異世界作ってみた

甘木 銭

異世界作ってみた

 あー、どうも、神様です。


 仕事は転生の管理。


 異世界転生、六道輪廻、生まれ変わり。

 そういうのを全部管理してるんだよ。、


 仕事はそれだけ。

 だけど神様は僕一人。

 ブラック企業も真っ青!! 超絶激務だよ〜……


 つまり、神様ってのは君たちが思ってるほど君たちに構ってる余裕がないんだよ。


 とまあ、それももう昔の話。


 今はなんでも自動化の時代だからね。

 普通の生まれ変わりも異世界転生も全部お任せで出来ちゃうようになっちゃった!


 いやー、技術の進歩ってすごいね。


 でも、今までずっとやってきたライフワークが急になくなっちゃうと暇でさあ。


 そこで、暇つぶしのためにちょっと考えてみたんだよ。


 新しい世界を作っちゃおうって。


 まあ僕は神様だからそこまで難しいことじゃない。

 一週間もあれば簡単にできちゃうよ。


 呪文を唱えて材料をまぜまぜ~。

 うん、いい感じ!


 適当に国土を作って、自然を作って、あとは動物だね。


 そして最後にモブとしての人間を大量配置!


 文明と技術は最初から与えちゃおう。

 よくあるファンタジーらしい文明レベルにして……モデルは中世ヨーロッパとかそんな感じ?


 あっ……!!

 まずいなぁ、疫病も作っちゃった。


 まあいいか。

 ちょっと人間と動物が減るだけさ〜。


 歴史は二千年分くらい捏造しておくとしようか。


 う~ん、完璧!


 それっぽいものが出来たんじゃないかな?


 それじゃ次はやっぱりドラマが必要だよね。


 元々転生をやってたわけだし、物語の主役は転生者がいいかな。

 異世界転生といえば、日本から連れて来ないと。


 まだ転生先が決まってない魂を集めて……半分にはチート能力を付与しちゃおう。

 力、頭脳、その他あらゆる技術の才能、死んでも教会で無限に生き返る祝福も!!

 勇者になる使命と一緒にね。


 おっと、あっという間に何千人も集まっちゃった!!

 半分は人間にするけど、全員は勇者になれないねぇ。


 まあ素質だけは与えてあげよう。

 生かせるかどうかは君たち次第だよ〜。


 そしてもう半分は「魔物」にしちゃおう。

 こっちも努力次第で魔王や中ボスになれるように調節して……。


 う~ん、いいねいいね。


 これで、転生した人間同士の殺し合いが出来上がり!

 まあ、当の本人たちはそんなこと知らないんだけどね。


 モンスターになった人たちは、人間なのに人間に殺されちゃって可哀想だよねぇ。


 もちろん、前世の記憶は保持したまんまでね。

 そうだ!

 魔物の彼らはかわいそうだし、死ぬたびに上位種になって復活、みたいにしてみよう!


 じゃあ早く強くなれるように、最初は弱いモンスターにして人里の近くに生まれさせてっと……。


 さ~て、準備完了!

 どうなるかなぁ?


 おっ、戸惑ってる戸惑ってる。

 何の説明もしてないから仕方ないか。


 だって何千人規模で転生させたもんなぁ。

 いちいち説明するのは面倒だからね!


 まあ、普通に死んだらそれで記憶がリセットされちゃう訳だし。

 記憶を保ったまんま生まれ変われるんだから、むしろ感謝してほしいよねー。


 うん、人間側もいい感じに育ってきた。

 今は大体十代から二十代くらいかな?


 いいねいいね、どんどんモンスターを狩ってるよ。

 まあ、倒せば倒すほど強くなっちゃうんだけどねぇ。


 君たちもどんどん経験値を積んでくれたまえ~。


 おっ、あれはすごいぞ!

 見えてるかな? ちょっと微妙だけど。


 あそこで戦ってるモンスターと人間。

 あれ、前世では親友同士だったんだよ。


 もうお互い気が付かないだろうけどね。

 何も知らずに、人間とモンスターってだけで憎み合ってる。

 面白いよねぇ〜。


 あっちは元恋人同士。

 こっちは元親子だね。


 ここに来てるってことは同じくらいの時期に死んだのかな。

 珍しいけど、ありえないことじゃない。


 今のところは人間側が優勢かな?

 武器も知恵も揃ってきて、魔物を狩れるようになってきた。


 でも、モンスターもどんどんリスポーンして育って来てる。

 何度も殺されて、人間に対する憎悪も育って来てるかな。


 そろそろ……そろそろだよ。


 ほら来た!!


 今死んだ彼を見なよ!


 魔王の誕生だ!!


 魔王がどんどん勢力を拡大して、強くなったモンスターも魔王軍の幹部になってきてるよ。


 パワーバランスが一気に変わったなぁ。

 人間の側にも死者が増えて来たね。


 まあ転生者たちは教会で復活できるから気にしないで。

 モブは諦めだね。


 でも、ただのモブでも彼らには大事な存在になりうるからね?


 転生者の彼、結婚の約束をしていたモブが殺されて、大層お怒りみたいだよ。


 このまま心が折れて使い物にならなくなるか、それとも覚醒するか……いやぁ、楽しみだね。


 そんなことを言ってるうちにあっちでも大きな動きがあったみたいだ。


 日本で新しい死者が出る度に適当に選別してこっちに送り込んでるからね。

 どうやらすごい才能を持った新人が、人間とモンスター側両方に出て来たみたいだ。


 凄いよあのモンスター。

 今はここに来たばっかりで雑魚だけど、ゆくゆくは今の魔王に取って代わっちゃうかも?


 人間は……うーん、こっちはちょっと期待外れかな。

 直接戦いに参加せずに商人や職人になる奴が出てきちゃった。


 まあ確かにそっちの方が楽だよね。

 文明や技術のレベルも元の世界の方がずっと高いし、元の世界で当たり前に使ってたものとか、再現できればこっちじゃ発明王だもんねぇ。


 ちょっと予想外だけど、あれはあれで好きにやらせておこうかな。

 そうだ、製作者特権で商才や職能をスキルとしてめちゃくちゃに上げてあげよう。


 対価として、後々戦いに参加してもらうけどね?


 まあそんな運命は神のみぞ知る、なんてね。

 呑気に平和を謳歌する皆さん~?


 ほら、人間が魔物を狩って素材と経験値を収穫しまくってる。

 そろそろ味を占めて来たみたいだね。


 モンスター側も自分の身を守るには人間をぶっ殺さなきゃいけないって、ようやく理解したみたい。


 いいね。

 どっちもいい感じにエゴいよ!


 ……あ。

 さっきの彼だ。

 やっぱり魔王に取って代わった!

 元の魔王はリスポーンして魔王軍幹部……まあ順当だね。


 お、そうこう言ってるうちに人間側からも勇者候補が出て来たね。

 と言っても、転生させた人間の十分の一くらいか。

 まあ何の説明もなく連れて来られた世界でわざわざ痛い思いしたくないのかな。


 まま、とりあえず候補から勇者を選出しないとね。

 そーら、神のお告げだぞー。

 勇者は、彼かな。


 おーおー、喜んでる。

 人類の希望の星だね。


 え? 基準?

 別に適当だよ?

 人間なんてちっぽけな存在に大した違いなんて無いよ。

 抜きん出るのは僕に選ばれてから。


 さてさて、じゃあ神のご加護を与えましょう。

 魔王討伐頑張ってねー。


 ……。

 …………。

 ………………。


 ふあーあ、うーん……

 お、一眠りしている間に終わったみたいだね。


 お見事! 見事勇者は魔王を倒しました!

 討伐に掛かった時間は……三年!


 ま、あの魔王軍の規模から見たら早い方かなー?

 さてさて、お祝いの言葉をあげないとね。


 おっ、勇者パーティの彼!!

 覚えてる? 恋人を殺された彼だよ!!

 立ち直って前線に出てきてたんだ!


 すごいすごい!!

 期待通り、いやそれ以上だ!!

 初めてやった割にはいい感じだなぁ。

 前回は僕くらいしかめぼしい活躍がなかったらしいし。


 ん? もちろん!

 まだ終わりじゃないよ。


 魔物側は死ぬたびに新しく、より強いモンスターとなって復活するからね。

 魔王も例外じゃないよー。


 さあ、復活した魔王が表に出て来たね。

 ステータスがすごいことになってるよ〜、さながら大魔王だなぁ。


 勇者に倒された魔王軍幹部たちもより強くなって復活している。

 良いね良いね、盛り上がって来たね。


 これから人類対魔物の大戦争が開始だね。


 まあでも勇者も魔王もお互い復活しちゃうから、魂ごとぶっ殺さないとねぇ。

 まああれだけ強くなってればできるでしょー。


 後は、人間の命を完全に消し去る覚悟が必要かな〜?

 理屈は教えてないけど、薄々感づいてそうなんだよねー。


 まあお互いぶっ殺すために頑張ってねー。

 で、そのまま神様もぶっ殺しちゃおう!

 いやぁ懐かしいね、僕も先代をぶっ殺して神様になったんだよ。


 おっと、年取るとすぐ昔話を始めちゃっていけないなぁ。


 さあ、人類も大魔王の復活に気が付いたね。

 でももう遅いよ。

 魔王軍は既に人類の拠点に向かっている。


 人間たちは城に籠ってるけど、王都から遠い所からどんどん壊滅していってる。

 この世界の人間もたっくさん死んでるねぇ。


 そうそう、この世界に元から住んでる人間は生き返らないからね。

 護って勇者サマ!

 まあ彼らはモブだから護る価値なんてないんだけどさ〜。

 雰囲気雰囲気!


 おっといけない! 神託神託!


「すべての転生者よ、今こそ立ち上がり魔物と戦うのだ!」


 なんちゃってね。

 あ、ほら、転生者達がぞろぞろ出て来たよ。

 前線の城に籠って魔物を食い止めるみたいだね。


 でも魔物もかなり強くなってるよ〜。

 ほら、あれは転生者じゃない一般兵士。

 彼の攻撃は、槍も弓も全く魔物に通用してないね。

 それでも家族のために頑張って戦ってるのがいじらしいけどね!


 ……あ、死んだ。

 彼は生き返れないけど、ちょっと生き返らせてあげたくなっちゃうね。

 かわいそかわいそ。


 さーて、一方勇者は……お、いたいた。

 うんうん、自ら最前線に出張ってるね。

 功績があるから後方でぬくぬく指揮官してもいいのに。やっぱり正義感が強いのかなぁ。


 いやー、僕の眼に狂いはなかったね。

 彼を勇者にして正解だ!

 まあ適当に選んだんだけど。


 いやしかし、成長したねえ。

 魔王を倒してからもどんどん成長してるよ。

 子供の成長を見守る親の気持ちが分かったかも!


 それに比べて後方の彼らは……。

 早々に商人や職人になって安全地帯に逃げてたからね。

 戦闘能力ダメダメですぐに魔物に殺されちゃってるよ。


 まあ転生者だから戦闘から逃がしてあげないけどね。

 普通の兵士よりは強いんだから当然だよね!


 それにしても、見てよ。

 今更「死にたくない」みたいな顔して、ギャーギャー騒いでる。

 最前線の勇者たちはもう何回もその段階を踏み越えてるのにさ、甘えてるよね。

 出来の悪い子供を持った親の気持ちってこんなかなぁ。


 そりゃ生産職につくことが悪い訳じゃないけどさぁ。

 こっちは戦えって言ってんの。


 あーあ、僕もあんな風に呑気に安全地帯にいたかったもんだよ。

 転生の恩恵も与えられて、復活も出来て、自分たちが恵まれてることに気が付くべきだよね。


 さーて、魔物は……おっ、すごい!

 大魔王や幹部が自ら出向いてるよ。

 やっぱりトップに上り詰めるヒトってのはガッツが違うよね。


 こりゃ、勇者と出くわすのも時間の問題かな。

 いいぞー、どっちも頑張れ!


 魔王軍、どんどん人間を殺す殺す殺す!!


 一方の人間も、どんどん魔物を経験値に変えていくぞー!

 勇者凄い! パーティメンバーとともに、たった一撃で強くなった魔物たちを蹴散らしていくぞー!


 おっ! 大魔王、こちらもこちらで特大魔法を遠距離から直接城に撃ち込んだぞ!!

 大爆発!!

 命があっという間に散っていくー!!!


 ……なーんてこと言ってる間に、どうやら出会っちゃったみたいだね。

 さあ、人類最強対魔族最強の頂上決戦だ!


 負けた方は種族ごと滅亡だ!

 栄光はどちらの手に!?




 ……とまあ、これがこの世界と君らが辿ってきた歴史だよ。

 ん? うんうん、そうだよねー、直接頭に情報送られるのは気持ち悪いよねー。

 でも、一瞬だったでしょ?


 リアタイ視聴してた時の僕の実況もつけといたから、退屈しなかったでしょ?

 勝ち上がってきたヒトに聞かせてあげようと思って、アーカイブしてたんだよー。


 邪魔? えー、傷つくなー。

 まあ、ともかくだよ。


 まずは勝利おめでとう。

 あ、これさっきも言ったか。

 えーと。


 おっほん。

 これで、あの世界での君たちは一族郎党全員安泰だよ!

 やったね!


 ん? ああ、彼はもう生き返らないよ。君が上手いことやってくれたからね。

 魂ごと消えちゃったんじゃないかな。


 最終決戦でまで生き返ってたら永久に決着が着かないじゃない。

 何回も復活して面倒だったよねー、お互い様だったけど。


 さて、それではこれからの話をしようか。

 ここからはエクストラステージです。

 突如飛ばされた異世界で無事、幾多の困難を乗り越えたあなたには特別な報酬が与えられます。


 もったいぶっても仕方ないね。

 要するに、その報酬ってのは神様……つまり僕と戦う権利だよ。


 見ての通り姿は転生前の君になってるけど、ステータスはあの世界での君そのまんま。

 今までの努力の成果をぶつけてね。

 魂が完全消滅しない限りはリベンジマッチもアリだよ。


 無事に僕をぶっ殺せれば君の勝利。

 君が次の神様だよ!


 神様になれば無限の寿命と世界の管理権限が手に入る。

 まあ最初に言ったとおり、自動化も進んで大した仕事はないんだけど……。


 あ、後継者を選出するゲームも出来るよ。

 ルールやシステムは自分で自由に決められるから、退屈になったらやってみてね。


 とまあ、細かいことはマニュアルにまとめてあるから、無事神様になれたら読んでみてね。


 ……え?

 いや、くだらないとか言われてもさあ。

 僕にとっては結構な重大事項だよ?

 まあ君も神様になったら分かるって。


 さあ、じゃあもう待ちきれないみたいだし、始めようか。

 ああ、そんな怖い顔しないでよ。


 もう何人も殺して、そういう悲壮感みたいなのはマヒしちゃってるでしょ?

 それとも、自分がやってきたことを見つめ直して冷静になった……とか?


 おーっ、怖い!

 せっかく久しぶりに人間の姿になったのに、魔王みたいな顔だよ?

 あはは、そうそう、その意気だ。


 さあ、君は僕をぶっ殺せるかな?








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