第二話
あれから救急車が到着し、付き添いで優時郎が病院までついていくことに。
そして、無事病院についてから数十分後。
『まさか、あんだけの話があってただの栄養失調だとよ。』
「…とんだひと騒ぎだったな。」
いざ病院に来て見れば、個人情報の確認が取れるものが一切見つからなくて、関係性を耳が痛くなるほど聞いてくるし、そのくせ結局診断結果は何の関係もない優時郎に話してきたと思えば、全然何ともなくただの栄養失調だけ…点滴を一時間ほどうてば問題ないらしい。
あの大それた、火事での英雄譚を聞いて慌てていたあの時間を返してほしい。
それにしても、服にはポッケトもなく何も持っていなかったらしい。最初に倒れていた場所にも周りに何か落ちていたりはしていなかった。
…おかしい。
彼女はすべてがおかしい。
おかしいことが多すぎて、どこから突っ込んでいいかわからない。
「にしても、謎だ…。」
『なぞだな。』
と考え込んでいるところに、院内のアナウンスが流れる。
番号札[53]を呼び出すアナウンス、まさに優時郎が今握りしめている番号札と同じ値段だ。呼ばれて窓口まで行くと、今回の救急車の件、それに診察と点滴台をされ一応ポケットに入れておいていた財布から払う。レシートもらいその場を数歩離れたとこれで気が付いた。
(いや、めっちゃ自然流れだったから払っちゃったけど、なんで家族でもない俺が払ってんだ?てか、保険証もないからクッソ高かったし!まじで…なんなんだ今日は…。)
「あ、あの…ごめんなさい。何から何まで!」
レシートを悲しそうに見る、優時郎に焼け跡のせいで穴ぼこになった、汚れた白いワンピースを着た女性が話しかけてきた。
そう、この一件すべての原因である女性だ。
「あ、いや全然。それにしても、大丈夫ですか?栄養失調だったらしいですけど。」
「…はい。本当にすみません!」
申し訳なさをこれでもかと浮かばせた顔つきで、勢いよく女性が頭を下げてきた。
(また謝った…二回目だぞこの人。)
『熱心に誤ってきてるから謝罪の念はこれでもかってほど伝わってくるな。』
(まぁ、確かに。)
謝るのもいいが、ありがとうと一言かけてもらったほうが気分がいいのになと少しおもった優時郎に女性が目をつむり思い切った様子でもう一度声をかけてきた。
「あの!もし宜しかったら、このお礼の返させてください!」
「あー、そういうの全然気にしなくていいで。それより、栄養失調で倒れたぐらいなんですから、今日は真っ直ぐお家に帰ってゆっくり休んでください。」
「うぐっ…!」
(…ん?)
やっと帰れると思いながら返した言葉に、女性が下を向き胸を打たれた様な反応をしたのが見えた。
「気にしなくていいですよ」
「…」
「栄養失調で倒れたぐらいなんですから」
「…」
「真っ直ぐお家に帰ってゆっくり休んでください」
「うぐっ…!」
「お家に帰ってゆっくり休んでください」
「うぐぐっ…!」
「ゆっくり休んでください」
「…」
「お家に帰って」
「うぐぐぐっ…!」
あ、ここだ。
そう思った瞬間、嫌な気がしつつも臆することなく、聞いた。
「もしかして、家に帰れなかったり?お金も、何も持ってないのに?」
「え、えーっと…。結構遠くまで来ちゃって長い間帰れそうにない?…といいますか、何と言いますか…。」
「はぁ、なるほど…。」
『嘘だな。』
(まぁ、同感。このままだとこの人、何も教えてくれずにこの場を去っていきそうだなぁ。)
『家出とかだったらそんなもんだろ。』
どうやら家に帰れないのは図星らしい。
栄養失調で倒れたのもなんとなく理由がわかってきた気がする。ただ、この人の状況を分かっているのに、このまま何もしてあげないで「はい、さようなら」というのは優時郎にできるわけがなく、おもむろに財布を取り出すと軽々と諭吉を二枚取り出した。
「これ。よかったら、持ってってください。」
「え、そんな!受け取れません?」
「じゃあ、家に帰れない理由を今話してくれますか?」
「うっ…。それは…」
「じゃあ、受け取ってください。それを話してくれるまで聞くのも面倒だし。これ以上は僕も聞かないので。」
「わ…わかりました。」
そう言って女性は恐る恐る、苦い顔をしながら、身を小さくして優時郎からお金を受けとると。「そ、それじゃあ…!」と言って、足早に病院を去っていった。
『変な女だったなぁ、優時郎。』
「…そうだな。俺たちは、真っ直ぐお家に帰ろうか。」
幸い、この病院から自宅は案外近い。
帰るのもそれほど苦ではなかったが、何の連絡もしてこなかった優時郎を玄関前で待っていた星美は相当苦であったろう。
「もぉ!連絡くらい返してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
亡き両親が結んだ約束は、異世界を巻き込む大きなものでした。(仮) @EnHt_919
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