魔術師外伝 鬼灯の先駆け

 魔法が普及して間もなくの頃、使用できるのはエレメントを持つ一部の人間のみだった。使いたくても使えないそんな多くの人々が肩を落としたそんな折、一人のエレメントを持つ人間が学校を開く。そこは魔力のみで魔法が使える講師が教える新しい機関。そこで創設者は新しく講師が使用する魔法の事を正式に『魔術』と呼んだ。


「あ〜もう!

早く起きたのに何でギリギリかね!」


朝の街道を慌てる女バイラル・シュー 18歳のうら若き彼女が向かう先は学校じゃない、いずれ学校に携わる為に必要な試験の会場だ。


「はい間に合った!」「お名前を。」


「バイラル・シューです!」「はい」

冷静な受付の女性に試験証を見せ、会場に。小学校の体育館を改まった形に白々しく改装させたような会場には自身も入れて20名余りの受講者がいた。


「嘘、こんなにいるの⁉︎


思ったより人気あったんだ。」

面倒な競争に巻き込まれたくなかった彼女は見栄を張った知り合いが目を付けないであろう魔術講師の試験を受講したのだが、予想外の人だかりに少しばかり狼狽えている。


「え〜君たちはこれから多くの生徒を抱え魔術を教える事になるかもしれない。その為に先ずは、どれだけの魔力があるかを見ておきたい。」


「見ておくったって..どうやるの?」


「ここに人数分の杖がある。一人一本ずつ手に取って指示した魔術を放って見てほしい。コツは各々教える。」


「杖..結構重いわね、これ」


講師希望の人々はいわゆる混正であり

純正のように魔術を放つには杖などを媒介としイメージを広げる必要がある

炎なら熱く滾るように、水なら流れ弾けるようにとエレメントを構築する。


「いいか?

この杖をフィルターとしていかに近付ける事が出来るかだ。早速誰かにやって貰おう、そうだな..そこの桃色髪」


「私?」「前に出てやってみろ。」


「いきなりトップバッターですか..ていうか桃色髪って、そこ指摘する?」

生まれつきの派手髪を名前のように扱われ呼ばれた挙句に皆の見本となれというらしい、野蛮な話だ。


「まずはポピュラーなフレイムからだ威力は何でもいい、打ってみてくれ。イメージは、熱く..燃えるようにだ」


「熱く燃えるように...漠然とし過ぎ」

具体的なやり方がわからないので、杖を強く握り、頭に昨日食べたラーメンの器を思い浮かべた。


「う〜…はっ!」「うおっ!」

適当なイメージであったが以外にも杖からは上質な炎が噴き上げた。ラーメンが余程熱かったのだろう。


「今〝うおっ!〟って言った?」


「上出来だ、威力に変換すれば中くらいにはなるんじゃないか。いや大か」


「言ったよね今うおっ!て」


「言ってない」「言った絶対言った!」

感心する試験官よりも魔術の腕に長けていた己の技量に驚いた。


「結構いけたよね私あれ?

もしや才能があるかも、私凄いかも」


「はい次、隣の黄色髪。」「はい!」


「髪の色気になるのね、あなた」


「雷の魔術ライトニング!」「はい」

イメージは大きく、痺れるように。


「とりゃ!」「うひぃっ!」


「今〝うひぃっ!〟って言った?」

バイラルに続く受講者も卒なくこなし且つ高威力を叩き出した。


「中々やるな、威力に変換すれば小を超えた中、いや大か」


「さっきと言ってること一緒じゃん」


「....うるさい。」


「何イラッとしてんのよ?

うひぃっ!とか言ってたクセに」


「言ってない。」


「言ってたじゃん、今思ったより雷が出てうひぃっ!って言ってたじゃん」


「だから言ってないから。」


「頑な、すごい頑なあの人何あの人」


試験官は心臓にエレメントを宿すが凄まじく衝撃に弱い。なのに言葉で攻められたときのメンタルが異常に強い。


「次。」「あ、誤魔化したアイツ」


「うるさい。」


「一点張りじゃん、それの」


「うるさい。」「ボキャブラ少な。」


試験官は言葉で攻められたときの受け身は強靭だが攻撃が弱い。なので無視しがちという殊勝な勝ち方をする。


「水の魔術、イメージは清らかで流動的な水流を思い浮かべるといい。」


「はっ!」「じぃっ!」


「...うま、すぐ出た清らかな水流。」


元々高い魔力を持つ者の集まりだからだろうか、魔術の放出がすこぶる上手い。試験官として有意に立てると思った試験官は罰が悪く少ししょぼくれた顔で下を向き始めてしまった。


「..グスン。」「泣かないでよ」


「だってみんな上手いんだもん。..俺試験官なのに、立場無いじゃん」


「めんどくさいコイツ、純正なのに」


暫く泣いて、杖の試験を一通り行い、涙も枯れた頃、次の試験に移るべく勝手に準備をし始めた。後片付けと二次試験目準備の前に『泣き止み待ち』という謎のストロークが挟まれた。


「..コホン、では気を取り直して。

箱の中身はホワイ?ウィザード〜!」


「不安定なのあの人、さっきまでめちゃくちゃ泣いてたのに。」

嘘のように高らかに声を上げる様は狂気すら覚える。人はめげるとこうなる


「え〜ただいまここに、横に並んだ五つの箱があります。その中からランダムに飛び出す召喚獣ムササビくん達のエレメントを即座に判断し、弱点属の魔術を放ってください。失敗は減点、誤ってムササビくんを殺してしまったらおじさん震える程泣くので気をつけてください。ホント泣くんで。」

先週部屋の隅で小さく死んでいるムササビくんを見つけてむせび泣いたばかりなので涙腺は酷く脆い。きっかけ一つで崩壊は目前となるだろう。


「皆さんは丁度20人いるので四人で分かれて縦の列を五作れば効率良いね」


「効率とか言わないで。

なんかすごい冷めるわ」 「ごめん。」

エンターテイメント性を出したつもりが根の真面目が現れてしまった。言葉を選ぶよりフランクな姿勢を保っておくべきだった。


「それでは開始っ!」「いきなり⁉︎」


箱を突き破りムササビが顔を出す。

エレメントが火なら赤、水なら青、木ならば緑、雷なら黄色の首飾りを付けている。縦に列をつくり、一人ずつ目の前の箱のムササビに正しい魔術を当てていくのだが、いかんせんムササビは動きが早い。容易には当たらず正式な判断も難しい。


..と、思っていたが


「...グスン。」


これが規格外に上手かった。受講者はバイラルを含め一度もミスする事なく全てのムササビに、正しい魔術を打ち込んだ。みんな『何が大変なの?』と、言いたげだ。


「寝ずに凄い考えたのに..」


「なんで落ち込んでるのよ、いいじゃん別に。ムササビみんな生きてるし」


「それは良かったけど。」


「あ、それは良かったんだ」「うん」

正直受講者を舐めていた為試験の仕様がガタガタなのだが、必死に考えた末の結果らしい。


「思ってたのと違うな、もうちょっと堅苦しい事するのかと思ってた。」

正直にいえば、魔術講師は充分な魔力が備わっていればあとは知識と度量で行える。試験といっても初めの魔力検査で大方は済んでしまっているのだ


「はい、じゃあもういいです。

皆さんに知識を配ります。ムササビくん達、例のあれ、持ってきて」


「もうおざなりになってるじゃない。何あれって、もう泣かないでよ?」

 技能が余りにも飛び跳ねていたので知識の試験に移行する。ムササビに頼んだのは〝例のあれ〟という事だが、知識に関連したモノだとすれば魔術書などの書物や情報源だろうか?


「有難うムササビくん。

君達には、これをどうにかして貰う」


「それって...」

両手一杯に包まれた柔らかな丸みと鋭いクチバシ、赤いトサカが良く目立つ


「ニワトリ!?」「そうだ。」


「そんなもの何に使うのよ!」


「今からこれを、この会場外の敷地内に離す。それを追いかけて、無事捕まえる事が出来たなら合格だ。」


「知識と何が関係あるんですか?」


「まぁやればわかる、捕まえたらな」


「あれだけ説明してたのに、突然当たって砕けろって訳?」


「これを捕まえれば合格だ。」


「今何て言った?」

学校を模したコンクリの道に、一斉にニワトリが放たれる。校内の通路を、脱走した鳥が駆け回る。


「なんなのよこれ..」

血相をかいて鳥を追い掛ける様は、とても魔術師だとは思えない。これ程までに『やらされている』光景は無い。


「飛んだりしないわよね?」

 既存の鶏ならそれはあり得ないが、ムササビの友達ならば警戒がいる。そもそもムササビがモモンガとの違いが余り無い。隣り合っても区別が付かない


「モモンガ〜..じゃないやニワトリ〜ダメだ全然いないよ、何処にいる?」


「コケコ!」「いた!」

鳴き声を途中で中断するタイプのニワトリがきょとんとした丸い目をぐるぐるとさせてこちらを見ている。


「動かないでね〜..じっとしてて..」


「コッケ!」「うわっ!」

警戒しているのか大きく鳴き上げ羽をバタつかせる。一瞬戸惑うも此方も負けじと一歩踏み込み腕を構える。


「逃げるな!」「コッケ!」

すんでのところで腕から逸れ、避けられてしまう。


「あ〜ん、なんでよー..。」


「滑稽!」「え、コッケイ?」

鳴き声が薄ら笑いに聞こえる。心なしかトサカの張りが増した気がする。


「絶対逃さんっ!」「綺麗!」「え...?..ちょっと、やめてよ..。」

アメに滅法弱い。褒められ慣れていないバックボーンが仇となった。


「飛べないくせに揶揄わないでよ!」


「コケッー!」「何よ!」

ニワトリの逆鱗に触れた、しかしそれが功を制し開いた距離がぐんぐんと縮まった。怒りは以前より増しているが


「コーケッコ!」「来なさい!」

覚悟を決めて対峙するが、ニワトリは身体を飛び越えて別の方向へ走っていった。役割をわかっている。自身は向かうでは無く逃げる者、容易にクチバシを立てて威嚇などしない。


「ちょっと!どのいくのよ!」


「コケコケコケコケコケコケコ!」

やはり声は中断足は止めず、通路を不規則に走り回る。


「待ちなさーい!」「コケコー!」


彼女は何故、こんな事をしているのだろうか。16歳の頃は成績も良く、充分に余裕のある女だった。しかし18歳の頃信頼していた女が偉そうな事を言ってきた。

『お前って普通だね』という言葉、人より親切なだけ、そつなくこなせる人間を無個性とでもいいたげだ


「どこまでいくの?」「コケ!」

だからこそ変わった事を選んだ。内心気にしていたのかもしれない。誰も目指さなかった魔術講師に。


「コケコ!」「もう止まって..」


鳥を追い掛け走っていると、成金の庭園のような大きな広間に出た。疲労に足をやられているのに、走る為に作られたであろう場所に辿り着く。


「..やってやろうじゃない、早く逃げなさいよ。追いかけてやるから!」


「コケコ〜!」


逃げる鳥追う女、逃げる鳥追う女....。

鳴いては跳ねを繰り返し、体力も限界に近付いた頃、生意気なニワトリが突如足を止め走るのをやめた。


「...え、どした急に?」

疲労が訪れたのか、広間に置かれたベンチの前で立ち止まり、動かない。


「なんで...あ、ちょっとやめな!」

悪戯にクチバシを動かし、ベンチに座る人物にちょっかいを出そうとする。


「コケ〜..?」


「ダメでしょ、関係無いんだから!」


「テキストバードですか。」「え?」

此方を見ずに、読んでいる本のページをめくりながらぼそりと呟く青年。魔術師では無さそうだが見覚えはない


「魔術講師試験の受講者ですか?」


「うん、そうだけど。」


「テキストバードは情報や知識を保存して蓄える事が出来ます。それは触れると吸収し受け取る事が出来る。ここで僕に掴まれれば貴方は失格ですね」


「知識を保存できる⁉︎

分厚い魔術の本が何かを保存したんだだからそれを捕まえろって..。」

がっしりと腕で肌に触れる事で、腹筋から情報を伝達させ脳に直接流し込む


「あなた、多分魔法使いじゃ無い。

魔法の知識を得たいとは思わない?」


「そうですね。

〝参考までには〟ですかね、知識なら本を読む方が早く会得出来るので」


「変わってる人。」


「なら貴方が情報をくれますか?」


「..え?」「講師になるんですよね」


「うん、なるよ。今すぐに」

両手でがっしりとニワトリを包む。保存された情報が脳に流れ込み、容量を大幅に増やしていく。


「ふぅ、重たっ..」「初めまして。」


「あなたは何者?」


「バリー・キャスリン、探偵ですよ」


こうして私は、講師になった。結局全員合格したみたいだけど、バラバラの地域に散らされたから今は知らない。試験中もそれ程話さなかったし。


「残ったのはあなただけ」


「何の話ですか?」「昔話。」


仲は言う程良くない、深くは知らない。


「今度はどこ行くの?」


「教えませんし行きません」「えー」

だけど一番近くにいる、そんな人。

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魔法使いが犯人みたいです。『魔力0探偵の趣味推理』 アリエッティ @56513

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