めて足腰がヤバいことになっていることを自覚する。明日の朝、筋肉痛がきたら泣く。
渡り廊下の途中でガラス戸の向こうにアコがいることに気づいた。引き戸があって、そこから中庭に出られるようだ。外は冷えるだろうに。
中に戻るよう声をかけに由基が外に出ると、アコは嬉しそうに笑って上を指差した。
「お星さまがすごいよ」
「……そうだな」
目を凝らせば天の川も見えそうだ。
「ここ、いいとこだね。また来たいな」
来るのはいいけど、スワンボートには二度と乗らない。心で誓う由基にアコがぴとっとくっついてくる。
「お部屋に戻ったら、もう一回する?」
もう無理です。おじさんは死んでしまいそうです。
~おしまい~
恋愛脳なギャルJKに好き好き迫られてるおっさんだが俺も恋愛脳になってしまうのだろうか 奈月沙耶 @chibi915
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