かめのぞきのこいごころ
「ほんっと雪斗のくせに、雪斗のくせに!」
「さっきから何度目だよ、それ」
帰り道。
互いの手には水色のアイスがあった。
「ま、でも、雪斗がアイス奢ってくれたから許してあげる」
「何様だよ」
ははは!と栞菜は少しだけ乾いた声をあげる。
アイスを齧ればもう柔らかく、慌てて大きく口を開けて噛みついた。
「んーーーーーっ、なーんか、すっきりしたかも!」
彼女はすでに棒切れを握って前を歩いていた。
両腕を思いきり空に突き上げて、背伸びをしている。
「それならよかった」
「やっぱり、持つべきものは幼馴染みだよねーっ」
残ったアイスを口にいれながら、僕は彼女の背中を見る。
すこし汗が付いたシャツは風に揺れて、鞄についた小さなぬいぐるみがこちらをじろりと見返してくる。
最後のアイスを口の中で溶かして飲み込み、僕は口を開いた。
「正直、もううんざりだけどな」
「…え?」
振り返った栞菜は驚いた顔をしていた。
棒切れだけになったそれを固く握ったまま、僕は立ち止まった彼女を追い抜き置いていく。
「え、ちょちょちょ、ちょっとまって、どういうこと!?」
「寄るな暑い」
「いやいやいや、急にどうしたの雪斗?」
「くっつくな、暑いってば」
「暑いとか言ってる場合じゃないよ!?どういうことよ??」
ぎゅうぎゅうと僕の腕を掴んで握ってくる。
ただでさえ汗だくなのに、余計に暑くて僕はその手を振り払った。
うそ…と栞菜は立ち止まり、青ざめた顔で僕を見た。
「うそだよね…雪斗」
「うそじゃない、うんざり、本当に」
「なっなんで」
「お前は好きな人が多すぎるんだよ」
「えー!?まだ3人じゃん!幼稚園の先生を含めて!!」
「好きな人ができるたびに報告される身にもなれよ」
「そ、それは雪斗が黙って聞いてくれるんだもん」
「そんで、どれだけ好きか語られる身にもなれよ」
「…それは雪斗がいつもいいねって言ってくれるんだもん」
「そのあと、フラれるたびに一緒に落ち込んで泣きそうになる身にもなれよ」
「は?」
沈黙。
彼女は意味がわからないとばかりに眉間にシワを寄せる。
僕は見ていられなくて、そっぽを向いた。
視界の端で、薄い雲が空を覆っていた。
「…可愛くて肌が白い女の子より、日に焼けていて活発なくらいが好きだ」
「え」
「のほほん、としてるより気が強いくらいが良い」
「ちょっと、雪斗?」
「そろそろ、俺にしろ」
大きく広がった瞳に写るのは、くすんだ空色、
俺は大きく、大きく息を吸った。
「次は、俺の番だ。
覚悟しろよ、この馬鹿」
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甕覗の恋心 綾乃雪乃 @sugercube
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