第2話素早さ特化の初ログイン

「さてと・・・ログインしますか」






そう呟くと、ゴーグル越しに見えている【ログイン】と書かれた表示をそっと押す。そこには本来何もないはずなのだがものを触った感触がある。――実に不思議である。何もないはずのところで触った感触があったのだから。




 五感をすべて使い、プレイしていく。――これが人気を呼んだ所以なのだろう。その性能に感心している間にも自らの全ての意識は現実から、仮想世界へと移っていく。




 少し経つと花音の体は電子の世界に完全に降り立つ。


 目の前には現実とはかけ離れた仮想世界が広がっている・・・が。




その空間はまだゲームのワールド内ではないようで、青色がかった空間が延々に続いている。そここうけいは殺風景という表現が一番似合うだろう。――否いなや、殺風景そのものである。






「・・・? 何も起こらないですね?」






ログインしてから2分ぐらいたっただろうか。


 一向に先に進まないことに違和感を覚えてきた時だった。




『ログイン完了。プレイヤー名を設定してください』






女性の声が聞こえる。詳しく言うと、耳ではなく脳が聞いた――脳に直接話しかけているような感じだったのだ。その声と同時に、自らの前にスクリーンが浮び上がる。映画とかでよくある、空中に浮かぶパネルのようなものだ。花音はそれを前にし。






「名前か・・・何にしましょうか・・・」






髪を指でクルクルしながら、そう悩む。




在り来たりな名前にしてしまうと、間違われてしまう事や戸惑ってしまう事が起きてしまう。要するに他人に判別されにくくなってしまう。逆に変な名前にしてしまうと、印象に残るかもしれないが笑われてしまうかもしれない。




 いや――その心配はいらないかもしれない。このゲームは完全没入型で個人の体をさいげんしアバターとしているので、見た目で判断することができる・・・が。やはり名前というのは大切であり欠かせない。






『ポチ? いや、まるもね? うーんでもな・・・うーん?』






いっその事、テキトーな名前にしてしまおうか。と思うも、テキトーに名前を決める訳にはいかないので。






「うーん・・・これにしますか」






長時間にわたって悩んだ末、スクリーンに。




『アイリス』


と打ち込む。




『アイリス』とは、花の名前で花言葉は『恋のメッセージ』・『吉報』。ゲームの進みがいい結果になるようにと思い『アイリス』にしたのだ。




本当は深い意味などないのだが、かっこいいので、そういうことにしとこう。






「次は武器設定ですか」






名前を打ち込むと、先ほどと同様、頭の中でアナウンスが流れ、目の前にいくつもの武器が現れる。そこには槍や大剣、片手剣に双剣。モーニングスターやハンマーなど数十種類にもわたる武器がずらりと並んでいた。




 花音は自らにあう武器を見つけるため、説明文を読みながらじっくりと進んでいく。






・・・どのくらい見て回っただろうか。


ある武器の前でふと足を止める。






「ふーん・・・鎌ですか・・・」




目の前には、剣や弓、槍などのメジャーなものとは違い、あまり選ばれることはない、いわゆるマイナー武器の鎌があった。






装備効果で攻撃力増加があるから、攻撃力も補えるだろうしこれにしましょうか。






そう呟くと、武器に軽く触れる。




 すると鎌を覆っていた結界のようなものは青白いオーブとなって上へ上へと昇っていく。結界のようなものによるカバーが取れた鎌は、いきなり光ったかと思うと突如、青色の気体になる。何なのかと思いそれに手を伸ばした瞬間、それは花音の体内へと吸い込まれていく。




 不思議に思いながらも、それを見届けていると。






『ステータスを設定してください』






とまた、アナウンスが流れる。






 「うーん・・・痛いのは嫌だし、効率よく動きたいし・・・」






 そうブツブツ呟きながらあたりを熊のようにウロウロする。




 均等に振るのが最適である・・・のだが。それでは何かが違う気がする。花音も一応はゲーマーの端くれ。均等に振ってゲームスタートというのは何か物足りなく感じるのだ。一時は極振りしちゃおっかななどと思うとそれはそれで悩んでしまう。ゲーマーとして心は踊るのだが、ゲームを進めるのは困難になってしまう。少なくとも極振りで成功するのは、極端に難しいだろう。




 均等に振るのも極振りするのも迷う――そんな思いが頭の中を埋め尽くす。


 しかしここでずっと悩んでいたら埒らちが明かない。






「これなら攻撃も考えようによっては当たりませんし、効率的に動くことができるでしょう」






 私は少しためらいながらも、ほぼ全・て・のステータスポイントを素早さに突っ込み、残りのポイントを攻撃力に使う。いわゆる素早さ特化である。




 これなら大丈夫だろう。素早さに大半のポイントを振れば早く動け、回避も簡単になる。そして攻撃力に少し振ることで素早さ極振りするときにおこる火力の問題は解決できるだろう。となると防御力も最低レベル、幸運値も最低レベルと、なかなかなものなのだが、花音が使う武器は鎌ということで幸運値はそれ程関係なく、素早さ特化なので避け専門でいけば防御力も関係ないのである。






その後もゲーム内でも胸を大きくすることは出来ないという真実や、身長を高くできないという真実に涙目になったりと色々あり、ようやく全ての設定を終わらせると。






『全ての設定が完了しました。ワールドにログインします』




そうアナウンスが流れるのと共に、自分の体が粒子となってワールドへと移動していく。














『ユニークスキル【影の支配者】を手に入れました』






 「?」






 その瞬間、そう聞こえたような気がした。


 今までのアナウンスとは違う声で。


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