第12話 『人間』へ
いや、まてよ?
今から戻れるのか?現実世界に。
きっと現実世界では、俺の葬式が行われ、俺はもう存在しない人間のはずだ。
戻ってどうする?
それに、この道場はほんとに元にいた現実世界なのか?
扉を開けたら前と同じ世界が広がってる保証もない。
「混乱しとるな、まあ無理もない。後で説明してやるよ、新入り」
「源さん、頼みます。聞きたいことが山ほど」
「わかった。さあ、戻るぞ。あの床にジャンプして落ちろ」
「死なないんですか?」
「大丈夫だ、死なん」
「こいつビビってやがる」
「翔太、あんたも初めての時は震えてたじゃないの。ねえ、哲」
「美麗さん、バラさないでくださいよ~」
「翔太は初めて後輩が入ってきて嬉しいんとちゃいますか?こいつずっと下っ端やったし」
「へ~そうなのか。でも俺はたしかに新人だけど翔太の後輩なんて絶対思わんねえからな」
「まあ、その辺はうまくやってくれ。さあ、戻るぞ。翔太、手本を見せてやれ」
「源さん了解です」
バサっ!
着地した翔太の体がビックライトを当てられたようにニョキニョキと大きくなっていく。
淡い光を帯びながらどんどん人間の大きさに近づく。
これは?現実なのか?
いや、ここは現実世界の一部ではあるが、これは一体どういうことだ?
「よしっ、完璧。おっさん、お前の番だぜ」
巨人、というか人間大になった翔太がたしかに立っていた。
どこから見ても普通の人間だ。
「と、飛べばいいんだな」
「そう。飛ぶだけだ」
「飛ぶだけなんだな?」
「あとは、『龍』に成ったときと同じで、気がふれないように注意しろ」
「それを早く言えよ、バカ」
「早く飛べよ、バカ」
道場では皆低めの椅子に腰掛けて指す。
将棋盤は低い台の上に置かれているが、低いといってもそれは人間視点での話だ。
しかも下は真っ暗で、暗闇に身を投じるようなものだ。
これほんとに床があるのか?
「怖いんはわかるけど、はよせんと日い暮れるで」
哲がまたケラケラ笑ってやがる。
「頑張って、ヒロシさん」
「静香ちゃん…!」
思い切って身を投じたが、地面の見えないバンジージャンプのようで頭がどうにかなりそうだ。
しかもバンジーのように命綱もない。
暗闇に吸い込まれるように落ちて行く……………。
あっ!
頭が床に触れた気が。
その瞬間、体全体がうわずるような感覚とともに、ちゃんと自分が大きくなっていくのがわかる。
心臓音がドクンドクンと大きく、速くなっていく。
耳がツーンと詰まりだした。
気が遠のいていく。
とにかく立たないと………。
手をついて両足を地面につけて踏ん張る。
これだ!これで耐えられる……………。
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