ⅩⅣ 路地裏 下
それは、一枚の写真だった。
男が連れ去った女。
彼女も知らないであろう第三者に撮られた横顔、今確かに彼の家にいる女の写真。
「この子、
内ポケットにしまい込んで、見ない振りをして、きっと忘れてたかった写真。
何故それを、とでも言いたげな黒髪の男を一瞥して。
「オレ、手癖悪いッスから」
ヒラヒラと写真を翳しながら、男は言った。
「気に食わないッス。旦那は気づいてないかもしれないッスけど、あの子と出会ってからッスかね、旦那の表情って変わったんスよ」
旦那とはそれなりに長い付き合いだから分かるッス。
表情が乏しくても、一喜一憂してるのが。
一体何がアンタをそうさせたのかと思ったら…この子が原因だったんスね。
投げられた写真は空中で何度か翻ったあと、かさりと音を立てて地面に落ちた。
オレはアンタを思って言ってるんスよ。
上の命令に背いたらどうなるか、よおく分かってるはずッス。
……。
黒髪の男は無表情だった。
見据える目は今度こそ何を考えているのか読み取れなかった。
何も言わない相手に痺れを切らした男は、ひとつ、これみよがしにため息をついて、前を向き歩き出した。
黒髪の男は立ち止まったまま、じっと白い月を見ていた。
そうしていくらか時間が経った時、そこには赤い瞳が二つただ存在していた。
限りなく新月に近い、細い三日月の夜だった。
悪魔が降りた夜 探目あとり @SagumeAtori
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