最終話 ベリーちゃんでした☆
母さんが死んだ。
「どういう事だよ」
病院の中、俺は父親に問い詰める。
「交通事故だと……。かなりの速度で突っ込んだらしく、ほぼ即死だったという話だ……」
「待てよ、引いた相手は誰だよ! 人を殺したくてやったんじゃねぇだろうな!」
怒りがふつふつと湧いてくる。
「どうやら相手は事故が起きる前に死んでいたと聞いている。何らかの原因で心臓発作を起こし、死んだまま、アクセルを踏みっぱなしだったから速度が出ていたそうだ」
「既に……死んでいた?」
俺の中である予想が頭をよぎる。
しばらくして家に戻り、部屋を開ける。
「おい、ベリー、聞きたいことがある」
開口一番ベリーに問い詰める。
「わかってるよ。君の母親が百円の犠牲になったかって事でしょ。運転手も君の母親も犠牲になってるよ」
ベリーは平然と言い放つ。
「ふざけんなよ! なんで母さんが死ぬんだよ!」
「無作為って言ってなかったっけ? たまたまだよ」
これまたベリーは平然と言い放つ。
「たまたま? たまたま俺の母さんが死ぬのかよ!」
怒りのあまりベリーにつかみかかりそうになる。
「そうだよ。たまたま。君の大切な人は何人いるのかな? 何人もいるんだったらその人数の分だけ危険性があったってことだよ。無作為だからこそ当たるの」
「だからって……」
「君は殺しすぎたんだよ。どれだけ殺したか自分でも覚えてないでしょ? これからも、世界に支障をきたす程の人数が死ぬ予定に入ってるよ」
「そもそも、お前がこんな取引を持ち掛けたのが悪いんだろうが! 俺は何もやってない!」
そうだ俺は悪くない。
「ふーん。まぁいいや。ここで悪魔の取引といこうか」
ベリーの口角が上がる。
「悪魔の取引……?」
「そう、君の母親と一億人の命を交換しよう」
「は?」
理解ができない。
「だから、一億人に死んでもらう代わりに君の母親を生き返らせるんだよ」
「そんなことできるのか?」
悪魔のような取引だった。
「できるよ。但し一億人には死んでもらうから」
「一億人って、そんなに……」
改めて聞くと重い響きだった。
「死んだ人間を蘇らせるって世界を改変する事項だからね。むしろ、それでも釣り合いが取れないよ。まぁ、悪魔の取引って言ってもこれをやるのは神様だけどね」
「一億人と一人の命……」
「今更……でしょ? どれだけ殺したと思ってるのさ。それぐらい、いいじゃん」
「…………」
俺は黙ることしかできなかった。
「で、どうするの? なるべく早めに決めてね。世界改変するのって遅れれば遅れるほど齟齬が出てくるはずだし、多分」
「……わかったよ。やってくれ。構わない」
「判断が早いね。じゃあ、神様に報告してくるからちょっと待っててね」
ベリーが消える。
本当にこれでよかったのか? 俺のように悲しむ人間がさらに増えるだけだろ? でもベリーの言う通りだった。今更なのだ。今更、自分がやったことの大きさに気が付いた。でも俺は悪くない。悪くないんだ……。
唐突に世界が揺れる。
「うっ……」
なんだこれは。気持ち悪い。
しばらくすると揺れが止まった。地震でも起きていたのか?
「士郎。遅れたけどご飯だよー」
母さんの声だ!
「さ、書き換え終わったよ。これで君の母親は元通り。良かったね」
いつの間にかベリーが戻ってきていた。
「ほら行ってあげなよ」
ベリーは母親のもとに行くように促す。
俺は青ざめた顔をしたまま、母さんの元に行く。
―3日後―
俺は学校を休んで家にいた。
「世界でもニュースになるほど人が死んで行ってるね」
ベリーの顔は平然としていた。
「どうなっちゃうのかな。異常に人が死ぬからね。唐突に隕石でも落ちてくるのかもしれないね」
「何も言わないでくれ……」
俺は頭を抱えていた。
「うっ……!」
なんだ? 心臓が痛い。
「君は運がいいね」
ベリーがほほ笑む。
「なん……だ……」
痛い痛い痛い。
「低い確率であっても試行回数が多すぎて決して当たらない確率ではなくなったってこと」
「どういう……意味だ……」
まさか……これは……。
「死ぬ人間は無作為って言ったじゃない? 君が死なないとは一言も言ってないよ? 君が死ぬ番が来たって事だよ。さようなら」
ベリーがバイバイと手を振る。
「嘘……だ……ろ……?」
椅子から転げ落ちる。本当に俺は死ぬのだと確信する。
「ベリーちゃんは悲しいな。欲望のために人が死ぬのは嫌いなんだ」
ベリーのどこか悲しげな顔が俺が最期に見た光景だった。
―完―
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