第28話 会議は踊る
竜王暦360年3月23日
カリフール王国 連合会議場
「アストン兄様おはようございます。」
「ああクリスティナか。おはよう。」
「ナイアの事でお伺いしたいのですが。」
「ん?ああ、後で時間作るから、その時にしてくれ。」
そう言って兄は、他国の代表の下に挨拶に行ってしまった。
(やはり怪しい。何を企んでるの?お兄様。。)
本日より連合会議が始まる。
魔族に対抗する為に、かつて争いあった大小様々な国10ヵ国が参加してる。中でも発言権を持っているのが、3カ国だ。
グリムランド帝国
ロマーナ共和国
セインクラード聖王国
この3ヶ国の政治ゲームがこの連合会議と言い換えても過言ではない。だが今は魔族という共通の敵がいることで足並みはある程度揃っていた。それでもお互いの利権を守り、主張する所は極めて人族らしい。
因みに、グリムランド帝国とセインクラード聖王国が人間族、ロマーナ共和国は多種多様な人種の合議制を取っており、今の議長は獣人族だ。
「姫様、会議中ですよ。今は会議に集中して下さい。」
アークスに注意されて、別の事を考えていた事に気付く。慌てて注意を議場に向けると今まさに議長国の代表あるアストン兄様が議事の進行を始めた所だった。
議題は魔族による侵攻に対する各国の状況とその対応策の報告から始まった。
「我がロマーナ共和国では、魔族による本格的な侵攻こそ確認されていないが、斥候と思われる小規模部隊が何度か確認されている。」
「南部が魔族により完全に支配されれば、我が国も直接被害に合うのは必死。ここは帝国どのに踏ん張って貰わねば。」
アストン兄様に向けて意図的ににやけた顔をする。
これに対して兄様は議長という立場がら、表だって非難する事も出来ない。それを分かって言っているのだ。
続いてセインクラード聖王国の代表が喋りはじめる。
「我が国は、北に位置している為今のところ大きな被害は無い。だが代わりに莫大な額の金と食糧の援助をしておる。それに派遣する兵士達の損耗率も激しい。この運用には帝国にものを申したい所だな。」
セインクラード聖王国の代表も大局ではなく、自国の利益が最優先なのだろう。実際1番の危機に接しているのは、南部諸王国に国土を接するグリムランドル帝国なのだ。この防波堤が崩れれば帝国の国力が落ちるのは必死。
この2国はそれを望んでいる節すら感じる。
勿論帝国が落ちれば次は我が身なので、それはそれで困るのだろうが。適度に帝国の国力が落ちるのは大歓迎なのである。
(本当に下らないな。)
その後も各国からの報告が続くが、自国の事ばかりで建設的な意見は全く出てこない。その中で北部の竜人国とエルフ族だけは違った。
「諸兄ら、ここに大陸を代表する優秀な人物が集まってこの程度の協力すら出来ないのか?今は自国の事より、目下魔族に対抗して一致団結することこそが肝要であろう。今を失えば、後戻りは出来ないのだぞ。」
そこにエルフ族の族長も続く。
「竜の長に我々も同意する。魔族を甘く見てはいかん。奴らの力は強大じゃ、皆で力を合わせねば大陸は滅ぶぞ。」
小国ながら他の種族よりも遥かに長い歴史を持ち、そして強大な個の力を持つこの2国は流石に発言力もあったのだろう。ロマーナもセインクラードの両国も大きくは言い返せない。だが内心は不満なのだろう、苦虫を潰した顔で黙っている。
その様子を見てエルフの長が話を続ける。
「して、此度の会議。帝国殿は魔族に対する有用な情報があると聞いておる。そろそろ話してはくれんかの。」
そして待ってましたと言わんばかりに、アストン兄様がしたり顔で語り始めた。
「なるほど、、神器に巨人の伝説。それに魔族の神の復活ですか。。してその裏は取れているのですかな?本当であれば由々しき事。だがそれ故に慎重に事を進めねばなりますまい。」
ロマーナの代表が早速ケチを付けてくる。
(この性根の腐った古だぬき、、、)
(姫様、聞こえます。声を押さえて、、)
(だって、あの言い様。あり得ないわ。)
クリスティナ皇女がロマーナの代表であるピグス国務大臣を睨み付けるが、その視線に気付いたピグスにこ笑いにされる始末。見た目だけでなく性格も腐っているのだろう。
だが、此処に来てロマーナと歩調を合わせていたセインクラードの代表であるカネスキー枢機卿が手のひらを返す。
「帝国殿の報告、なるほど興味深い。我々の国々にも神器の伝承は残っております。魔族の神、魔神と呼べば良いでしょう、が本当に復活すれば脅威ですな。」
風向きが少し変わった事を敏感に察した中小国家がセインクラードに同意し始める。
その様子を歯軋りしながら睨み付けるピグス代表を見るのは小気味良かったが、ここでカネスキー代表から思わぬ爆弾を落とされる事は全くの想定外であった。
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