父親がハーバリウムになった件

@papas2sun

第1話 2020年 1月1日

私は文書を書くことに小さな頃から憧れを抱いていたし大人になった今も憧れを抱いている


憧れを実行に移す理由は今日が1月1日だからでも、空に満点の星空が広がってるからでも、運転席で膝を抱えてやることが携帯のメモに文字を書くことだからでもなく


ただなんとなく


実行に移そうと思う。


いざ参らん!


と思うと私の頭の中は無限大に広がって

オールフィクションの「誰も幸せになれないミステリー」、「寂しい魔女の話」


ノンフィクションの「自分不幸でした話」、「母親になりきれない女の話」


たくさん浮かぶのだけど今回はフィクション、ノンフィクション関係なく


「父がハーバリウムになった件」


にしようと思う。



私の父は毎日スーツを着て、どこにでもいる娘とどう触れ合っていいかわからない父親で、外面だけはよく、たまに料理をすると下手で、多趣味で、だけどもどこにでもいるつまらない酒も飲まないような人だった。



…と紹介したいところだけどそれとは真逆の人間だった



父がスーツを着ているのを私は一度しか見たことがない。母との結婚式の写真でリーゼントで全身紫のスーツ


娘の私には避妊用具の場所を小学生から教え込んでいた


外に出ればケンカばかりしていて払った慰謝料の額で恐らく私はいい大学に行けた


だけど料理だけはとても上手で


酒を浴びるほど飲み、私が帰る玄関の音を聞くと蛍光灯を引っこ抜いた照明のコンセントで首を吊っているフリをする人だった


要するに料理以外クソ野郎だったのだ。



そんなクソ野郎が去年死んだ



突然死んだ


詳しく話せば突然ではなかったけど、口癖と最後にまともに父が言った言葉を私は忘れない。


口癖は

「酒とタバコだけは金がなくてもやめられない」


最後の言葉は

「最近勃たねえんだよ」



やっぱりクソ野郎だ。



そんな父親と私は親子以上の関係だったと思う


それは変な意味ではなく

いや確かに朝起きると私の友達と父が同じ布団で寝ていることはあったが。そうではなく


今なら言えるけど父と私は血が繋がっているか最後までわからなかった


顔も似てなければ血液型も少しズレている


だけど父は何よりも「家族」「子供」というものに過剰すぎるほどの期待と憧れを持っていた


早くして母と別れた父は何人もの養子を欲しがっていたし、そのような施設を立ててみんなから「パパ」と呼ばれたい。と子供のような顔で語っていた。


これだけ話せばクソ野郎感が薄まるのだが、先に言ったとおり父は少しおかしかった


過剰すぎる期待と憧れのせいで理想を描きすぎたため自分の「妻」であり私の「母親」のささいなミスさえ許せなかった


例えばお惣菜を出す母、洗濯物をたたまない母、寝坊する母を見ると目が充血して血だらけになる程殴ってしまう持病が出てしまうのだ


DV持病が。


それに母はもちろん耐えられず出て行った


もちろんそれは「子供」の私にも押し付けられた


だけども父は母のことも私のこともまるで子供が親を愛すように無償で愛してくれた


愛されなくても、嫌われても

父は理想を押し付け続け、殴り続け、愛し続けた



一方的な暴力は私の「反抗期」という形で終わりを告げざるを得ない時がきて時々家の中で災害のようなケンカが起きるようになったし


何よりももちろん私も少しおかしくなり

「親子」より「同士」となったのだ


同士と気付くまでに23年の歳月を費やした

父が死んだあとの私の年だ。


私の反抗期は人よりも少し派手なもので、学校の先生、自立支援学校の先生、心理カウンセラー、いろいろな人と話す機会が多かった


ほぼ全ての大人に「共依存」と言われ、「離れたほうがいい」と全員が口を揃えた


私はその通りだと思いその通りにした。


すると父はやはりおかしかったし

今思い返すととても面白かった


例えばコンビニでおにぎりを1つ万引きしたり

本当にホームレスになったり

突然刺青を入れたり


最後にはEDだと悩んでみたり。


それでも父には助けと呼ぶより呪いが必ず起きた


クソ野郎なのに他人に好かれるのである。


他人は父が欲しがるものを与えてしまう


時に酒で、時に薬で、時にお金で


父は弱かった。

元々弱かった上に憧れすぎた「家族」を壊し理想通りに作り上げた「子供」を失いボロボロだった


酒と薬と金で父は全てをなかったことにしようとしては、それができずずっと悩み続けた。



そんな父がある日突然倒れたと祖父から連絡があった


私が父に対する感情は「死ぬなら早く死んでくれ」だった


変に生き延びられて父がいつ死ぬかわからない恐怖を抱くことも嫌で、それは私にとって父の呪縛でしかなかった


「パパが倒れたらしい」

と旦那に伝えると


「すぐに病院に行こう」

と言われた


私は嫌がった。

私には全てを犠牲にしてもいいくらい大切な娘がいたし、身近な旦那には娘を言い訳にするのに打ってつけだった


「めんどくさい。子供に集中治療室なんて見せてトラウマになったらどうするの」

何度もヒステリックを起こしてみせた


だが旦那はそんな私の腕を掴み車に乗せ病院に向かった


集中治療室に案内されるとそこは


地獄


と呼ぶのに相応しい場所だった。


姿は変わり果てているのにすぐにいくつかのベッドの隙間からどれが父かわかった


膝が崩れて倒れそうになった私の腕をさらに旦那が掴んだ


病院の特有の匂いの中、かすかに父の匂いがして全てが走馬灯のように懐かしく感じた。


私に彼氏ができ、若くして実家を出て行きたまに荷物を取りに帰るとドアノブの音が聞こえた瞬間照明を外してコードを引き抜き


「今死のうとしてたんです!」


のようなドヤ顔で首吊りもどきをしている父。


ケーキを買ってきてほしい

と泣きながら電話してきた父


時には家の真下で人を殴って、あたり一面を血の海にしてた父


そんな父がたくさんのコードに繋がれ、皮膚は黄色く、痩せ細っていた


朦朧と過去を思い出しながら歪む床の感覚を踏み締めて近づき手を握ると


「うー…」


とうめき始めた



「今まで全く意識がなかったんです!!おとうさーん!娘さんとお孫さん来てくれたよ!わかるよね?!娘さん話しかけてあげて!」


看護師の人が叫ぶが、まるで耳に膜が貼ってるようにボヤけて声が聞こえた


私は父の手を握り無意識にぼーっとベットの反対を見ると旦那が娘を抱っこして娘と旦那が父に向かって何かを話しかけていた


何か言わなければいけない


と思いつつ振り絞って出てきた言葉は


「ごめんなさい」


だった。


父が手を振り払い「うー!!!!」と暴れ出した


許してもらえないのだろうか

見放したことを怒っているのだろうか

それとも何かを伝えたいのだろうか



ただ、手を振り払われたショックで意識を失った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

父親がハーバリウムになった件 @papas2sun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ