第3話

「幽霊…?」

楠が聞いてきたのは幽霊の有無についてだった。

どんな話をされるかと思えば…

「そう」

「信じない。いるわけないよ」

率直かつ、素直な返答をした。

実際、この山には何かいるって噂があるけど自身で見たことがないしそれっぽい経験もしたことがないから信じ

ていない。

「そうか。なら、神は?」

「…それを聞いてどうするの」

会話中、何故か僕の体は全く動かなくて、金縛りにでもあっているようだった。

「興味がある。君が非現実的なものの類についてどれだけ関心があるのか、をね」

「…そ」

体が動かない以上、出来ることは会話くらいしかない。

仕方なしに僕は楠の質問に全て答えることにした。

「全く信じてない。加えると楠、お前のこともそんなに信用してない。たった数日会っただけの人なんて簡単に

信じらんないから」

「確かに。君はよく一人で行動しているようだね。学校でも、その他でも」

「その他…?」

楠は僕の生活をどこまで見ているんだろう。

というか、どうして僕を…?

え、これって、楠は所謂ストーカーと呼ばれるものじゃないか…?

その可能性が頭を過り、もしやこれは危うい状況なのではないかと冷や汗が出て来た。

「楠…お前、何…?」

「私?私は」

そこで言葉を区切ると僕の目の前に跪き、僕の右手を取った。

「な…」


「楠神楽。簡単に言うと、君のしもべ、かな」


楠から出た単語はとんでもないものだった。

いや…え、何だって?

「ごめん。聞き間違いかもしれない。もう一回」

「えっと…楠神楽。結論から言うと、君に仕える人」

何か若干、言葉が変わったな。

意味的には一緒か…?

しもべ、仕える…

「いや、意味、わかんない」

「今はまだわからなくて良い。いずれわかる時が必ずくるから」

楠が僕の右手を離すと同時に金縛りのようなものは解け、動けるようになった。

…何だったんだ。

「さて、夕暮れも近いし、そろそろ山を下りた方が良い。来た道をこの前みたく、振り向かずに真っすぐ下って」

どこかで聞いたお決まりの条件を出してくる。

…この前?

実際にこの山を下るのは今日が初めて…

「ちょっと、楠」

「気を付けて」

僕は楠のその言葉を聞いた途端、意識を乗っ取られたかのように、山を下っていった。




…目覚ましの音が聞こえない。

朝弱い僕にとって目覚まし時計の三つ目が鳴り出したところで目覚めるのが日常なのに、今日は予定起床時間の

三十分前には目が覚めた。

それにしても…山に登ってからの記憶が曖昧だな。

確か、鳥居と、社と、家と…それから楠がいた。

僕は…何を聞かされたんだっけ?

「まあ、良いか」

無気力に生きる僕にとって考えるということはやってはいけない行為なので、思考を捨て、朝ご飯を食べること

にした。

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タイトル未定 紅ノ夕立 @AzuNagi

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