第3話素早さ特化と初世界

「ッッ・・・!」






 設定を終わらせ、ワールドに移動してきた私は、その迫力に圧倒されながらあたりを見渡す。




あたりには洋風の建物が立ち並び、ところどころにいるNPCの中にはドワーフやエルフ、亜人などがいた。その立ち姿は、始めたばかりのプレイヤーが降り立つ場所──始まりの町に相応しい。




それらの光景は自分が異世界に降り立ったかのように感じさせる。






 「私を誘った張本人の茜はどこでしょうか・・・?」






待ち合わせの時間が近づいていたのでアイリスはもう一度辺りを見回す。しかし茜らしき人物は見当たらない。




 見つけたのは『あそこの農園で、高品質のマグロを数匹収穫したから装備を新調しようぜ!』やら『野菜が敵モンスターとか聞いてないんですけど!?』などと訳の分からない事を言っていた人達ぐらいだ。




 彼らの言葉に少し疑問を持ちながらも、これで何度目か覚えていないが、改めてあたりを見回す。今いるところは町の中心部に当たるのか人通りが多く、多くのプレイヤーたちが周りを歩いていた。訳も分からない事を言っていた人たちも苦労してこのゲームを手に入れたのだろう。




 個人的にはあの人達はゲームをする前に寝たほうがいいと思うんだけど。多分。






 「・・・やはり鎌を使ってる人はそうそういませんか・・・」






 鎌を使ってる人はいないかと思い、あたりを探してみたが、使っているプレイヤーはいなかったのだ。




それもそうだろう。攻撃力アップの効果だけで考えるなら、ハンマー斧アクスの方が優れており、素早さ特化には鎌より双剣の方が相性がいいのだから。鎌を選ぶのは恐らく鎌での戦闘に憧れている者ぐらいだろう。






 ・・・鎌って結構なマイナー武器なのでしょうか・・・?  






 結果的には事実以外の何でもない事を思っていると、そんなアイリスの姿があたふたしているように見えたのか、大柄の少し派手な男性が。いや──派手そうではなく、チャラそうな感じだ。と言うよりもどこかで見たことがあるような・・・






 「君あたふたしてるけど大丈夫?」






 そう心配しながらこちらの方に歩いてきた。歩く度に彼が着込んでいる鎧がガチャガチャと音をたてる。




 ・・・ナンパではないよね? ゲームの中だし。






 「見た目からして君初心者だね。よかったら俺達が一から教えてあげようか?任せとけこう見えてもトップランカーなんだぜ」




 「いいのですか!?」




 「おおもちろん! 任せとけ!」






 そう言って、男性は胸を張る。




 人は見かけによらないものなんだな。そう思いその男性への好感度が何段階か上がった。もしかすると考えを改めないといけないのかもしれない。






 「それじゃあ・・・」






 『お願いします』と言おうとした瞬間。


それは本当に突然の出来事だった。






 「ちょっとクロム?呼んでとは言ったけど、ナンパしろとは言ってないわよ?」




「ナンパじゃ・・・イダッ!」




 その声とともに、クロムと呼ばれた男性の頭上に杖が振り下ろされる。それと同時にダメージエフェクトらしきものが表示される。






 ・・・。




 私の考えは間違ってなかったようだ。先ほどの感謝の気持ちを返してほしい。




この瞬間、彼への好感度は数段階下がり、結果として出会った時と同じ評価に戻った。




 「おまっ・・・どうやったらそんな火力が出るんだよ・・・。ここんところ不具合なのか街中でもダメージ食らうようになってるんだから、俺たちが仲間じゃなかったら俺多分死んでたぞ?あとナンパなんかしてないし。」 




「今さっきのはどう見てもナンパだよ?」




「だから違うって」






 クロムは私と同じぐらいの歳の少女にそう言い訳をするが、言い訳は聞き流され、それどころかもう一発杖での打撃を食らう。






・・・可哀想




 そう思いながらも、ナンパしたという事実があるのでクロムを冷えきった目で見ていると、クロムを撲殺しかけた少女がまるで知り合いであるかのように。






 「やっほ~! 元気してた?」




 「・・・」






 見た目は変わっているが、身長や体形、髪形や声からわかる。それはほかの誰でもない、それは私をこのゲームに誘った張本人、茜だった・・・が。






「えっと・・・どなたでしょうか?」




「は?」






それが茜であることを知った途端、悪ノリしてやろうと思ったので、私は知らない人であるかのように振る舞う。すると当たり前のこと茜は『は?』と思わず声を漏らす。






「貴方が私を誰と間違えたのかは知りませんが、少なくとも私は貴方のことは知りませんよ?」




「えっ、・・・ちょっ・・・ええ?」






アイリスとしてはこの流れをずっと続けても問題はないのだが、向こうの方はそうでは無いらしく。






「えっ、人違い?えっでも・・・ねぇほんとに私のことを知らない?」






先程からこんな感じである。まあ、当たり前であろう。アイリスも同じ目にあったらおそらく同じ状態になるだろう。アイリスはまだ続けたりないと言いたげな顔をしながら。






「ええ、去年の予防接種の注射で泣いていた人なんて知りませんよ。」




「ほらやっぱりそうじゃない! ねえ!? てかなんでその事知ってるの!?」






そう恥ずかしさのためか顔が赤くなりながらそういう。誰から聞いたかは本来は秘密にしといた方がいいのだが──否、誰から聞いたのではなく、聞こえたのだ。その時私は同じ病院にいて茜の泣き声が自分の所までいていたのだ。




・・・言いたいのはやまやまなのだが、本人のためにも言わない方がいいだろう。しかしその茜の問いを無視する訳にもいかないので。






「ひ・み・つ!」




「ああああああああぁぁぁぁぁ! ねえ!? 教えて!」






そう焦らすが、茜は辺りに響き渡るぐらいの大声でそう声を張り上げた

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素早さ特化で始めるVRMMO物語 ~時間を有効に使いたいので極振り致します~ 霜月 りんね @tubuan2238

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