カレの大皿のパスタ

宇佐美真里

カレの大皿のパスタ

「さて…と、やりますか…」

エンドロールが流れ始めると、カレはそう言って立ち上がった。

もう二人で何回も…いや何十回も観てきた映画。

この映画を観ると必ずカレが作ってくれる料理がある。


ミートボール・パスタ。


大皿に山の様に盛ったパスタの上に、これまたゴロゴロとミートボールが乗せられる。

映画の中にある、大皿に盛られたそれを主人公二人が取り合うシーン。

そのシーンを真似て、大皿からワタシたちもそれを食べるのが、いつものお決まり。


「バジルソースはドコだっけ???」冷蔵庫を開けながらカレが訊く。

「扉の裏…。ドレッシングの並び…」流れっ放しのエンドロールを見るともなく見ながらワタシは答える。ミートボールのパスタはカレの担当。ワタシは手を出してはならない。それぞれに担当のメニューがあり、そのメニューの際には互いに手を出さない…それがワタシたちのルールだ。


カレのミートボールは、牛ひき肉にバジルソースを混ぜて捏ねる…ただそれだけ。ツナギはナニも使わない。

以前、鍋に鶏肉団子を入れたトキ、ツナギとして豆腐をひき肉に混ぜていたらカレは言った。

「マガイモノが入ってる…」と。チョット面倒くさいオトコだったりするカレ…。


ミートボールにツナギを入れない代わりに、ソースにはニンジンとタマネギがたっぷりと入れられる。

ほんのり…ほんのちょっとだけ甘いトマトソースの味つけをカレは教えてくれない。「門外不出だよ…」とカレは言っているが、ワタシはその秘密を知っている。料理の後のシンクに甜面醤のついたスプーンが転がっていたのをワタシは洗い物の手伝いをしていて気付いてしまった。でも、それを知っているのは秘密だ。チョットだけヌケていたりするカレ…。


タタタタタ…とタマネギ、ニンジンをみじん切りにする音がキッチンに響く。

ひき肉にバジルソースをなじませる間にみじん切りをたっぷり用意。

タタタタタ…タタタタタ…。かなりの量のみじん切りが出来上がる。

みじん切りを終えると、手際よく鍋に水を張り湯を沸かす。

その間にバジルソースを馴染ませたひき肉をひとつずつ大きめに丸めている。

ミートボールは大きめでないとイケナイ…らしい。

それがカレのコダワリ…。コダワリの多いトコロもチョット面倒くさい。


ミートボールを丸め終わり、いよいよフライパンに投入。たっぷりめのオリーブオイルで揚げる様に表面を焦がしていく。

うぅん…。いいニオイがキッチンに立ち込める。頃合いを見計らってミートボールがバットに陸揚げされる。

代わりにみじん切りをフライパンで炒め始める。

そしてトマト缶を開け、フライパンに投入。更にコンソメスープも加えられジャーッと炒める音がひと際大きくなる。

白ワインをひと振りし、蓋をして香づけしながら煮込んでいく。

そのタイミングで隣のコンロで沸騰している鍋にいよいよパスタが入れられる。

パスタの量は三人前。二人しか居ないのに三人前…。大皿に大盛りだから三人前。


しばらく煮込んだフライパンに塩と胡椒で味を調えた後…、

脇で見ているワタシは「ちょっとトイレに…」とキッチンを後にする。

これはワタシの気遣いだ。その間にコソコソとカレが甜面醤の瓶を開けスプーンで一杯。

このタイミングで、いつもワタシが席を外すコトにカレは気づいていない…。

チョットだけヌケていたりするカレ…。いつも同じタイミングなのだケド…。


そしてクライマックス。

バットに陸揚げされていたミートボールが再投入され、ソースを絡めていく。

キッチンタイマーのピピピ…という音と共に鍋からフライパンにパスタの大移動。

パスタの量は三人前。ソースを絡めるのもひと苦労だ…。


カレがミートボールを崩さない様に優しくトングでソースに絡めている脇で

ワタシは大皿を準備する。

盛り付けて遂に完成。

大皿に山になったパスタとミートボール。見た目もニオイもバッチリだ。


食卓に運び、いよいよイベントがスタート。

二人してふざけながら奪い合うパスタ。頬張るミートボール…。

「ははは。そのまま鏡を見て来なよ…」と笑うカレ。

昔は「口にソースがついてるよ…」と拭ってくれたンだけどなぁ…。

「そういう自分だって!」とワタシはカレの口元を指で拭い、その指をひと舐めした。


ほんのり…ほんのちょっとだけ甘いトマトソース…。

もう二人で何回も…いや何十回も食べてきたパスタ。

やっぱりワタシ…カレのミートボール・パスタがずっと好き。



-了-

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