アルヴァニア戦役

 

そして今魔王軍は、

人間共に川岸かわぎしに追いめられていた。


一般市民まで兵にしてかき集めた軍は、

4千近くになったが防具さえ付けてない、

竹槍たけやり軽装兵けいそうへいの軍だった。


これを軍と呼べるのならだが。


それにくらべ相手は完全武装の正規兵せいきへいだった。



無謀むぼうとしか言えなかった。



始まりは良かった。



地響じひびきが荒涼こうりょうとした大地をらす。


敵の騎馬隊の進撃。


茫漠ぼうばくたる大地に砂煙すなけむりう。


とどろ咆哮ほうこう


黒金くろがね黒衣こくいの騎兵団。


逃げ出す数多あまた民兵みんぺい


すべてはシナリオどおり。


逃げるふりをして敵を罠にさそい込み、

草場に隠した網を少し引き上げる。


それで先頭のいくらかを落馬させ、

残りも騎馬のひづめと同じ大きさに

穿うがった穴に足をとられ次々に落馬させた。


足をとられ次々に落馬らくばしていく敵の先陣せんじん


身動き出来ず転がる敵を、

逃げていた竹槍隊が反転、串刺くしざしにした。


一方的な攻勢こうせいだったが、

そこは戦力差10倍近く。


すぐに反転して逃げる。


歩兵が遅れて駆けつけ、

生き残った騎馬兵と合流し反撃を開始。


ふたたび逃げ出した市民兵と共に、

我が隊は川岸かわぎしに追いめられていた。


逃げやすさを優先するために、

防具さえ付けてない市民兵は、

生き残りこそ多いが戦力的には無力。


川に入り敗走する我が兵は、

浅瀬あさせとは言え川に足をとられ、

徐々じょじょにその距離をちぢめられていた。


川を必死で逃げる民兵を追いかけ、

10倍近い軍が渡川とかを始めていた。


すでに敵は川を半場まで越え、

こちらに追い付き始めている。


前もって対岸たいがんせて追いた

ダークエルフの弓隊が、

牽制けんせいの矢を放っているものの、

数が少なぎて少し歩幅ほはばを遅らせる程度で、

対して役には立っていない。


敵が数人矢でしずむものの、

そこは数の多さにまかせ、

ひるむ事なく強引ごういん突撃とつげきして来た。


我が軍は必死で逃げる野ウサギのごとく、

バラバラに水上をねるだけの、

烏合うごうしゅうしていた。



「いまだ!」



敵が勝利を確信し、今まさに、

虐殺ぎゃくさつ火蓋ひぶたろされようとしているさなか、

俺は合図あいずした。


合図の狼煙のろしが上がる。


合図と共に川の水かさが徐々じょじょに増し始め、

川底が黒くにごり始めた。


そして数分後完全に沼のように濁った川が、

兵の足をとり鈍らせていた。


対岸に渡り終えた兵は徐々じょじょ集結しゅうけつし、

目前もくぜんせまった敵の大軍をにらんでいた。


普通ならけっして勝てない敵の大軍勢を前に、

俺は勝利を確信する。


「全軍突撃!」



その号令を合図に逃げていた兵は反転、

一気呵成いっきかせいときの声を上げ、

敵に向かってけ出した。



 

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