第29話 会議は踊る3
カネスキー代表が側に控えていた1人の幼い女の子に議場の真ん中に行くよう指示を出す。
まだユウキやクリスタと同じくらいの年齢じゃないだろうか。
「なにをなされるおつもりか?カネスキー代表?」
「いやなに、直ぐに済みますゆえ。」
議長であるアストン皇子が訝しげに訪ねるが、カネスキー代表は一言断った上で、議場の全員に響く大きな声で話し始めた。
「皆様、ここに一人の希望を紹介致します。魔族の脅威に怯え、一方的な戦いを強いられる事はもう終わります。先程帝国殿が話していた希望、それが今、此処にあるのです。」
ざわつき始めた各国の代表の顔を見渡しながら、カネスキー代表が満足そうに続ける。
「さぁ、紹介しましょう。」
「剣の乙女、神器カラミティエアに選ばれし英雄。魔族の脅威を打ち払う我らの希望です。」
「エミリ・バーミリオンです。さぁ、皆様盛大な拍手を!」
剣の乙女エミリが前にて、議場の皆に良く見えるように一降りの美しい剣を掲げた。白銀の剣身にきらびやかな装飾が施されたそれは確かな神々しさを放っていた。
神秘的な光を放つそれは、人の手ではなし得ない神の遺構を確かに連想させた。
ガタン!!
議長席でアストン皇子が驚きの顔で立ち上がる。まさに帝国がこの場所でやろうとしていた事をセインクラードに先にやられてしまった。
アストン皇子の顔には悔しさがありありと表れている。
「やられた、、まさか此処で先手を取られるなんて。」
その証拠に議場は帝国と共和国以外、全ての国からの喝采と称賛で満たされていた。
確かに人心は希望を求めていた。
圧倒的な力の差を見せる魔族の強さ、既に大陸の1/3が支配されてしまった焦り。それが危機感からの連帯に繋がれば良いが、各国は形だけの連帯を見せ、依然自国だけの利益を優先する帰来があった。
ただ人々を一つにまとめる求心的な存在があれば話は変わるかもしれない。それこそが今回帝国が目指したものだった。そしてそこで主導的な立場を取る事で、アストン皇子は己の実績にしたかったのだ。だからこそ、神器の情報は他に漏れない様に、徹底的に管理して、この会議に備えていた。
この考えこそが、利己的な自国優先的な物であるとは気付いていたのかは定かではないが、どちらにせよアストン皇子の思惑は大きく外された。
一方でクリスティナ皇女とアークスは内心では、この状況をある程度は歓迎していた。
元々政治的に使われるのは本意では無かった上に、表舞台に別の人間が立ってくれるのであれば、自分達は動き易くなる。
「アークス君、あれは神器って事でいいのよね、、?」
「ええ、感じるエネルギーは俺のレーヴァンテイン、姫様のエーテルホライズンと比べても遜色ありません。」
「能力は分かりませんが、これで神器が3つ揃った事になります。これは大きな戦力になるでしょう。」
「まぁ、セインクラードの思惑が分かりません。今は様子見がいいでしょうね。」
その後もカネスキー代表の演説は続く。
「さて、皆さん此処で私共から提案があります。神器使いを中心とした連合軍の再編。そして神器、及びその使い手の探索を目的とした特殊部隊の設立を提言します。」
再び議場が喝采にわく。
(それにしても帝国が目論んでいた尽くをセインクラードが先んじている。情報が完全に漏れている。。)
「そして、議長国である帝国の方々。貴方方は既に神器をお持ちなのではないですか?」
場が温まったこの上無いタイミングで、カネスキー代表が矛先をアストン皇子に向ける。
(これを狙っていたの、、、まさかここまで情報が漏れているなんて。)
「くっ、、、それは。」
アストン皇子が答えに窮する。
ここで押し黙る事が致命的な失点だと言うことを理解しているのだろうか。
「我々は、、その。くっ、その通りだ。何故知っている!」
(ダメ、、最悪な流れね。)
カネスキー代表のニヤリとした表情を見逃さなかった。思えば最初からこの流れに誘導されていたのだろう。最初は非協力的に思わせておいて、此方の油断を誘ったのだ。
その後も全て後手に周り結局は主導権を全てセインクラードに持って行かれてしまった。
最終的には、セインクラードを頭とする連合軍の再編成が決定。ロマーナが次席、そして帝国とその他国々が連なる。帝国の完全敗北であった。
(これでアストン兄様は皇帝の継承争いに大きな失点を計上してしまった。かなり状況は厳しいでしょうね。)
細かな取り決めは後日、副代表とその書記達により決められる事となり、連合会議は終わりを迎えたのであった。
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転生貴族の英雄譚~竜に育てられた少年~ かのん @canon123
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