第6話

 四月某日


 徐々に散り始めつつもまだ力強く咲く桜。

 木には鳥たちがとまってキレイな歌を奏で、花には虫がいる。

 暖かくもまだ蚊はあまりいないそんな時期。

 高校では球技際、体育祭と体を動かすものは体育の授業を使って練習を行う。

 基本、雨が降らない限りは校庭で授業となる。

 体育担当教師は川田先生、俺たちの担任である。


「はいじゃあ広がって準備体操から始めて。体育委員、指示」


 各クラスに体育委員がいるため、準備体操などの指示出しは彼らが行う。


「みんなが広がってー」


 体育委員の指示により、両腕を広げてぶつからない程度に横、縦の距離をとる。


「屈伸。いちっにーさんっしー」

「「「ごーろくっしちっはちっ───」」」


 最後に手首足首を軽く回したら準備体操を終らせ、いよいよ球技際の種目練習に移る。

 とは言え、サッカーなので二人一組でパス練習など基礎的なものしかやらない。

 因みに女子はバレーボールのため体育館。


「なあ石嶺」

「ん?」


 雨野が初めて俺に話しかけてきた。

 自然と雨野と二人一組になり、パス練習などをする。


「女子の練習見れないの最悪だよな」

「うっ?うん」


 雨野がこんな発言するとは思わず、つい言葉が詰まってしまう。


「中学とは違って色んな女子の胸が見れると思ったのに・・・」

(げ、ゲスい・・・けどわかるなあ)

「まっ、まあ普通の授業に戻ったら男女一緒になるから見れるんじゃないかな?」

「そうだといいなあ」


 雨野はその後も俺に話しかけてくれた。


「石嶺はさ、狙ってる娘いるの?」

「ん?いやー今のところは。雨野は?」

「俺?俺は特にいないかなー。これからじっくり女子を見ていくぜ」

「お、おう」


 雨野は結構この手の話をしてくる・・・。


「ところで石嶺、氷室さんと仲良さげだよな」

「えっ、そう?」


 そう言われて少しドキリとした。


「うん、なんかいつもふたりで話してるイメージがある」

「まあ、最近話すようになった感じかな」

「そっかー。狙ってるなら俺は手伝うぜ?」


 雨野がニヤニヤしながらそう言う。


「やめろって!そ、そんなんじゃないっ」


 雨野はまだニヤニヤしながらボールを蹴ってくる。

 十五分程パス練習、ヘディング練習とやっていると、川田先生が笛を鳴らし。


「集合!」


 と言われたため全員川田先生の下まで駆け足で移動。


「これから実際に試合やってみるから、試合出るメンバー決めろ」


 とのことなので俺らA組はA組、B組はB組で別れて試合に出るメンバーを決めることになった───。


※※※


「じゃあ今から授業終わりの五分前、四十分に試合終了な」


 そう言うと川田先生は笛を鳴らし、キックオフ。

 俺はというと、コートには立たずゴール裏で出ないやつらと喋っていた。

 その中にはもちろん、雨野も。


「サッカーあまり得意じゃないんだよね・・・」

「そうなの?パスとかヘディング見てて上手いなって」

「たまたまだよ。俺サッカーやったことないし。部活でね」

「外部は?」

「外部でもやってない」

「へー、にしては上手かったけどなあ」


 と雨野と話していると、相手から攻められてきて一気にゴールを決められる。


「うわっ!こわっ!」


 雨野が少し跳び退き驚く。


「結構ボール近くまで来たね。ネットがあると言えど」

「っぶねー、死ぬかと思った。こりゃあ話してたらボール当たるな」


 そこからはあまり話さず、時間だけが過ぎていき。

 1-2でA組が負けた。

 俺は一秒も出ずに終わった。

 途中一回だけある程度メンバー交代しろと川田先生から指示があったが、出たいやつに譲った。


「じゃあ今日はこれで終わりだから、ゴールは片付けなくていいからボールだけお願いね。はい号令」


 B組の体育委員が授業終わりの号令をかけ、この時間の体育が終わる。

 俺は昇降口に足を向け歩き出す。

 すると。


「今日は暇だったな」

「そりゃ試合に出なかったからね」


 雨野が俺の隣にきて話を振ってくる。


「次の授業何だっけ」

「えーっと、確か───」


 俺は高校で初めて、男友達ができた日であった───。


 昼休み


「えーとっ、雨野くんだっけ」


 佐伯さんが雨野にそう言う。


「そそ、よろしくね」


 雨野は佐伯さんにそう言いながら弁当箱を開ける。


「よろしく、雨野くん」


 氷室さんは佐伯さんに続いて言う。


「うんよろしく」


 雨野はそう返しつつ早速お昼ご飯を食べ始めた。

 がすぐに食べ物を飲み込み俺に話しかける。


「ところでさ石嶺」

「ん?」

「気になる人でもいるの?」


 雨野がニヤニヤしながらそう問うてきた。

 俺はいきなりドキッとさせられる質問を食らい、ご飯を少し気管に詰まらせてしまった。


「ゴホッ、ゴホッ、ンンッ、いっ、いきなり何だよっ」

「え~?だってさっきから視線が~?」

「えっ、石嶺ほんと?」


 雨野は何を考えているのかわからないが、俺を見てニヤニヤし、佐伯さんは興味津々な目で俺を見る。

 なぜか氷室さんの方には視線を向けづらい・・・。


「いっ、いないしっ」

「ふ~ん?」


 雨野は楽しそうにしている。


「まっ、好きな人できたら言ってくれよ?」


 ニヤニヤしながらそう言い、この話の最後に氷室さんに視線をちらっと向けてまた俺に帰ってくる。


(やっ、やめてくれ・・・。この手の話題はあまり慣れてないのに・・・)


 この話が終わり、ひとまずほっとできるかと思ったが。


「いっ、石嶺くん、気になる人、ホントにいるの?」


 と氷室さんが話を掘り下げてきた。


「いっ、いや、特には」


 俺は完全に氷室さんから視線を反らし、目を泳がせる。


「そう」


 氷室さんはそう一言いうとそれっきりだった。

 不思議に思いつつも、この手の話が完全に終わったのを感じたのでほっとする。


「ねねっ、昨日の夜見つけた動画なんだけどさ───」


 佐伯さんが俺らに話題を提供し、三人で盛り上がっている間、氷室さんはあまり話にノってこないで静かにお昼ご飯を食べていた───。

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Springtime Of Life 比企谷こうたろう @HiKiGAYAkotaro

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