第13話 死の判定
「やあ、人間のヒロシ。気分はどうだい?」
「完全に戻ったのか?」
「死んでるけどな。現実世界じゃ」
「じゃあ俺は誰なんだ」
「それは分からない」
そうこうしているうちに、周りにどんどん人間が増えていく。
駒たちが一人また一人と人間大に戻っていく。
「おい、そろそろ電気を」
源さんの合図でパチッと部屋の照明が点けられた。
ウウっ!
眩しい…。頭がクラクラするぜ。
しかしいい気分だ。またお天道様の下に人間の姿で戻ってこられたんだから。
ガタッ。
美麗が冷蔵庫の中をあさっている。
美人じゃねえか!
駒箱の中じゃ声からして鬼のような顔をしたおばさんだと思っていたが、鼻筋の通ったキリっとした顔立ちの美人で、パール色に花柄のワンポイントが入った着物姿だ。
「今日は皆でビール3本ね。それ以上は危険だわ。あっあとアレもあったはず」
「コレだろ?」
源さんが年代物のウィスキーのボトルを手に受付カウンターの奥でニヤリとしている。
「ヒロシ、お前飲むのかい?」
「ひと通りはイケますよ。源さんも結構イケそうですね」
「ひとつ言っとくが、飲み過ぎは厳禁だぞ」
「酒の減り方で席主にばれるから?」
「そうだ。それに駒の仕事に響くからな」
「ほんとみんな真面目なんですね。手を抜いたらダメなんですか?」
「ダメも何も、最悪“死ぬ”ぞ」
「え!?なんで?」
「棋理ってあるだろ。将棋の道理だ。詳しい基準は俺にもわからんが、棋理に反したりしたら死ぬんだ」
「死ぬって、どうなるんですか?」
「消えて、その駒は“ただの駒”になるってことさ」
…………………………………!
今度死んだら完全に死ぬのか…。
しかも棋理に反するとか、そんな曖昧な基準で死にたくねえ!
駒たちのダンス ~目覚めたら『飛』だった~ 寅吉 @toratiger
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