第42話 -次へと-
「ハルさん!! 大丈夫ですか?! ハルさん!! 大丈夫ですよね? 生きていますよね?────」
サユキの呼ぶ声が聞こえる。
「わからない。思う以上に彼の体はダメージを受けてる。内側から何か焼かれたような……だめだ。失血もひどい。早く輸血しないと!」
「そんな────ハルさん!!」
「ヒカリ! 連絡はついたか?」
「F2-Aで行けるわけないんだから10分頂戴ってチトミが言ってた」
誰かが誰かと話してるようだ。
「そうか。できる限りの蘇生を試みる。アパレンティア・クアンダ・プロージェナイトリス・リジェネレート・サンテイテム!!」
「はい……」
「私のせいだ……私が! 私も治癒をさせて!!」
レナ……かな。
誰かのせいとか、そういうのじゃないと思う。きっと責任があるんだとしたら俺の力が一歩も百歩も及ばなかったせいだろうな。
だから、そんなに責めないでほしい。
「まて、治癒魔法と言っても手法が違う。魔法も万能じゃない。君は、残党がいないか周りを見ていてほしい」
「わ……わかり……ました」
二人とも泣いてる。そんな気がする。
多分シロはジーっとこっちを見てるんだろうな。ビーは、どこだろう。
体が動かない。
何も見えない。
もう、何も────聞こえなく……なった。
「起きてください!」
ん……
「もう、いつまで寝てるんですか?」
まだ、もう少し。
「また徹夜で魔法の開発をしてたのですか? そろそろ魔学を教えてもらう時間ですよ?」
開発……ああ、奴らを倒す術式は出来たんだったな。あとは────それよりも、その声が思い出せない。ずっと前、遠い昔に聞いたことのあるような。
懐かしい声だ。もう一度その声を聴きたい。
いつまでも魔法を教えて二人で同じ時を過ごしていたい。
そうだ。白い髪、赤い目、人と違い。誰からも忌み嫌われ、疎まれ除外されてきた美しい人。
この屋敷を出て路地を通り大通りへ出て、二人でこっそり町に遊びにでかけて……ここもうろ覚えなのか。そもそも覚えてないのか。
知らないのか。
ああ、本当に遠い昔に起きた出来事のよう────
「また、魔法を教えてくださいね! きっと……」
右手に微かな暖かさを感じる。刀……いや、あの刀は身に着けてない。近くにはあるようだけど……どこなんだろう。
暗い。
体中ががんじがらめに固定されてるように重い。
あ、これ固定されてるようにじゃない。事実固定されてる?
重くてどうしよもないし痛くてしょうがない。
いてもたってもいられず体を起こした。右手からはらりと何かを落とす感触があるのを感じ横を見る。
まあ、なんでこんに綺麗な人の隣にいるのでしょうかって何度か心の中でつぶやいたことのある寝顔があった。
黒髪を下ろして鎧を外した姿。椅子に座りベッドに体を預ける様に寝ている。奥を見るとレナがソファの上で横になってるのが見える。
みんな無事でよかった。
うっすらと月明かりに照らされた時計は午前3時を指していた。はっきりとしてきた意識で重い体は包帯やらなにやらでぐるぐる巻きにされているのがわかった。
顔なんかもうすべて覆われてる。
ミイラだな。
周りの視線が痛いのを感じる仮面男から今度は、ミイラ野郎に転職か……
だが、ミイラと違って死んではいない。とりあえず生きてる。うん、生きてる。心臓も────なんか脈がおかしい?
今日は、いつだろう。今2月に入ったばかりだったと思う。
でも、見ても今日がいつかはわからないか。ゆっくりとベッドに体を預けようとした時だった。
包帯越しに手があたりぴくっとした。
「ハルさん……?」
「ふぁい」
さあ、包帯で巻かれた顔のせいでうまくしゃべれないのを呪いたい。
「ハルさん!! よかった……もうだめかと……本当に、本当によかった」
ぎゅっと握られた手は暖かい。暗がりに伏せた顔から涙が落ちる。
また心配をかけてしまった。あの細剣の石像との戦い。そして今回の奴らとの戦い。本当に紙一重でつながった命だ。
仲間を……泣かせないくらいに強くなりたいな。
「はふゅひふぁんふぉふぇふぁふぁんふぉふひふぇ、ふぉんふぉうふぃふょふぁっふぁふぇふ。」
「はい…………え、なんて?」
ああ、この間に泣きたい。
心配して泣いている掛け替えのないチームメンバーを前にうまくしゃべれずに雰囲気を壊していく。
締まらないのが自分らしいといえばらしいけど、そんな自分らしさは捨てたい。
ああ、この包帯取りたいなぁ。
「っふ……そうですね。私もレナちゃんも無事ですよ。ハルさんが最後に守ってくれたおかげです」
「ふぇふぉ────」
ああ、言いたいことが言えない! あのあと、オカダに追われてたし奴のスピードをもってしたら多分どころか十中八九追いつかれる。
そんな状況でどうやって逃げ切れたのか。
それに、どうして自分は助かっているのか。ひどい出血だったと思う。桜花命刀、自身のエネルギーのすべてを費やして体中に力を行き渡らせる。
送り込まれた力、つまり血液だ。勢い余った血液が体を浸食する文字通り命を賭けた刀を振るう最終手段。
レナの回復魔法のおかげかな。だけど……記憶がはっきりしない。何がどうしてどうなってこうなったのか。
今日がいつかもわからないから5W1Hで説明してほしい。
「なんだか、いつも私が不甲斐ないせいで無茶させてしまってすみません……だけど、ありがとう」
「ふぁい」
────5W1Hはどうでもいいかな。
経緯はどうであれ、のりきった。生き残った。
その結果が重要なんだ。
三黒がいったい何を目的に動いてるのかわからない。近いうちにすべてをひっくり返すような大きなことをやると言い残してあの男は屋上から飛び降りた。
強者が作る世界……確かに奴の言う弱者同士が多数決で決めた数の正義に不満を持つのも理解できなくはない。
あの元二番隊は、この思想に賛同しているのかな。だとしたら、どうして見逃すなんてことをしてくれようとしたのだろうか。
どうして裏切ったのかも不明だ。サユキの言っていたこと、彼の家族と関係があると……
きっとこれはエゴだ。自分がそれを許さないといった一方的なものに過ぎない。
だけど、家族を奪われる痛みを利用されているのだとしたら、また三黒とやり合わなければならない。
それまで、せめて……守れるぐらいに、なんとか倒すまで行かなくても粘れるくらいの力はつけよう。
第2章 -三黒の刀編- 完
ダンジョンと魔物が現実世界へと転移した異界(ダンジョン)攻略物語 ポメラニアン @shibainu04
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