世界を救う唄─光と闇─

神様たちは理想の星を作ろうとしていました。

しかし、いくら作ってもなかなかうまくいきません。

神様たちも一つの星にだけに関わってはいられないのです。

そこで神様たちは「人間」を作り出し、その生命に叡智を授け、神様の代わりに星を管理させることを思いつきました。

この星の運行と生命力を正しく機能させる塔

その塔の管理を神様たちの代わりに扱える少女に歌を授けました。

そして神様を崇め、この塔を維持するために神の代わりにこの世界に伝える教会が生まれました。

こうしてこの世界は神様に祝福され、今も人々は幸せに暮らしているのです。


…………。

………。

……。

それはお伽話。

子供の絵本のお話し。

神様の素晴らしさを伝えるための。

教会の大切な役目を伝えるための。

しかし、真実はそうではなかった。

この星は神々に見捨てられたのだ。

最低限、この星を維持できる「理を司る塔」と「命の巫女」「世界統一教会」と神に仇なした「闇の御子」を残して。


神が海と大地を作り出し、様々な生命が誕生した。

そして最後に、この世界を管理する人間と光の巫女を生み出した。

世界は光と祝福に包まれ、神もようやく理想の世界を作り上げられた。


はずだった。


光がある所に必ず闇があった。

この星の闇。

人間の心には正と負が宿っていたのだ。

神々が求めたのは正の心のみ。闇の感情は不必要だったが、人はそれを心に秘めていた。

神々は負の感情を人間から消し去るには、どうすればいいか考えた。

結果。人柱を生み出した。

人々の負の感情を一身に受ける人間を作り出し、その人間を隔離する。

それが「闇の御子」

確かにその方法は上手くいった。

人々の心は歓喜に満ち溢れ、神々を讃える声だけが世界に響き渡った。


──神々の誤算は、闇が大きくなりすぎた事。


闇の御子から溢れ出た闇は、人々に仇なす異形となって光を求める様に世界に溢れ出した。

そしてまた神々は考える。

将来この星が滅びる未来までの負の感情を押し付け、異空間に葬り去る。

それが答えだった。

しかし、溢れ出た闇は人々を襲っている。

神々はその力を抑えるべく神器を作り出した。

それは一つの楽器。闇の心を鎮め霧散させ、力を弱める。

そして人間を襲えなくなるくらい弱らせてから異空間に移す。

闇を浄化し、光を讃えることのできる神々が作り出した楽器。

その楽器と光の巫女の聖なる歌。この二つが合わさり、ようやく闇はその活動を止めた。

しかし神々にも誤算があった。

楽器の使い手は、あまりにも清らかな心を持ちすぎていた。

その透明無垢な心故に闇に触れ、闇の御子の絶望に観てしまったのだ。


──なぜ私だけ?

──私も一人の人間として暮らしたかった。ただそれだけ。

──痛い。人々の怒りが、嫉妬が、傲慢が、物欲が、飢餓が、差別が、罪が、咎が、穢れが。

──でも、私がいなくなったら、この世界の人々が私以上の苦しみを受けることになる。

──だから私を。葬り去って。


人柱とされた少女もまた、光の巫女と同じ慈愛の心を持っていた。

世界を救いたい。その一身を。

人であれば当然、幸せになる権利がある。

しかしこれから先、闇の御子になる少女たちはそのあたり前の幸せを奪われ、塔の中の暗い、神々の作り出した墓場に閉じ込められるのだ。

これは神々が犯した罪であり、あまりにも傲慢な人間の罰だった。


楽器の使い手は、闇の御子の心に触れ、一つのメロディを奏でる。

それは本来、光の巫女が世界を救う唄を歌うための演奏。

楽器の使い手はその旋律を闇の御子に与えてしまったのだ。

それは記憶ごとの譲渡。

そのメロディを渡してしまえば楽器の使い手も、光の巫女もその旋律を思い出せなくなる。

楽器の使い手はしかし、その演奏を闇の御子に引き渡してしまったのだ。

闇の御子はメロディを口ずさむ。

完全にではない。

完璧にではない。

だが闇の御子は、そのメロディを口ずさむことによりその身にかかる負の感情を発散させることができるようになったのだ。

神々はそれを見て、人間を諦めた。

どんなに神が尽力した所で、人間は闇を振り払うことはできないと見限った。

最低限、この星を運行できるように「理りを司る塔」「光の巫女」「世界統一教会」を残し、「闇の御子」を異空間に閉じ込め、神々は新しく理想の星を作るためにこの星を見限り、去って行ったのだ。


人々が闇を受け入れ、世界を救う唄とメロディが揃わない限り、この星は壊れていく一方だ。

光の巫女が唄ったとしても、それは完全でなく延命治療でしかない。

闇だけが解放されても、神なる楽器が奏でるメロディがなければ、世界は蝕まれていく一方だ。

闇の御子を助け出し、人々のが闇を受け入れ光の巫女と神なる楽器を弾く者が現れるまで、真の平和は訪れない。

そして長い年月の間に、光の巫女の行方も分からなくなり、神なる楽器も紛失してしまった。


この世界は、少しずつ破滅へと向かっていった。


これがお伽話しの真実。

伝えられなかった神と人の罪と罰。


数えきれぬ夜を越え、少年と少女がこの世界を救う唄を奏で、人々が負の感情を受け入れ、闇の御子が解放された時にこそ、この世界は本当の意味で救われるのだ。

それはまた、別のお話し……。

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世界を救う唄 葛葉幸堂 @kackt

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