第2話

 翌日九時に起きた僕は、洗濯をした後にカフェに向かった。バッグには薄型のノートパソコンが入っている。空は青く澄みわたっていて、白い大きな雲が浮かんでいる。路上に人通りは少なかった。明るい太陽の光に照らされた家の玄関には花壇があり、花が咲いている。

 駅から徒歩五分くらいのカフェで僕はアイスコーヒーを注文し、人の少ない店内の空いている席に座った。バッグからノートパソコンを取り出して、小説の執筆をした。

 昼まで小説を書いた後、ファミリーレストランでトマトスパゲティを食べて家に帰った。僕は編集者の人にメールを返したり、本を読んだりしながら夜まで過ごした。

 日が暮れると部屋の中は薄暗くなった。部屋の外は子供の声や車が通り過ぎる音がしている。僕は洗濯ものを取り込んで、キッチンでカレーを作って食べた。

 そして僕は今日もカモメに行った。店内には相変わらず、スーツ姿の会社員が酒を飲み、若い男性のバーテンダーがカクテルを作っていた。

 僕はいつものようにジンライムを注文し、店内のBGMに耳を澄ませ、小説の構想を考えていた。

 夜の九時になった時、僕は昨日の赤いワンピースを着た女性が二つ隣の席に座っていることに気づいた。偶然僕と女性は目があった。

「あの、すみません。どこかであなたの顔を見たことがあるような気がするのですが」

 女性は僕の目を見つめている。

「ああ。僕は作家をしてるんです。きっと深夜のテレビに出たのをご覧になったのでは」

「そうだったんですが。私あの番組好きなんですよ」

「僕も出演したわりには、あの番組はおもしろいと思います」

 僕と女性はそんな風に話し始めた。女性は落ち着いた様子で僕の作品について語った。

「月と猫は読みました。私、本が好きなんです。ロマンチックでいい話ですよね」

「僕が三年前に書いた話ですね。月と猫は僕の自信作なんですよ。だって亡くなった恋人が猫になるなんて誰も思いつきはしないでしょう」

 僕はジンライムを飲み干した。自分の作品の話になるとつい饒舌になってしまう。

「実は私の恋人が先月交通事故で亡くなってしまって。こうやってバーで酒を飲んで、暗い気持ちをごまかしているんです」

「そうだったんですか。実は僕も大学を卒業した後、友人が自殺してしまいましてね。月と猫はその友人へ向けて書いたんですよ」

 僕は自殺した友人のことを思い出した。その時、いったいなんで彼が亡くなったのか見当もつかなかった。僕は突然今まで生きてきた世界が一変したようなショックを受けた。

「最後に猫が月を眺めるシーンがありますよね。私、あのシーン好きですよ」

「あのシーンは僕と友人が河原で景色を眺めた時をモチーフにしているんです」

 それから僕と彼女は一時間くらい話をした。

「なんだか元気になってきました。あなたと話したせいかもしれません」

 女性はそう言って店を後にした。僕は相変わらずジンライムばかり飲んでいた。

 その女性とはもう会うことはなかった。

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ジンライム @kurokurokurom

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