第97話 浚われたマリ達


「え……ここ、どこ……?」



 見知らぬ場所で目が覚めたマリは困惑していた。

 周囲には簡易なベッドが詰め込まれ、そこで死んだように眠り続ける人々。

 そして硬く冷たい石壁に、廊下に面した部分は一面頑丈そうな鉄格子が埋め込まれている。

 一見すると病院にも見えなくもないが、かび臭くて死臭の薫るこの場所は誰がどう見ても牢屋にしか見えない。



(えっと、戦場で意識を失う前に……エアリスちゃんに拾われた……よね?)



 何となく仲間に救われたことを覚えているマリだが、なぜ自分がここにいるのか全く分からない。

 ただこの場所に長居してはならないのは確かだ。

 マリは酷い倦怠感と頭痛に顔を顰めながら簡素なベッドから立ち上がると、ふらふらと鉄格子の方へ歩いていく。

 そしてマリが鉄格子の扉に手を触れようとした瞬間、音もなく外側から扉が開かれた。



「え……むぐぅ!?」



 外側から伸びてきた誰かに引き吊り出されたマリは口を塞がれた状態で廊下の物陰に連れ込まれてしまう。

 慌てて悲鳴をあげて暴れるマリの耳元で聞き覚えのある声が届く。



「ちょっ、俺だ、ガンマだっての……! 頼むから静かにしてくれ」


(ガンマさん!?)



 マリが恐る恐る顔を確認すると確かにその男は仲間であるガンマだった。

 マリが大人しくなったのをみると、ガンマは拘束を解いて自分の唇に人差し指を置く。



「ちょっと、びっくりしたじゃないですか!」


「悪かったって、あともう少し声量抑えてくれ……!」



 拘束を解かれたマリが頬を膨らませて抗議すると、ガンマとその背後にいた薫が周囲を気にする。

 まるで誰かに追われているような雰囲気だ。



「あの……ここは?」


「さあね。俺らが知りたいわ。分かってるのは誰かに浚われ、ここにぶち込まれたってことだけ」



 不安そうに尋ねるマリの問いに薫が素っ気なく事実を答えると、誘拐という予想外な出来事にマリは泣きそうな表情を浮かべた。



「そんな……あっ、そうだ! 信ちゃんは!?」


「静かに……! 信太郎はここにはいなさそうだ。とにかくここから出よう。幸いにも俺には秘密兵器がある。こいつを使えば楽に逃げられそうだ」



 ガンマはローブの中から妙なペンダントを出すと、それをマリに差し出した。




 ◇


「これ凄い魔道具ですね……」


「だろ? あの錬金術師と交渉して一個だけ売ってもらえたんだ」



 月明りに照らされた石廊下をマリ達は堂々と出歩いていた。

 途中で何人ものならず者とすれ違ったが、誰もマリ達に気づいていない様子だ。

 全てはガンマが錬金術師から購入した魔道具『透明ペンダント』の効果である。

 簡単にいうと魔力を注いでいる間だけ透明になれる魔道具だ。

 この魔道具のおかげでマリ達は見つからずに施設内を探索し、出口を探していた。



 先ほどから武器や食料などを運び込む男達や、他国の兵士が頻繁に出入りしていることから何らかの軍事施設だとガンマは推察していた。

 ようやく出口らしき門を見つけた時、ある事に気づいた薫がガンマの耳元で呟いた。



「おい、ガンマ。あそこの連中、聖王国の僧侶たちだぞ」


「……それ、マジか?」


「ああ、空見の奴が聖王国の聖騎士に勧誘されたことがある。その時に見てたからな、間違いない」


「よし、隠れてついて行こう。少しでもヤバいと思ったら離れて俺の千里眼で行先だけ確認する。二人とも、それでいいか?」



 ガンマの提案にマリと薫は無言で頷いた。


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