206話 世界を救った神々【完結】

 【世界を救った神々】


 その地に住まう者達にとって、誰しもが一度は必ず聞いた事のある物語だ。


 ある時は祖父母から、ある時は絵本から、ある時は歴史の授業からと――一生の内に必ずと言っていい程、何度も良く耳にする有名な物語なのである。


 その絵本を手に取り、少年は母親に読んでと強請ねだる。


「また、このお話?」


「うん!ママ読んで!!」


 目をキラキラとさせながら見つめてくる息子を前に、母親はしょうがないわねと言うと、息子を膝の上に乗せて物語を読み始めた。


「昔々、魔人達が世界を支配していた時代、人類は絶滅の危機に瀕していました。魔人王率いる魔人軍は世界各地に砦を作り、捕らえた人々を奴隷のように扱っていました。助けようにも人類には同族を救う手立てがありません。自分たちで身を固め合い、苛烈な猛攻を繰り広げる魔人軍に抵抗するだけで精一杯だったのです。そんな時――」


「うんうん!」


「深い傷を負った仲間を癒す為、薬の材料が必要となった少女――後に【魔女】と呼ばれる少女――は、薬草の生える森へと向かうと、悪い魔人達に見つかり、襲われてしまいました。もう駄目だと思ったその時――主神様が登場し、悪い魔人をあっという間に


 絵本と違う言葉で話す母親に、少年は思わず不満げに注意をする。


「ママ、口が悪いよ。ここには倒したって書いてあるよ」


「ウフフ…。ごめんなさいね。ママ、魔人にあまりいい思い出がなくて――つい、ね?」


 少年の不満げな視線を前に、母親はおっとりとした表情で謝ると話を再開する。


「救われた少女は、主神様を最後の砦ラストフォートへ案内すると、人類の勢力図をあっという間に変化させました。主神は傷ついた人々には癒しを、飢えた人々には食料を、力のない人々には武具を、攻められた際には、その絶対的な力を指し示し、不安に包まれていた人々の心に安心感を分け与えました」


「凄い!!」


「その間、別々の地点で活動していた女神様達は、魔人王の砦を破壊しながら奴隷として囚われていた人々に、自由を分け与えていました。変身したその巨体をもって、魔人王の配下である多くの魔人達を!」


「むう!また口が悪くなってるよ、ママ」


「ウフフ…。ごめんなさい」


 不満げな少年の頭を撫でて、母親は話を再開する。


「女神様達と合流した主神様は、遂に悪の元凶である魔人王を倒すことにしました。戦える人々を先導し、転移魔法で敵の本拠地を攻め込むと、その圧倒的な力をもって――人類を誰一人として通さなかった城門を破壊しました。迫りくる魔人達をその卓越した刀捌きで次々と倒し、戦闘で傷ついた人達を即座に癒し、多くの付与魔法で絶大な力を手に入れた人間達を先導したのです。特に、人間に味方する魔人達は大いに活躍しました。最も凄かったのは【将軍】です。その超人的な膂力をもって巨大な大剣を振り回し、次々と魔人達を薙ぎ払っていきました。【熾天使】はその身に溢れんばかりの魔力をもって、悪い魔人達に捌きの鉄槌を下し、【暗殺者】はその卓越した身体能力で、次々と司令官達を倒し、敵を混乱の渦につき落としたのです」


「すげぇー」


「そして主神様は、を倒すと、人質に囚われていたを救出し、世界に平和を取り戻しました。後にこの戦いを聖戦と呼び、人類は新たな西暦――【神西暦】を作り新たな一歩を歩み始めたのです」


「むぅ。やっぱりママ、魔人に恨み持ちすぎだよ。絵本通りに喋ってよ」


「ごめんなさい…。こればかりはどうしてもね?」


 絵本のページをめくり、母親は話の続きを読み聞かせる。


「そして暇さえあれば、この世界にちょくちょく遊びに来ていた主神様だったのですが、御祖父様ウイリアムが死に、御父様グレン御母様しぐれが息を引き取った時、未練の無くなった主神様は、この世界に滞在することを決意しました。主神様は、この世界で生きることを決意し、多くの人々を救っていったのですが、1つだけ問題がありました――それは夫婦関係です」


「ん?」


「女神様達が全員身籠り、禁欲の日々を過ごしていた主神様は、隙あらば誘惑してくる最愛の妹に、理性で日々耐えていたのですが、【神殺し】と呼ばれる――神でさえも酔ってしまうお酒を飲ませられた主神様は、理性が崩壊し遂に妹に手を出してしまったのです。その結果、夫婦喧嘩が起こり、最愛の妹は【禁忌の女神】などと呼ばれるようになります」


「え?そ、そんな話何処にも――」


「あ、ちなみにこの神殺し、魔女と秘密裏に作ったからバレる事は無かったのですが、魔女にも手を出してしまった主神様は、暫く嫁達に無視をされてしまっていたとかなんとか。あと、元気な子供を産んだ【禁忌の女神】と【魔女】は、今でも親友だそうです――はい、おしまい」


 聞いた事のない話で混乱する息子を横目に、母親は絵本を閉じると読み聞かせを終了した。


「パパは今、神殿で大勢の人々のお祈りを受けている時間だから、終わったら会いに行きましょうね?――真夜シンヤ


「うん!」


 絵本に登場する――主神様の姿と瓜二つの姿をした少年は、その背に生える黒い翼をバタつかせながら元気よく返事をすると、母親に頭を優しく撫でられるのだった。



 ☆★☆★


 読者の皆様へ:ここまでご愛読いただき誠にありがとうございます。これにて番外編完結となります。閑話や後日談などの短話、暫く後になると思いますが、需要があれば更新していきたいと思います。

 次回作の参考にさせていただきたいので、良かった点や悪かった点などコメントして頂けると嬉しいです。改善して次に活かします!

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黒騎士の叛逆記~魔人になったので復讐します アルタイル @ALTAIR41

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