第11話 脱出

さっきまで席主が片付けをしていたので何かしらの音がしていたが、主の居ない道場はひっそりと静まり返っている。


「じゃあ出ようか」

『金』の源さんの声だ。



源さんの号令とともに駒たちはピラミッド状に配置に着きだす。

もう何十回も何百回も“脱出”してきたのだろう。


「新入りは2番目に上がって、天井を開けて外に出ろ。出たら後の奴らを引っ張りあげるんだ」


「翔太は最初に上がっていろいろ教えてやれ」


「ちっ。こいつにかよ。源さんが言うならしょうがねえか」



ガタガタガタ…。


翔太達と4人がかりで天井をずらして隙間を空け、そこから駒箱の上辺、へりに立つ。

なかなかの重労働だが、苦痛より宴会への期待のほうが大きい。

駒箱の外は真っ暗で、遠くの非常灯の灯りが僅かに漏れている。



「さあ、静香さん。掴まって」


「ありがとう、翔太くん」


こんにゃろう。先に静香ちゃんを取りやがって。



「ちょっとあんた、助けなさいよ」


「仕方ねえ」


俺は美麗のものらしき手をとって引っ張りあげると、ヘリに腰掛けた。


「ここからが本番よ。“成り”よりもびっくりするからね」


「えっ?『龍』よりすごい快感が得られるのか?」


「快感というか、とっても不思議な感覚なのよ。人に戻るの」


「人に戻れるのか?」


「ええ…一応ね」


やったぞ。まだ俺にはやり残したことが山ほどある。

生きてる時はそう思わなかったが、一度死んでわかったんだ。

戻ってやり直してやる!



んっ?



…………………………………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る