第17話 終幕

後日談。


有彦の胸の花は結局そのままである。俺は有彦に、辛そうな人がいても無闇に夢を吸うんじゃないとは一応言い聞かせたが。


優しい彼はまた、止めておかねば誰かを助けるだろう。


その彼を、俺とアンジェラの愛がまた救えるのなら構わないが、あの花売りの少女のようになったら大変だから。


「そう言えば、奥さんは何故花売りの少女に出会ったんだろう。彼女が吸って貰った苦しみとは、なんだったんだろう。」


俺が呟くと、アンジェラが双眸を細める。


「浮気してたのよ、旦那さんが。あの旦那さんが花売りの少女を知っていたのは、お客だったからよ。彼も、少女を食いものにしていた男の一人。


奥さんはそれに気付いて、花売り娘と話しにいった。娘は、奥さんの苦しみを救うために…それを吸い上げた」


「でも、浮気を嫌がってたのはあの男の方じゃねえか」


「あのね、静寂」


アンジェラが、シャノンの尻尾で遊んでいた有彦の頭をぽんと撫でる。そして小さくため息をつき。


「人はね、自分がしていることだからこそ、他人もしてるだろうと疑うのよ。そして、自分は良くとも相手には許さないの。…人って醜くて自分勝手よね。みんながみんな、有彦みたいに純粋ならいいのに。」


「そういうもんなのか…」


すると有彦が顔をあげた。


「僕より、静寂お兄ちゃんの方が純粋だよ。だって僕、お兄ちゃんの夢を吸うときに心に触れたから。


お兄ちゃんは純粋だから、傷ついて傷ついて。今、人を、傷つける存在から守ろうとしてるんだ。」


そんな風に言われたら、真っ赤になってしまう。俺は褒められるのに慣れていない。


「……そろそろ次の約束の依頼人が来る時間だ。有彦、アンジェラ、準備しとけ」


「はーい」


二人が声を揃える。やれやれだ。


次の事件は一体どんななのだろう?


まあ、何が起きようが。俺は、俺のやるべきことをやるだけであるーー…


end

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夢喰花 九条静寂の冒険 @hotarappy

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