第98話 第一部エピローグ
聖王国の僧侶たちが開けた場所に出ていくのを見たマリ達は追跡を断念する。
その広場のど真ん中に明らかな手練れと思わしき集団がいたからだ。
というのも今マリ達が使っている魔道具は透明になるだけで、気配や物音までは隠せない。
手練れにはバレる可能性が高いと踏んでの判断だ。
仕方なく遠巻きに千里眼で観察していたガンマはその集団の中心人物を見て
小さく驚きの声を出す。
「葛谷……」
葛谷は粕森と共にガンマにとって因縁の相手だ。
『洗脳』の能力を持っていた粕森と『催眠』の能力者である葛谷。
彼らはかつてガンマの活動していた町を滅ぼした元凶である。
「葛谷って……例の催眠能力を持つ転移者か」
「ああ、なぜこんな場所に……」
薫の問いに心ここにあらずと言った様子でガンマが答える。
ずっと行方の分からなかった葛谷を見つけたことで、ガンマの頭に血が上っていく。
どうにか怒りを抑え、冷静になろうと深呼吸をしたガンマは千里眼に集中した。
◇
「聖王教会さんよ、約束通りリストの連中を連れて来たぜ。すぐそこの荷車に乗せてある」
「ご協力感謝する」
笑みを浮かべる黒髪の青年――葛谷に対し、聖王国の司教が無表情で答えた。
この葛谷という男がどれほど厄介な能力を持つのか、おぼろげながら司教は理解している。
心の隙を見せぬように気持ちを引き締めた司教は約束の品を護衛の騎士に渡させると、懐から一枚のリストを取り出す。
「次はこのリストの者を頼む」
「またですかい? かなり納品したはずですが、次期聖王の母体候補には足りないと?」
「お前も知っての通り、聖女アナスタシア様はご危篤で意識不明だ。となると子を残せるのはバロック殿しかいない」
苦々しく吐き捨てる司教に対し、葛谷は表面上人の良さそうな笑みを向けるが、内心では嫌悪していた。
(何が聖王国だ。人の良さそうなツラしててもやってることは俺と大差ねぇな)
聖王家とは数百年前の勇者の仲間が興した国だ。
初代聖王が子孫のために残した聖遺物はとんでもない強さで、それに選ばれた今代の聖女アナスタシアは単独で軍に匹敵する力を持つ。
ただし聖王の聖遺物は聖王の血を引く者にしか扱えず、使用に莫大な魔力が必要になる。
聖女アナスタシアが倒れた今となっては聖王家の血筋で子供を作れそうなのはバロックという中年男ただ一人。
だが魔力が少なすぎるバロックにはとても聖遺物が使えそうになく、そこで聖王国の上層部はバロックの子供たちに託すことにした。
すなわち魔力の高い女性たちをバロックにあてがい、子をたくさん産ませるという下策だ。
それゆえに次期聖王を産む母体として、聖王教会は魔力の高い女性を葛谷に拉致させていた。そして葛谷はその見返りとして自分の組織作りを聖王国に手伝わせていたのだ。これこそ葛谷が急速に勢力を拡大出来た理由である。
「特にこのリストに書かれた者は最優先で頼む。その代わりお前の組織を今まで以上に支援しよう」
「任せろよ、旦那。へぇ、ずいぶんと大物が多いが……まぁ何とかするさ。大船に乗った気でいな」
司教からリストに葛谷は手早く目を通す。
葛谷の背後からリストを千里眼で覗き見たガンマは、思わず声をあげそうになるのを堪えた。そのリストの中にはリリアとマリの名も記されていたからだ。
「おいおい、こりゃ不味いぞ。連中、かなり勢力伸ばしてやがる。とにかくここから逃げ出そう。逃げ出して国に報告しねえとヤバいぞ。俺が《千里眼》で先導するから着いて来い」
音を立てぬように慎重にその場を後にすると、マリ達は深い森へと姿を消していった。
神様ガチャで魔獣王ベヒーモスの力を手に入れて体は最強!頭脳は最弱! 平成忍者 @ninja3
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