第16話 心の花

「有彦ッ…有彦、大丈夫か?」


「ん…だい、じょぶ」


薄ら目を開いた有彦の小さな身体を膝の上に横たえ、俺は声をかける。


「何をしたんだよ、お前……。お前が、夢喰花を倒したのか?」


ゴホッと軽く咳き込んでから、有彦はポツポツと話し出す。


「花売りのお姉ちゃんは、優しい人なんだよ。沢山の人の苦しみを吸って、助けてきたんだ…多分。でも、お姉ちゃんは亡くなった。なんでかは、僕はわからない。ただ、お姉ちゃんが溜め込んだ人の痛みや苦しみが、お姉ちゃんの胸の花を膨張させて…ああなったんだよ。


だから、それを僕が、吸ったの。」


「んなことして、お前は平気なのか?同じ理屈なら、お前の胸の花だってーー…」


すると有彦は、ふ、と微笑み。


「僕が前みたいに、独りなら、僕の中の花も吸いすぎて、膨張したかもしれない。でもね、僕、気付いちゃったんだよ。花が大きくならない理由。」


「それは…」


「静寂お兄ちゃんと、アンジェラお姉ちゃんがいるから。二人が僕を心配してくれる。親切にしてくれる。ーー僕に、愛情を与えてくれる。それが、僕の花が溜め込んだものを、抑えてくれるんだ。……花売りのお姉ちゃんには、きっとそういう人がいなかったんだ。だから、人を助けるだけ助けたけど。お姉ちゃんは救われなかった…」


「九条さん、私は、あの少女を知っています」


いつの間にか、依頼人の男性が戻ってきている。


「あの子は近所の人はみんな知ってましたよ。みなし子なんです。花ではなくね、身体を売っていたんですよ。でも、今の坊やの話を聞くと、彼女は身体で男たちを癒しながら、心の花で苦しみや痛みまで吸い、彼らを助けていたんでしょうね。


彼女が、浮浪者に襲われてなくなった噂は聞いていました。思えば。生きている間に私が彼女に手を差し伸べていたら、こんなことにはならなかったかも…」


有彦がまた咳をした。しかし顔色は徐々によくなっている。


俺は、もう一度彼をきつく、強く抱き締めた。


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