本作はタイトル通り合気道の達人として知られる塩田剛三氏が戦時中にドイツに渡り透明人間たちと戦うお話です。
合気道の使い手VS透明人間というマッチメークはインパクト抜群ながら若干出オチ感もあるかなと思ったりもしたのですが、第二章『ハンス・ユンゲの手記(4)』まで読んだところで、唸らされました。
センセイ・シオタの合気によって透明人間が可視化されるあのシーンはちょっと他に類を見ないような画期的な描写であるように思います。何よりセンセイ・シオタの四方投げが大変美しい。作品よりも先にこのレビューを読まれた方は、まずはだまされたと思って第二章『ハンス・ユンゲの手記(4)』まで読んでいただければと思います。
さて、透明人間との戦いの果てに、センセイ・シオタは格闘技に熟達した透明人間と対峙することになります。この人物との戦いも実に読み応えがあるのですが、やはりここでも鍵となるのは、透明人間はいかにして可視化されるのか、そのロジックです。こちらについては多くを語りませんので、是非、実際に読んで確かめていただければと思います。
通読して思うのは、塩田剛三氏の対戦相手として、透明人間と言うのはこの上ないマッチメークであるように思います。単に技法だけの話ではなく、第四章の最後で語られる顛末や、それから塩田氏にとって合気道で一番強い技は「自分を殺しに来た相手と友達になること」だということを踏まえて、そのように思います。
その他、(おそらく)トラウデル・ユンゲにちなんでの『ヒトラー 最期の12日間』のパロディ、センセイ・ウエシバの銃にまつわるエピソード、さながら塩田氏の多人数取り演武のようなシーン等々、細かいネタも満載で、コンパクトながら大変面白い作品でした。
タイトルで面白そう! と思った方は、その直感を信じて是非是非読んでみてください。
江戸川乱歩の『電人M』か『怪盗二十面相』か。はたまた『名探偵ホームズ』や『怪盗ルパン』といった、小学生の頃にポプラ社の児童書を読み漁っていた私には当時のワクワク感がよみがえってきました。
しかも合気道の達人vs透明人間というぶっ飛んだ対決! もう大人向けだか子供向けだか分からない梧桐ワールドに引き込まれてしまいます。
もちろんクライマックスは最初から怪物との対決シーンだと分かってはいるものの、そこへ至るまでの展開も上手い。書簡体小説なのに徐々に勢いを増す筆力! アクションシーンではハラハラドキドキ(ポプラ風表記)で読む手が止まりません。達人が窮地に割って入る登場シーンには格好良過ぎて痺れました。何度も言いますが、これ書簡体小説なんですよね。
また飄々とした塩田剛三の人柄も史実をよく調べておられます。格闘技ファン(私は詳しくないのですが)なら誰もがニヤリとしてしまうラスト。かつて冒険小説の虜になった大人達にもお勧めできる作品です。